Chapter 8-3

 『眼』を使って黄泉よみを追う。

 すると、彼の居場所として割り出されたのは、彼と刃を交えた廃工場だった。


「あそこか……! 急ぐぜ」


 京太きょうた紗悠里さゆりなつめ草薙くさなぎと頷き合い、駆け出した。


 道中、草薙が彼奴の情報をくれた。


「ブラスト。『黒翼機関こくよくきかん』のエキスパートの一人だ。エキスパートというのは幹部のようなものだ。ヤツらの王、ロキから力を授かった者たち。その力は一人で数千の『魔』に匹敵するという。それは君も身を以て味わったことだろう。ああ、味わったとも。ヤツの格闘術は達人の域だが、恐ろしいのはそこではない。ヤツの操る電撃は魔法魔術の類ではない。君ほどの耐性があっても大きなダメージを負ったのはそのためだ。そしてもう一人。エキスパートのブリーズ。ブラストとバディを組むことが多い女だ。ブラストがここまで大胆な行動を取るからには、あの女と行動をともにしているとみて間違いないだろう。ああ、間違いないとも」

「そうか、お仲間がいやがるのか……!」


 ならばなおさら急がねば。そらの身が危ない。


「草薙の旦那、そいつら、なんの目的でここに?」

「ヤツが今、姿を現した理由はわからん。ヤツに与えられた任務が隠密なのは明らかだからだ。ああ、明らかだとも。ヤツはこの街に『ラグナロク』を流布している。ヤツ――いや、『黒翼機関』としては『ラグナロク』を用いてこの街を裏から支配しようとしていたはずだ。だからこそ、ヤツがわざわざ姿を現して『ラグナロク』の存在を明らかにした理由はまだわからん」


 新型違法ドラッグ『ラグナロク』。草薙の説明によれば、彼奴らの王・ロキの血から作られたというこのクスリは、非常に高い中毒性と依存性を持つ。しかしこのクスリ最大の特徴は、ロキに連なる力の持ち主の傀儡と化してしまうという点だった。簡単に言うなれば、洗脳薬。


 確かにそれがあれば、この街は京太たちの知らぬ間に、彼奴らの支配下に置かれていただろう。

 しかし、ブラストはそれを成す前に姿を現した。必ずしも京太を誘い出したわけではない様子だったが、いずれにせよ、扇空寺の人間に『ラグナロク』の存在を晒すのが目的だったのは間違いない。


 答えはこの先に待つ、彼奴らに聞かねばわかるまい。

 京太たちは廃工場にたどり着く。

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