第九話・歓迎&親睦パーティー

 下に降りると、既に全員が揃っていて雨宮先生と一谷先生もいた。どうやら最後に来たのは俺達だったらしい。


 共同スペースの玄関側の半分はソファーを机で囲む形になっていて、奥側はキッチンとご飯を食べるスペースに分けられている。


 みんなはソファーに座って机を囲みお喋りをしている。先生達は何やらキッチンで作業をしている様子。



 「あ、やっと来た。他の食材取ってくるから、続き切ってくれる?」


 「はーい。和楓どっちが多く切れるか競争する?」


 「綺麗に切れるかで競争しような。」



 雨宮先生は俺の言葉に冷静にツッコみ、頭に軽くチョップした。地味に痛い。

「ボーッとしてないで行きますよ。」と言うと椅子に座っている一谷先生をずるずる引きずって出て行く。


 後に残ったのは俺達と、目の前に本物の山のように積まれた大量の野菜。ではなく生臭い匂いを発する新鮮な肉塊だった。


 手を洗い終わった後、トレーの上に置いてあった肉の塊を摘み上げてみる。血が滴り落ちた。まな板の上に置くと、白い綺麗なまな板も赤く染まる。


 小さい子には見せらんねぇわ。絶対トラウマになるよ。見た目結構グロいし。

 俺と似たような事を思ったのか、和楓も顔を顰めた。



 「俺、どうやって切ったらいいのか分かんねぇし、まず包丁の使い方も分かんねぇ。」


 「私もです。先生達、何も教えずに行きましたね。」



 どうしたものか、と和楓と二人で頭を悩ませる。包丁の使い方さえわからない男子二人には、嫌な予感しかしない。



 「切り方教えようか?」



 キッチンの前に、ニコニコ笑っている東雲さんが立っていた。後ろには俺達以外の全員も立っている。



 「大丈夫。切るの簡単だから。」



 東雲さんがそう言うと、怪しい科学者のような感じに見えてくる。しかも変態男のように手を動かしている。余計ヤバい。


 手伝うよ、と叶夢、真宮さん、と続いて皆んなキッチンに入ってくる。手伝ってくれるらしい。


 それぞれ手を洗い、切り始める。幸い、包丁とまな板は他にもあったので数は足りた。

 しかし、まさかの切り方が分かる人は真宮さんと東雲さんの二人だけたった。

 大抵の場合、親がご飯を作ってくれるから当然ではあるが。



 「うわぁ、血ビチャビチャだ。おぇ。」


 「叶夢、トレーから肉あんまりあげないでよ。僕の方にも血が散るんだけど。」


 「このナイフ切れ味最高ですわ!どこ製のもこかしら?是非私のボディーガードに!」


 「ミアンちゃん……包丁の使い道違うんやけど……」



 包丁の使い方が分からない人、血がグロい人。キッチンはカオス状態になる。


 何とか教えてもらいながらも全員で奮闘するが、どうにも上手くいかない。三十分経ち切り終わったのは全体の約三分の一ほど。

 やっぱり全員でやるんじゃなかった。



 「ただいま。あ、皆んなでやってんだ。」


 「ただいまぁ。」



 どうにかこうにか切っていると先生達が帰って来た。何かが入った白いビニール袋を大量に両手に提げている。


 ソファーのほうに行くと、一谷先生が雨宮先生に荷物を渡し、適当に並べてあった机を一つの大きな机にしてビニール袋を置いた。置き終わるとこっちを振り返る。



 「三人ぐらい一谷先生と本館から色々取ってきて?」



 みんなで顔を見合わせる。

 面倒くさい。重労働をするより肉を切っていた方がマシ。目を合わせ、お前行ってこいよ、嫌だわ、なんてやり取りが行われる。



 「文月双子と伊桜くんが行きます。」


 「僕そんなこと一言も……」


 「早よ行ってきいやー」



 一番ふざけていた叶夢とそれに便乗してふざけていた文月兄弟が行くことに。

 葉室さん達に、キッチンから追い出されて三人は大人しく一谷先生に着いて行った。



***



 「これで全部なん?」


 「多分そうだろ。俺達頑張った。うん。」


 「何で一人で自己完結してるんですか。」



 東雲さんと真宮さんのおかげで皿には肉が綺麗に盛られていた。それを尻目に葉室さん達と少し話す。

 雨宮先生はビニール袋の中から料理を出したりと、色々準備をしている。鼻歌も混じえて。意外な一面に少し驚く。



 「取ってきたぜー」


 「はぁ、重っ!」



 彗夜と藤真は、見た目は普通でも筋肉はありそうなので予想はしていた。

 が、まさかの一谷先生も余裕そうに運んでいる。俺よりひょろっとしているのにも関わらず、二人の倍ほどの量をだ。

 見た目から細い叶夢は、三人のものとは比較的軽そうに見えるダンボールを、重たそうに抱えている。



 「叶夢重そうだな。」


 「僕全然力ないんだってば……」



 俺が声をかけると叶夢は半分諦めが混じったような顔で笑った。

 

 諸々の準備も終わり、皆んなで机を囲む。広い机いっぱいに、所狭しと並べられた沢山の料理と食材。すごく美味しそうに見えて、彗夜と二人、目を輝かせた。


 シャッター音が響く。見るとスマホを俺達に向けている雨宮先生。何してんの、と目で問うと、視線を彷徨わせて弁解しだした。



 「いやぁ、二人があまりにもキラキラしてたもんで。良い感じに撮れたよ?」



 撮れた写真をついでに見せてきた。しょうもねぇなと思いつつ、ジュースをコップに注いで乾杯の準備をする。先生達はお酒らしく、ジョッキの用意をしていた。


 教師が生徒の前でお酒飲んだらダメだろ。とは思うものの、飲んだあとが気になるので放っておいた。



 「さー始めるぞ、『一年歓迎&親睦パーティー!』うぇーい……?

 ……何言えば良いんです?」



 一谷先生が乾杯の音頭をとるはずだった。が、戸惑いを顔に浮かべて変な事を言い出したため、盛大に皆んな吹き出す。



 「一谷先生何言ってるんです?」


 「イェーイ!食べるぞ〜!!」



 お腹が空いていて、流石に待ちきれなくなった。色々無視して食べ始めると、俺に呆れながらもみんなも箸を持ち始めた。

俺達は乾杯せず、先生達は二人だけでお酒がたっぷり注がれたジョッキで乾杯をしていた。



 「あ、明日の予定今言います。よく聞いて。


 九時からキュアースの注射があります。注射っていうよりは注入かな。本来は体力つけさせてからやるべきだけどね。」



 と言いながら一谷先生は叶夢を見た。自分に向けて言われていて肩身が狭いのか、叶夢は目を逸らした。


 大丈夫、叶夢。そのふわふわした可愛い見た目が、筋肉ムキムキだったらどうしたら良いのか分かんないから。なんて心の中で慰めながら考える。

 キュアースを注入。確かモーテラを倒すための薬。どんなのかは分からないが。



 「午後は制服・体操服の引き渡しや戦闘服の採寸、専用の武器を決めたり。

 夜に本館ホールで新一年歓迎会。先輩達も他の養成所の子達も来ます。

 ドレスコードしないとだから、ついでに引き渡しのときに服借りちゃってね。」



 他の養成所の子達も来るのか。確か全国で三ヶ所なんだよな。フレンドリーな子いるかな、仲良くなりたい。俺友達少ないし。


 そんな事を考えながら食べていると、話題はいつの間にか先生の事になっていた。

 俺も先生二人のことは気になる。一谷先生なんかは特に不思議な人だと思うし。



 「そういえばさ一谷先生、会議の途中でこのパーティーのこと突然思いついて、そのまま会議抜けたらしいよ。」


 「思い立ったらすぐ行動しなきゃでしょ。あ、これ全部経費で落とすから、皆んないっぱい食べてね。雨宮先生、お酒飲もう。」


 「やった。」



 聞き捨てならない言葉が聞こえた。が、これまでの話でそういう人だと皆んな理解していたのか、スルーした。あの真宮さんさえもだし、勿論俺も。


 パーティーが終わったのは十時頃だった。最終的に先生達は飲み過ぎで潰れた。風呂に入ったあと、俺達は先生二人とソファーで八人一緒に寝る羽目になった。

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