Chapter 7-3

「あーにーチャーマー!」

「京太ー、おっはよー」

「おう、空。早ぇな」


 翌朝、家を出た京太きょうたを出迎えたのは、アリスとそらの二人だった。


「あーにーチャーマー?」

「なんでお前までここにいんだよ。っていうか、お前ら知り合い?」

「んーんー、さっきここで出会ったばっか」

「ソラとワタクシ、お友達になりマシタ!」


 アリスが空の腕に抱き着き、空はドヤ顔でVサインを作る。お、おう。よかったな。


「さ、行きマショ、兄チャマ!」


 今度は京太の腕に抱き着くアリス。それを見て、空がこちらを睨んでくる。え? こういうときってアリスの方じゃねぇの?


「……ていうかお前、どういうつもりだよ」

「……なにがデス?」

「……お前、俺を殺したいんじゃねぇのか」

「……ナギサとサクラに迷惑が掛かりマスし、今は一時休戦デース。仲良くシマショ? あ・に・チャ・マ?」


 随分親しげにくっ付いてくるアリスに、京太は小声で問い詰める。

 するとアリスも声を潜めて答えた。


「なに話してるのー?」

「いや、なんでも――」

「キャー、兄チャマのエッチー!」


 アリスはきゃぴきゃぴした声を上げて、京太から離れて空に抱き着く。

 空はアリスを庇うように抱き締め、京太をジト目で睨む。


「うわぁ、引くー」

「あー、さいですか」


 などとやっている内に、昨日の路地裏に通りがかる。


「ん?」

「あ」


 と、そこで鉢合わせたのは昨日のカツアゲ三人組だった。

 傷だらけの三人組は、京太に気付くと即座に踵を返して逃げ出そうとした。


 しかしそれより早く、京太は彼らの前に立ちふさがった。


「そんな慌ててどこ行くんだよ、お前ら。つーかなんで昨日の今日でここに?」

「あ、あいつに謝ろうと思って……!」

「あん? ……ああ、昨日あれだろ、あのあと変なおっさんにボコられて説教でも喰らったか?」

「な、なんでそれを」

「そのおっさんにこいつを渡されたからだよ」


 京太は懐から封筒を取り出し、三人に見せる。

 それを見て後ろめたさが先立ったのだろう。三人はうっ、とたじろぐ。


「たまたまカツアゲできる金額じゃあねぇよなぁ。……なにがあったか話しな」


 ちょっとドスの効いた声で問い詰めてやると、簡単に洗いざらい話してくれた。

 三人いわく、あの樋野という生徒がドラッグの売人として取引しているところを偶然見かけてしまったのだという。そこで三人が思いついたのは、売り上げの一部を横流しさせようということだった。樋野は見た目が気弱なので、ちょっと脅せば簡単にいくと踏んだのだ。

 目論見通り、樋野は殴りつけて脅してやればすぐに売り上げの一部を渡すと言ってきた。それを昨日、この路地裏で受け取っていたのだ。もちろん、それが初めてではない。


「なるほどな。そういうことかよ」


 京太はスマホを取り出し、不動ふどうに電話をかける。


「不動、樋野に『眼』は付いてるか? ……よし、済まねぇがヤツの居場所を教えてくれ」


 通話を終えると、すぐに一匹のカラスが京太の前に降り立った。


「お前ら、あいつに謝りてぇんだろ。なら付いてきな。空、お前はその金髪連れて先に学校行っててくれ」

「うーっす」


 空が敬礼で応えるのを見ると、京太はカラスを促した。

 カラスは飛び上がると、京太たちを先導するように道なりに飛んでいく。京太は三人組を引き連れてカラスを追った。


 カラスを追った先には、人気のない高架があった。その下の暗がりには、よく見れば人影が見える。

 人影は二つだ。片方は昨日の男子生徒――樋野だった。もう一つはタンクトップ姿の、見覚えのない若い男だ。遭遇したのは今まさにその男が、樋野の胸倉を掴んで持ち上げている場面だった。


「樋野!!」

「あぁ? なんだてめえら」

「そいつを離しな」

「んだとクソガキ。俺が誰だかわかってんのか?」

「知るかよ。てめぇみたいなチンピラが元締めって訳じゃねぇだろ。帰って親分に伝えな。――扇空寺せんくうじのシマで好き勝手してんじゃねぇぞってよ」

「扇空寺? ……そうか、やっと釣れたか!!」


 扇空寺と聞いて、男の様子が豹変した。

 男は樋野を突き飛ばし、京太に向き直る。京太は後ろの三人に告げる。


「俺がヤツを引きつけたら、樋野を連れて逃げろ」

「え、で、でも……!」

「うるせぇ。ここにいたらお前ら、死ぬぞ」


 京太の言葉に、三人は息を吞んで頷いた。

 その様子を背中で感じ取って、京太は腰を落として構える。


 男が地面を蹴り、京太の眼前にまで迫ってきたのはそれと同時だった。

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