うそつき市長(その6)

その時不意に扉が開き、まん丸い顔に細い目が横一文字の中年女が現れた。

その背に重なるようにして、こちらも目つきの鋭い大柄な男が見えた。

「あんたたち何よ」

「私が探偵さんと犬を雇ったの。伯母さんがお母さんを隠すから」

「何を勝手に・・・。まあ、こんな小汚い犬まで上げちゃって」

「伯母さん知らないの。この犬はそんじょそこらの犬とはちがうのよ。スーパードッグよ」

「スーパーだかなんだか知らないけど。・・・さあ、帰って、帰って」

美香の伯母さんは追い出しにかかった。


「美香さんのお母さんの匂いは記憶した?」

「はい、台所の手拭きのタオルで」

「居間で血の匂いは?」

「少しだけしました」

警察の鑑識がルミノール反応を調べればすぐに分かることだが、やはり事故だか事件はあったのだ。

マンションの前に停めた車の中でそんな話をしていると、美香が車の窓を叩いた。

とりあえず、美香を乗せて一本道へもどり、ロードサイドのファミレスに入った。


「伯母さん、とっても嫌な感じでしょ」

美香は口をとがらせた。

「たしかに事故だか事件が起こり、家を出たお母さんを伯母さんがどこかに匿った。美香さんに心配させまいとして、居場所をわざと言わないのかも知れないね」

そうは言ったが、・・・母親が加害者かも知れなかった。

だとすると、警察から身を隠している可能性があった。

では、被害者は?


「美香さんが、殺し合ったかもと言った相手の男については何か知らない?・・・男であるのはまちがいない?」

「そうよ」

「しょっちゅう来ている?」

「昔はしょっちゅう。でも最近はたまに」

「どんなひと?」

「不潔な関係だから、やって来ると顔を合わせないで、部屋に閉じこもってしまう。それに、いつも酔って大声を出すので、大嫌い」


「お母さん、仕事は?」

「ホステスさん」

美香は投げ出すように言った。

「お店は?」

「あらっ、家のすぐ裏よ。この辺ではいちばん大きなカラオケスナック。伯母さんがいちおうオーナーだけど、お母さんがママで仕切っている」

美香は自慢気に言った。

・・・自宅にまで上げるほどの仲で愛人関係の上得意の客と、トラブルにでもなったのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る