第8話 未来クエスト外伝

 道具屋にやって来た主人公アルマス、を、お店の陰から見る私とエンウー。


「よぉ、今日も来たなっ」


「……」


 懐かしいセリフだ。繁忙期で、タダ残業して日付が変わるギリギリに帰ってきても、一日一回無料道具屋ガチャは忘れなかったなー。


「おうっ、毎度!」


「……」


 2Dには2Dの良さがある。とは、思うが、これは。


「相棒エンウーよ」


「コケ?」


「テイオスさんをリアルにしてくれたのは嬉しいよ。ありがとうだよ。でも、これだと不公平だから、アルマスも3Dにしてあげたら?」


「2Dには2Dの良さがあるんじゃなかったコケ?」


「んー、だからー、人の心の中を見るのはやめようねー?」


「神の特権だコケー!」


「全く……」


「でも、それで課金者が増えるならっ。コーケコケコケー!」


 ウンエ……、エンウーはさっきの特技のように羽ばたいた。羽が舞い散り、鼻がムズムズする。そんな散った中の一本が、風に流されアルマスに触れた。すると。


「おー」


 黒の短髪、大きな瞳、童顔、平均並な身長。

 アルマスも3Dになるとイケメンだな。タイプじゃないが。


「おーっ、アルマス! またいい男になったなー!」


 あなたの方がテライケメン、いや、イケオジですが。


「これ以上モテてどうすんだー? うりうりー」


 あなたはこれ以上、イケオジにならないでくださいねー? うりうりー。


「お、そうだったな。悪い悪い」


「……」


 ここまで、推しがバカみたいに一人で喋っているみたいだろう。違う。主人公アルマスのメッセージウィンドウが出ていないだけだ。


「アルマス、旅に出るのかー。お前がいないと寂しくなるなー」


「…………」


 推しの面目めんぼくを保つために、私が主人公アルマスをやろう。リプレイ。


『よぉ、今日も来たなっ』


「はいっ、今日も来ました! ……違う」


 これ、いつもの私だ。


「えーと。テイオスさん、傷薬をください」


『おうっ、毎度!』


 ウンエーの羽が触れる。


「……ん? 何か背が高くなったような……」


『おーっ、アルマス! またいい男になったなー!』


「ありがとうございます」


『これ以上モテてどうすんだー? うりうりー』


「いや、モテてないですよ。それより、テイオスさん、傷薬を」


『お、そうだったな。悪い悪い』


「そうだ。今日はお別れの挨拶をしに来たんです。俺、旅に出る事になりました」


『アルマス、旅に出るのかー。お前がいないと寂しくなるなー』


 どうだ! ちゃんと成立しているだろう! きっと主人公アルマスはこう言っていたはずだ(私の中では)!


 RPGの主人公は、大きく分けて二種類いる。喋るか無口か、だ。

 プレイヤーの大半は喋る方を好むだろう。そのせいか、無口な主人公のゲームは廃れてきた。

 が! 私は断然! 無口派だ! 

 喋る派の人は恐らく、何を考えているかわからないとか、感情移入できないとか、思っているのだろう。……何を考えているかわからない? 感情移入できない? 主人公=自分だろうが! 想像力を磨け!

 と、私は思ってきた。思うだけ、言わない、根暗だから。


「じゃあな、アルマス。元気でちゃんと戻って来るんだぞー!」


 主人公アルマスはお辞儀をしてビギニア村を出て行った。


 あれ? んーと、一章から見直すという事は、ストーリーを進めなきゃいけないわけで。それには主人公アルマスについていかなきゃいけないわけで。

 でも、私はバグなわけで。


「どないせっちゅーねん」


 エセ関西弁を出しながら、エンウーと道具屋の正面に戻ると。


『???「ココ そして テイオスよ」』


 光る白い人魂みたいなものと共に、真上にメッセージウィンドウが現れた。


『???「我は この世界の神 ウンエーである」』


「……いやいやいや」


 だってここにいるじゃん、と、エンウーを見ると。


「……そゆこと」


 白目で大きく口を開け、上を向いていた。魂だけ出したのね。


『ウンエー「そなたたちに 頼みがある」』


「断る!」


『ウンエー「……そなたたちに 頼」』


「断る!」


『ウンエー「……そな」』


「断る!」


『ウンエー「……」』


「ココちゃん?」


「だってですよ!? テイオスさん」


「お、おう」


「か……」


 勝手に喚ばれて、勝手に旅行商にさせられ、勝手にダサい服を着せられて、私がイベを閃かなければサ終。それなのに、さらに何か押し付けようとしている。そんなの嫌じゃないですか!


 なんて、言えるはずもなく。


「……み様だって、さっきこの光は言いましたが。確証はないじゃないですか」


「確かにな」


「そんな不確かなものに、頼まれても嫌じゃないですか」


「ココちゃんの言う通りだな」


 ドヤァとウンエーを見た。


『ウンエー「……」』


 ヒュパッという効果音と共に、光は消えた。winnerココ!

 と、思ったのに。


【こうして】


「……ん?」


【旅ぎょうしょうココと ビギニア村 道具屋のあるじテイオスは 神のおつげを聞き 主人公を助ける 旅にでるのだった】


「はい!?」


 地面から空へと、白文字のテロップが流れていく。


【未来クエストの もう一つの物語 しょうにんたちの ゆかいでハートフルな旅が 今 始まろうとしている】


【未来クエスト外伝 coming soon】


「いやいや! カミングのスーンすな! ちょっとエンウー!?」


 エンウーを見上げると。


「ココさんっ、ワクワクするコケー」


 魂は戻ってきていて、楽しそうに翼をパタパタしながら動き回った。


「……いや、だからさ。プレイヤーへの説明はよ」


「プレイヤーって何だ? ココちゃん?」


「あー……。えーと、私たち旅行商の間では、旅をする者をプレイヤーって呼んでいるんです」


 説得力皆無の苦しい言い訳!


「なるほどなー」


 なのに、納得してくれる推し!


「だから、その、プレイヤーたちからすれば、何でアルマスの後をつけているんだ、あいつら? と思うわけじゃないですか」


「確かになー」


「だから、神様にちゃんと詳しく説明をしてほしかったんですが……」


 エンウーを見た。


「……コケー! コーケコッコー!」


 一瞬、動きを止めて私をチラ見し、また動き回った。まぁ、説明する気がないのはわかっていたさ。


「それに、テイオスさんは道具屋さんなんだから、旅に出れるわけないじゃないですか、ねー?」


「いや? 大丈夫だぜ」


 ……んー?


「アルマスも出て行っちまったし。商売上がったりだからな」


 推しはそう言うとお店の中に入っていった。と思ったら、一枚のチラシを持ってきた。そして、ドアを閉めて鍵を掛け、ばーん! とチラシを貼り付けた。


「これでいい!」


 ドアに貼り付けられたチラシの裏には、こう書かれてあった。


『しばらく休業! テイオス』


「……うん」


 潔くてちゅき!


「じゃあ、ココちゃん」


「はい?」


「改めて、よろしくな!」


「……」


 右手を、差し出された。推しハンド!? 推しと握手!? ヤバいヤバい! 緊張と興奮で手汗を掻いてきた!


「……えーと、ちょっと待ってくださいね。手汗を拭くので」


「汗なんか気にするな!」


「ファッ!?」


 がしっと左手を握られた。温かい! 大きい! 硬い! 男ハンド!

 彼氏いない歴=年齢だから、男性への耐性がない! ひぃー! どうしよ平八郎の乱! この言葉も古いんだろうけどー!


「楽しい旅にしような!」


「みゃい……」

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