第7話 コロシアムの覇者、推し

 ココ エンウー テイオス


「ふおおぉっ!?」


 おおお、推しが! 推しが使える!

 だが、次はエンウーのコマンドだ。


「……」


 左側ウィンドウ、コマンド選択。


 エンウー


 とくぎ はばたき:パタパタと羽をちらす


『エンウーの はばたき!

 しかし なにも おこらなかった!』


「よし!」


「よし! じゃないコケー! 何MPを無駄使いしているんだコケー!」


「うっさいわい! 早く推しを使ってみたいんじゃ!」


 空中左側のウィンドウに触れ、推しは何ができるか見てみる。


 テイオス


 とくぎ うしろまわしげり:背をむけて回しげる


 そうだ。推しに会えた興奮で忘れていたけれど、恐らく私しか買っていないであろう、『未来クエスト設定資料集』に書いてあった。


 テイオス(フルネーム:テイオス・アグレシオ)

 CV:なし


 56歳。

 始まりの村、ビギニアの道具屋主人。

 顔は怖いが気さくで話しやすい。

 あの肉体の秘密は、闘技場コロシアムの覇者で、殿堂入りを果たした伝説の武闘家。

 

 そう! 伝説の武闘家! テイオス・アグレシオ!

 はっ! もしや第一章、伝説の始まりってこの事!?

 

「……」


 ドキドキしながら、私の左側、空中にあるウィンドウを触り、コマンドを選択した。


 テイオス


 とくぎ うしろまわしげり


「後ろ回し蹴りだな! 任せとけ!」


「おふぅ!」


 ゲームをしていれば、誰も技や魔法を使う前に、話しかけてくれない! から! 嬉しすぎる!


 しかし、後ろ? 回し蹴りとは何ぞや? と思っている内に、推しの技が炸裂!


『テイオスの うしろまわしげり!』


『スライムAに 30のダメージ!

 スライムAを たおした!


 スライムBに 27のダメージ!

 スライムBを たおした!


 スライムCに 25のダメージ!

 スライムCを たおした!』


「……これが、エモいというやつか」


 敵の正面に立ち右足を軸に体を右回転。からのー、背を向けたら軸足を左にし、さらに体を右に捻りながら右足を振り上げ、右足裏での蹴り飛ばし。


 推しだから詳しく説明できたけど、あまりにも流れるような動きで、普通ならわからない!

 そして! 筋肉質の御御足おみあしが素敵! 私も蹴られたい!


 ピロリロリンッ。テレレレッレッテッテー。


「ん? あ、そうだった。スライムを倒せたんだった。しかし、このBGMも改善しなきゃだなー」


『それぞれ 36のけいけんちを かくと く した!

 48マネーを てにいれた!

 ココは レベル4に あがった!


 ちからが 1あがった!

 すばやさが 1あがった!

 たいりょくが 1あがった!

 かしこさが 2あがった!

 うんのよさが 2あがった!

 さいだいHPが 5あがった!

 さいだいMPが 3あがった!

 こうげきのちからが 1あがった!

 しゅびのちからが 2あがった!

 こうげき魔のちからが 1あがった!

 しゅび魔のちからが 2あがった!』


「うーん、まだまだ雑魚いねー」


『エンウーは レベル5にあがった!


 ちからが 1あがった!

 すばやさが 3あがった!

 たいりょくが 2あがった!

 かしこさが 3あがった!

 うんのよさが 4あがった!

 さいだいHPが 6あがった!

 さいだいMPが 5あがった!

 こうげきのちからが 2あがった!

 しゅびのちからが 3あがった!

 こうげき魔のちからが 2あがった!

 しゅび魔のちからが 3あがった!』


「……何で君は先に上を行くのかなー?」


「神だか……、ココさんの相棒として、頑張っているからだコケー」


「……相変わらずムカつくなー」


『テイオスは レベル10にあがった!


 ちからが 6あがった!

 すばやさが 7あがった!

 たいりょくが 5あがった!

 かしこさが 3あがった!

 うんのよさが 3あがった!

 さいだいHPが 8あがった!

 さいだいMPが 4あがった!

 こうげきのちからが 5あがった!

 しゅびのちからが 3あがった!

 こうげき魔のちからが 2あがった!

 しゅび魔のちからが 3あがった!

 みりょくが 10あがった!』


「おっ? 俺かなり上がったな」


「さすが! テイオスさん!」


「僕の時と反応が違うコケー!」


「運営と推しを一緒にすんな!」


 そしてっ、さすが推し! 魅力の上がるスピードがめっさ速い!


「しかし、昔取った杵柄きねづかってやつか。まだ覚えているもんだなー」


「テイオスさん、闘技場コロシアムの覇者ですもんねー」


「よく知っているなー、ココちゃん」


「……ええ、まぁ」


 設定資料集を、保存用、飾る用、読む用、スクラップ用と、四冊買いましたからー。


 なんて、言えず。


「意外と、色んな村とかで有名人でしたよ? テイオスさん」


「そいつは嬉しいねー。でも、ココちゃん程じゃないと思うぞ?」


「え……?」


「他の村は知らねぇけどな。ここビギニア村では、みんなココちゃんが来るのを楽しみにしてんだよ」


「あー、えーと。珍しい物を持って来るからですよね?」


「それもあるけどな。俺みたいなしがない道具屋や宿屋の親父。みんなの名前と顔を覚えて、会えば名前を呼んで、いー笑顔で挨拶をしてくれる。それだけでみんな元気をもらってんだ」


「……」


 そんな眩しい笑顔で言われると、胸が痛い。小さい村で人も少ないから覚えられたし、あなたがいるから、ビギニア村のストーリー完コピできます! なーんて言えなーい!


「それに、エンウーとのやり取りも面白いしな」


「へ?」


「いっつも喧嘩しているのに、誰かが声をかけると二人共ニッコニコ。喧嘩するほど仲が良いってああいうことを言うんだなーって、みんな笑ってたぜ」


「……」


 エンウーを見上げると。


「コケェー」


 ドヤ顔をした。ほんっと腹立つわー。


「ま、そんな訳で、ココちゃんには負けるって話だ」


「それは、ありがとう、ございます。でも、テイオスさん」


「ん?」


「……」


 ちゃんと言っておかねば、私はもう若くないと。


「ココちゃんって、呼んでくれますが。えっと、もう、ちゃん付けで呼んでもらえる程、若くなく。結婚してないとヤバい年齢でして……」


 詳しい年齢は、引かれたくないので、言いませんが。


「なーに言ってんだ!」


「わっ!」


 大きなゴツゴツした手で、頭をわっしゃわっしゃと撫でられた。


「俺なんかもう56のおっさんだぜ!? そんな俺から見れば、まだまだココちゃんは若い! 可愛い女の子だ!」


「はうっ!」


 テイオスは かわいいおんなのこを となえた!


 ココの こころのキズが かいふくした!


「……圧倒的感謝」


「ん? 何が圧倒的だって?」


「いえ! 何でもないです! あっ、アルマスがこっちに向かって来てますよ! テイオスさん店番!」


「おおっ! そうだったな!」


 テイオスさんは、店の中に戻っていった。


「……ありがとう、テイオスさん」


 私はその背中に、頭を下げた。


 アラサー。そう、もう結婚していてもおかしくないどころか。結婚しているのが普通だ。


 同級生は次々と結婚し、私は招待されるばかり。

 きれいなウエディングドレス、素敵な旦那さん、キラッキラの笑顔。

 たくさんの友達、同僚、親戚。祝福の笑顔、笑顔、笑顔……。


 両親は急かしてこないが、絶対に思っているはずだ。早く結婚して孫の顔を見せてくれ、と。


 非リア、ぽっちゃり、根暗、アラサー、ヲタ。負の連鎖を起こす要素ばかりの私。気を抜くと、根暗が暴走し、自虐が爆発していた。


 そんな私に。


『まだまだココちゃんは若い! 可愛い女の子だ!』


 ……ありがとう、ございます。

 その言葉に相応しくなれるような、可愛い女の子にはなれなかったとしても。あなたは消させない。このアプリは終わらせない。

 サ終になんか、絶対にさせないから!

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