第三章「穿山甲」最終話
現在。藍那堂の倉庫の掃除は、計画通り無事に終了した。
「何なんですか、この荷物の置き方は!」
しかし、免許合宿から帰ってきた秋人は、店舗に置かれた荷物を見て大声をあげた。足の踏み場もなく散らばっていたからだ。
「えっ、だって秋人君が帰ってきてからカテゴリ別に分けるっていうから……」
二階に至る階段から、片手に饅頭を持った藍那が肩をすくめて覗き込んでいる。その後ろから、ひょこっとナツキが顔を出した。同じく、饅頭を両手に掲げている。
「てか、何なの? まずは作業をしてくださってありがとうございます、なんじゃないの? 帰ってきて開口一番それって、アニキやばいよ。結婚できないね」
「うるさいな! 僕に結婚願望はない!」
「そういう事いってんじゃないよ、あーやだやだ」
首を傾げてナツキは二階の部屋に戻っていった。秋人は合宿の荷物を抱えたまま、一階の入り口でで立ち往生している。
「これ、どうするんですか……。とにかくわかる所から倉庫にしまっていくしか……」
頭を抱える秋人の様子を、藍那は階段から眺めていた。
あれから、随分と頼もしくなったものだ。
「秋人君、とりあえず今日は休もうよ。君も疲れているでしょう?」
「そりゃあ、そうですが……」
「ね。あとは明日、頑張ろう。時間はあるんだから」
饅頭をかじり、藍那は微笑んだ。
藍那にこう言われると秋人は弱い。
ポリポリと頭をかき、軽く息をついて肩の力を抜く。
「わかりましたよ。でも僕はどうしたらいいんですか? ここからじゃ、二階には登れないし……」
「ああ、一階にある私のベッドを使っていいよ。部屋に下着とか干してあるけど、気にしなくていいから。それじゃあ、明日ね」
そういって、藍那も二階に昇っていく。
「え、あ、ちょっと、藍那さん!?」
動揺して声を上げたが、藍那の耳には届いていないようだった。階段の上から談笑する声が聴こえてくる。
「……ま、まじか……」
秋人は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
夕闇に包まれた商店街の空を、一羽の鳥が飛んでいく。
その鳥は、ある部屋の出窓で羽を休めた。
部屋の天井に張ってあるロープに雑然と洗濯物が干されている。
壁際にベットが一つあり、枕元に小さな箱がひとつ置かれていた。その表面には行書で文字が書かれている。
「穿山甲」
もう二度と作られることはない竜堂家の秘薬、その最後の一箱であった。
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