第5話 緊急長期メンテ(終了日未定)

「……ん? あれは」


 自分主人公の家から、2Dのままな主人公、アルマスが出てきた。あー、はいはい、伝説の始まりね、村長の家に行くのね。


「……ちょーっと待てよ」


 この後、主人公アルマスは旅に出る。姫を助けて魔王を倒す旅に。その前に、ここに寄る。道具屋に!


「……まずい」


 私、本来は存在しないキャラ、旅行商ココ。

 そして、私はアプデするためにいる。……歴史が改変しちゃわない? 世界の均衡とか崩れちゃわない?


「……テイオスさん」


「どうしてぇ?」


「エンウーと仲直りしたいので、また少し席を外しますね」


「おうっ、ゆっくり話してこいっ」


 ウンエーを見て、右手の人差し指をくいくいっと曲げ、また道具屋の裏へ行った。






「ウンエー」


「コケッ」


「……普通に喋れ」


「ノリが悪いなー。ノリが悪いヲタは嫌われるよ?」


「推しがいればいいんじゃ。ウンエー」


「何かな?」


「旅行商ココは、本来なら存在しないキャラ。世界が歪まない? それと、数少ないプレイヤーがびっくりしない?」


無問題モウマンタイ!」


 ウンエーが右の翼を上げると、運営からのお知らせアイコンが出てきた。でっかい赤いビックリマーク付きで。

 ……もう察したわ。


「タップするコケー!」


「えー……」


 開かんでもわかったんだけど、仕方ない。アイコンに触れると、ヴォンッと白枠に黒地のメッセージウィンドウが出た。


『運営からの重要なお知らせ』


「……」


 もう一回タップする。


『うんえい「【重要】緊急長期メンテナンスのお知らせ」』


「……」


 やっぱりー。タップして続きを見る。


『うんえい「いつも『未来クエストを』をご利用いただき、誠にありがとうございます。


 この度、ゲーム内のアップデート及び、リニューアルのため、長期メンテナンスを実施する事を決定いたしました。


 リニューアル完了は、20◯◯年を予定しております。

 皆様にお楽しみいただけるゲームを再度お届けできるよう、運営チーム一同、尽力して参ります。


 【長期メンテナンス開始日】


 本日◯月◯日(金)13時より。


 【お詫び(補填)について】


 ご迷惑をお掛けしました、お詫び(補填)に関しましては、後日改めてご案内させていただきます。……」』


「……ウンエー」


「コケ?」


「第一章から見直していいって事は、このゲーム全体をメンテしていいんだよね?」


「コケコッ」


「じゃあ、まず」


「えーっ、もう? もうちょっとゆっくりプレイしてからで」


「聞け」


 目をカッと開いた。


「はい」


「プレイヤーは、特に私は、臨時や緊急メンテを嫌う。さらに、この20◯◯年、完了を予定しております。予定、ってことは、未定ってことでしょ」


「そういうことー」


 楽しそうに翼をバタつかせるウンエー。


「そーれーがぁー! 嫌いなんじゃー! つまりは終了日未定ってことでしょーが!」


「予定は未定にして決定にあらず。良い言葉だよねーっ」


「良くないわ! こっちのスケジュールが狂うんじゃ! お風呂に入る時間! 寝る時間! シチュCDを聴く時間! みんな変わるんじゃ!」


 他ゲーでもまだかまだかと、携帯と睨めっこしていた事があった!


「そして、このお詫び。緊急で、長期、終了日未定のメンテ。課金者が私しかいなくても、相当な! いい詫びじゃないと! もっと過疎るぞ」


「いい詫びって、例えば?」


「道具屋ガチャ100回無料とか」


「……それ、誰得?」


私得わたとく!」


「だよねー。もっと苦情が来るじゃん!」


「これ以上のいい詫びはない! テイオスさんの笑顔が! 100回! 無料! こんな事をしてくれるなんて、神じゃん!」


「うん、だから、僕、神ウンエー」


「いや、無料じゃなくても、推しの笑顔が見れるなら、言い値で買うわ。そんだけテイオスさんの笑顔はえぐいんじゃ」


「俺の笑顔?」


「そうっ、俺の笑顔おぉ!?」


 声のした方を向くと、ニコニコ顔の推しがいた。


「楽しそうな声が聞こえたから、来てみりゃあ、ちゃーんと仲直りしたみてぇだな」


「みゃい……」


「つーか、エンウー、喋れたんだな」


「ココさんとの旅で、人語じんごを学んだんだコケー」


うそけ!」


「ははっ! コケーと掛けたのか!? ココちゃん上手いなー」


「……」


 トゥンク。すこすこのすこ!


「で、アルマスはどこに行こうとしてんだろうな」


 推しと主人公アルマスの背中を見つめた。


「…………」


 これから伝説が始まるんです! 実はアルマスは、昔この世界を救った勇者の末裔で、姫を助け魔王を倒す旅に出るんです! そして、ここに寄って、村を出たら、もうあなたとはガチャでしか会えないんです!


 を、飲み込んだ。


「……村長に呼ばれたみたいですよ?」


 推しに嘘はきたくない。が、全ては話せない。


「面白そうだなっ、ついてってみるかっ」


 ウインクした推し。

 んー! お茶目さん! きゃわわ!


−−−−−−


 あとがき。


 緊急、長期、メンテ、本当に嫌です!


 「私も!」「俺も!」と、思われた方いましたら、フォローやお星様などをポチしてくださると励みになりますー。


 よければー↓

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