24話 天より来たりし者
爆弾がグラウンドで爆ぜると同時に、渡り廊下の天井の一部が音を立てて崩れた。
「きゃっ」
「ナスカ!」
ライナはナスカに駆け寄るがすぐ足を止めた。天井を突き破ったのは爆弾による爆風ではなく、
「来るのが遅いわよこの税金泥棒!」
ライナは護衛官たちに中指を立てる。
「ラスコーが逃げた! 一人はナスカを連れて帰って、もう一人は奴を追って!」
有無を言わさぬ剣幕でまくしたてると、ライナは走り出す。
「ライナ! どこ行くの?!」
「
ナスカは護衛官に抱えられる。ガンシップに回収されるまでの短い間、ライナの背を唇を噛んで見つめた。守られることしかできず、ヒオリの元へ駆け出すことができない自分が、情けなく、悔しかった。
◆
「ステイン!」
ライナは叫びながらグラウンドを走る。ヒオリはすぐに見つかった。爆弾が爆発したであろう場所からそう離れていないところで仰向けに転がっている。
「ヒオリ、だいじょ――」
ヒオリの状態を見て、ライナは絶句した。ヒオリの体の右半分が無くなっているからだ。体には金属片がいくつも突き刺さり、血が至る所からとめどなく流れている。
「ああ、天使が金髪ってのはマジだったんだなぁ……」
「バカ! あんたは生きてるわ! 相棒の顔を忘れんな!」
「天使様、どうか、教えてください……」
脳にも損傷があるのか、ヒオリはせん妄状態から抜け出せない。
「俺の相棒は……ライナは無事ですか? めっちゃいいやつなんです……俺にはもったいないくらいの相棒なんです……」
「生きてる! あんたが守ってくれたからここにいる!」
ヒオリの体は一向に再生しない。
『番櫛さん、聞こえてる?』
「草間さん!」
リストから聞こえてきた草間の声に、ライナは半ば泣きながら答える。
「ヒオリが、みんなを庇って、爆弾でやられて、体全然治らなくて……!」
『こちらでもヒオリのバイタルが下がっていることは確認してる』
リストの向こうからはエンジンとクラクションの凄まじい音も混じって聞こえてきた。
『今そちらに向ってる。学校裏口付近まで彼を連れてこられる?』
「はい!」
ライナは大幅に軽くなったヒオリの体を抱える。どす黒い血で制服やジャケットが汚れるが、ライナは抱える力を緩めなかった。
「ナスカ……ナスカは無事ですか?」
「傷ひとつないわ! 護衛官が連れて帰った!」
ヒオリの血で、グラウンドに線が描かれる。
「あんたはナスカを、みんなを守った! あんたは本物のヒーローよ!」
「そっか……よかったぁ……」
安心したヒオリから力が抜け、ライナの腕にかかる重さ少しが増す。
「俺、あいつが、ナスカが大好きなんです……あいつが笑ってくれるなら、俺なんだってできるんです……」
「……っ!」
ようやく聞けたヒオリの本心はライナの胸は締め付けられる。
「なら死ぬな! 死んだらあの子は誰よりも悲しむんだから!」
ライナがヒオリを連れて裏口に辿り着くと同時に、特広対のバンが目の前に停まった。
「番櫛さん、ありがとう」
運転席から降りた草間はライナに駆け寄ると、ヒオリを軽々と抱きかかえて後部座席に寝かせる。
「私も一緒に行きます!」
「大丈夫、ここであなただけいなくなっても怪しまれる。警察の聴取が及ばないよう、手を回すから」
「で、でも、ヒオリは私の相棒で……」
心配するライナの肩に草間の大きな手が置かれる。
「彼なら大丈夫。きっと助かる。ヒオリのことはおって連絡するから、今は彼を信じて待っていて」
いつものように表情は変わらないが、草間は努めて優しく言うと再び運転席に戻り、バンを走らせる。
ライナの頭上をナスカを乗せたガンシップが通り過ぎてゆく。
血と、煙の臭い。そして学校に急行する多数のサイレンに包まれながら、ライナは遠ざかる友人たちが乗った乗り物を無言で見送った。
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