第2話 運営に物申す

「……ん?」


 目を開けると、何もない青い空間に私は浮いていた。


「ここ、どこ?」


「携帯をぶっ壊そうとは、乱暴な子だ」


 そこへ、一通の白い封筒がふよふよと浮きながらやってきた。そして、少年のような声で話す。


「ここは空間の狭間。我はこの世界の神、ウンエー」


「……」


「え、何その顔」


「ウンエーって運営じゃん。だって、それ、運営からのお知らせアイコンだし。ってそうだ! 運営!」


 封筒を両手で掴んだ。


「うおぉー! 引っ張るなー! 破れるー!」


「サ終って何でじゃー!」


「……世の中、次々と面白いアプリが出てきてね。プレイ人口が激減しているんだよ。課金者もいないしね……」


「私がいるだろー!」


「うん、君には感謝しているよ。廃課金してくれて。……何故か道具屋のアイテムガチャばかりだけど」


「だって……」


「ん?」


「だって……。テイオスさんが笑うからー!」


「うん、ちょっと、落ち着こうか」


「何で何でー!? 何で終わっちゃうのー!?」


 封筒をぐしゃぐしゃにした。


「……もう、疲れたんだよ」


 皺くちゃの封筒が力なく浮び上がった。そして、背中……、いや、悲しげな封筒の裏を向けた。


「何とかアイデアを絞り出し、新しいイベントを始めても。やれ、あれのパクリだ、やれ、これのパクリだ、と、苦情ばかり。もう嫌になったのさ」


「それでも、それでも頑張って続けるのが、運営の役目じゃないのかー!?」


「……じゃあ、君が考えてくれる?」


 封筒が正面を向けた。


「……はい?」


「そうだよ! ここにいいカモがいたじゃん!」


「カモ?」


「えー……、ごほん。サ終は嫌か、ならば汝、有益なイベントを生産し、このアプリの良さを広めよ」


「……は?」


「うん! ナイスアイデア! さっすが僕! 神ウンエー!」


「いや、自分で考えてよ」


「……そんなことを言っていいのー? テイオスに会えなくなるよー?」


「ぐぬっ……」


 推しのため、推しに会うため。そう! 全てはテイオスさんに会うため!


「じゃあ、まず手始めに」


「え、もう思いついたの!?」


 封筒がキラキラと輝いた。


「いいえ」


「ん?」


「プレイヤーとして、言いたいことがあります」


「う、うん」


「まず、名前がダサい! 何!? 未来クエストって!? 未来のためにクエストを進める物語!? まんまじゃん! 何の捻りもないじゃん!」


「まぁ、確かに……」


「次に! 今時のアプリはNPCにもCVがあるのに! 何で未来クエストにはないの!?」


「いや、NPCの声を節約して、良いイベントを……」


「まぁいいよ! テイオスさんイケオジだから許すよ! だけどさ!」


「う、うん」


「だったらPCはフルボイスでしょ! 何さ! メインストーリーだけボイスありって! メインじゃないお話の方が! キャラクターの本音が出たりするもんでしょーがぁー!」


「そ、そうなの?」


「それに何より!」


「う、うん」


「推しの! テイオスさんの登場は何で一章だけなの!? イジメか!? そして、その後、何で村に戻らないの!? イジメか!? トドメがサ終って、イジメくわぁー!? はぁ、はぁ……」


「はい、お水」


 運営から出された、宙に浮いている『ウンエーのウンメーみず』というラベルのペットボトルを受け取った。そして、キャップを開け、一気に飲み干した。


「ぷはぁ!」


「いい飲みっぷりだったね」


「おかわりぃ!」


「どうぞどうぞ」


 新たに出現した水を二本、受け取った。


「それにしても、そんなに不満があったのに、続けてくれていたなんて、いい子だね、君は」


「そうでしょーよ!」


「うん、そう。だから、だからきっと、このアプリをアップデートする運命だったのさ! 君は!」


「いや、イミフなんだけど」


「というわけで、未来クエスト、スタート!」


 封筒から閃光のような光が放たれた。


「だから、イミフなんだけどー!」

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