Chapter 1-2

 ここ龍伽りゅうかは、郊外に位置するベッドタウンだ。

 その更に外れに、竹林に囲まれた大きな日本家屋があった。


 京太きょうたそらは、その門を潜る。どこからかゴムまりを突くような音が聞こえるような気がしたが、気にせず玄関を開いた。


「帰ったぜ」

「お邪魔しまーす」


 声をかけると、すぐさま強面の男たちが玄関先へぞろぞろと押しかけてくる。


「お帰りなせぇ、若。すんませんが紗悠里は手ぇ離せねぇもんで、あっしが」

「そいつぁ結構。ありがとな、不動」


 その先頭、不動と呼ばれた壮年の男に、京太は鞄を渡した。

 不動正親ふどう まさちか。黒髪オールバック、家のなかでもかけっぱなしのサングラスが特徴的な、体格のいい男である。


「いえ、恐れ入りやす。空のあねさんもようこそ。……おい、姐さんの荷物運んでやれ!」

「わー。あざーっす」


 不動は控えの強面たちへ声をかける。

 彼らが慌ただしく動くなか、不動は京太へ口伝する。


「『眼』からの報告です。鷲澤がどうも、新しい忍を雇ったようです。なにやら見かけねぇ外人さんの出入りもあるようで。それと昨日のガキどもですが、どうにも動きの怪しいヤツが一人」

「なるほどな。その忍っての、ウチに忍び込んでるようならしばらく泳がせろ。鷲澤んとこの目的が知りてぇ。外人さんってのには注意をおこたるな。んで……」


 不動の報告に、京太は間髪入れず指示を返す。

 だが、最後の指示の前に、そばに控えていた強面から大声が飛んできた。


「……どうした? なにぃ!?」


 そちらを見やれば、彼は電話口の相手に向かって驚きの声を返しているところだった。


「おい、なにがあった?」

「が、ガキどもが! ヤツらいきなり殺し合いを始めやがりやした!」


 その報告に、理解が追い付かず場の空気が一瞬固まる。


「なるほど、殺し合いねぇ。……………………はぁあ!?」

「どうなってやが……ちっ、『眼』がやられた!! 若、『魔』がいますぜ!!」


 たった一言で。

 京太たちの表情が引き締まる。全員が京太を見る。


「不動、車を出してくれ。すぐに出られるヤツはついてこい。空、お前は紗悠里の手伝いをしてやってくれ」

朔羅さくらちゃんたちには言っとく?」

「いや、こいつぁウチのシマで起きたことだ。あいつらに手間かけさす必要はねぇ」

「ラジャーりょうかーい」


 ピシッと敬礼する空に一瞬ほほ笑みかけ、京太は不動に向き直る。


「紗悠里の代わりに棗を連れてく。あの野郎どこにいやがる」

「棗なら庭でバスケやってますぜ」


 京太はバッと庭の方へ飛び出した。


「棗ぇぇぇぇぇっ!! てめぇ遊んでんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!! なんか庭でポンポンいってんなと思ったらてめぇかこらぁあああああっ!!」

「うぉわわ若!! す、すんません!!」


 そこにいた、ボールを突いていた少年の首根っこを掴んで引きずっていく。

 武藤棗むとう なつめ。ロン毛の、傷だらけの顔をした少年である。


「つか、紗悠里が動けねぇならお前が出迎えにくるもんだろうが! 不動にやらせてんじゃねぇ!」

「すす、すんません!! ……いや、でもそれこないだ、要らねぇって言ってたじゃないっすか!」

「それとこれとは話が別でぃ!」

「んなムチャクチャな!」


 不動の用意した車の助手席に棗を放り込み、京太は後部座席に座った。


「いてて……。で、なんなんすか急に」

「……不動、説明してやってくれ」

「ウス」


 走る車の道中、不動から棗に説明が入る。


「……なるほど、わかりやした。『魔』が出たってんなら、俺らの本領発揮ってことっすね。『魔法使い』の姐さん方には伝えたんすか?」

「言うわけねぇだろ。ウチのシマのいざこざで、他人様の手が借りれるかってんだ」

「へへっ、上等っすよ若。久々に腕が鳴るぜ」

「お前ホントに状況わかってる? 死人が出てるかもしんねーのよ?」

「わかってますよ! まずはその、ふざけたドンパチを止めねぇと」


 やがて車がたどり着いたのは、町外れの廃工場だった。

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