Chapter 2-2

 黄泉よみによって殺し合いを演じさせられた『からす』のメンバーは、未だ誰一人として目覚めてはいない。

 肉体が無事であれば、彼奴きゃつを倒せばその魂は元に戻っていくと思われたが。


「若様、よろしいでしょうか」

「ああ、いいぜ」

「失礼いたします」


 襖を開き、割烹着姿の少女が姿を見せる。


「どうだ紗悠里。ヤツらの具合は」


 少女――玖珂紗悠里くが さゆりは視線を落とし、首を左右に振る。


「いえ……。目を覚まされた方は、一人も」

「……そうか。もうしばらく様子を看てやってくれ。怪我の具合が酷けりゃ、最悪あやめを呼ぶ」

「かしこまりました」


 紗悠里は頭を下げ、襖を閉じて去っていった。


「野郎、フカしやがったか……?」


 黄泉の言動、態度がブラフだった可能性は捨てきれない。

 だがそうではないとすれば。


 京太は立ち上がり、自室を出る。

 向かうのはある男の部屋だ。


不動ふどう、いるか?」


 襖の前で呼びかけるが、返事はない。どうやらいないようだ。

 踵を返して別の場所を探すことにする。この時間に外へ出ていることはないと思うが。


 大広間。居間。台所。そういった生活スペースには不動の姿は見当たらなかった。

 あとはどこに。討ち入りのあとだ。もしかしたら――。


「不動、ここだったか」

「ええ……。先代にご報告を」


 不動がいたのは仏間だった。

 仏壇に手を合わせていた不動は、京太が現れたことで顔を上げる。

 珍しくサングラスをかけていない、素顔の不動だった。


「そうか……。討ち入りのあとはいつもそうしてんのか?」

「はい。毎回あっしから、若の仕事ぶりをお伝えしていやす」


 久しくこの男の素顔を見ていなかったなと思いつつ、京太は不動の隣に座る。


 両手を合わせて黙とうをささげる。

 先代頭領――京太の父は、京太が七歳のときに亡くなった。『魔』との戦いのなかで死んだと聞いている。


「父さ……先代は?」

「まあ、普段は飄々ひょうひょうとして、掴みどころのないお人でしたが……締めるところはしっかり締める、そんなお人でした」

「ははっ、そりゃまた、ウチの頭領らしい」

「でしょうな」


 笑い合うと、京太は口元を引き締めた。


「不動、一つ頼みがある。『眼』を使って黄泉の野郎を探してくれ」

「若……! そいつぁ、まさか……」

「ああ。せっかく報告した先代の前で恥ずかしい話だがな。首を落とさなかった俺の落ち度だ。すまねぇ」

「そんな、とんでもねぇ。わかりやした、すぐに手配しやす」

「頼む」


 心臓を貫かれた黄泉の身体はどろどろに

 それを以って、京太は彼奴を討ったと判断したが。


 現状が、その判断を誤りだったと断じていた。


 立ち上がった不動が仏間を出ていこうとする。が、その足が一瞬止まる。


「どうした?」

「ああ、いえ……。こんな状況で耳に入れるか迷ったんですが」

「構わねぇよ。言ってくれ」


 では、と不動は続ける。


「例の鷲澤が雇った忍ですが……。さっきの戦いの間、『眼』の監視から外れていたみてぇです」

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