第2話 竜を語るクロガネさん
「おーい、コテツ!」
イシの町、西門の近くにある警備隊の詰所。そこで隊長が新人兵士を呼びつけた。
「はい、隊長」
「先日の竜退治の報奨金が準備できた。クロガネさんにできるだけ早く取りに来るよう伝えてきてくれ」
テーブルの上には布の袋が置かれていた。報奨金というくらいだから中身は金貨か銀貨なのは間違いない。数十枚は入っているだろう。
竜を一匹倒すだけでこんなにもたくさんのお金がもらえるなんて! でもずるいなぁ。だって、クロガネさん、竜を解体したらさっさといなくなってしまって。その後始末のほとんどは僕たち警備隊が行ったのに。いや、まあ確かに竜を倒したのはクロガネさんの功績だけれども……言葉にこそしなかったが、そんな思いがコテツの表情に表れていたのだった。新人兵士である彼はまだ竜退治のことを詳しく知らないのだ。
隊長がそんな彼の思いを汲み取った。
「そっか、お前は初めてだったもんな竜退治。よし、せっかくだからクロガネさんに色々尋ねてこい!」
隊長は「色々説明するのもめんどくさいし、俺も仕事があるからな! こういうのはクロガネさんが喜んで教えてくれるだろう」と言ってコテツを送り出した。ちなみに、報奨金を持っていけばいいのでは……というコテツの提案は一瞬で却下された。クロガネさんに渡す前になくしたり盗まれたりしたときの責任が大きすぎて手に負えないからだそうだ。
「クロガネさんは大抵、食堂か教会にいるから」
舗装された道を歩きながら、コテツは前回クロガネさんを呼びに行くときに隊長から言われたことを思い出し、食堂へ向かった。
予想通りだった。
前回同様、クロガネは部屋の片隅で食事をしていた。テーブルの上にはたくさんの料理が並び、彼は脇目も降らずにただただ料理を口の中に入れていく。よく噛んでから一気に飲み込み「かぁー、美味い!」と言って次の料理を口に入れる。
見ていて気持ちの良い食べっぷりだったが、コテツは自分の任務を思い出し「クロガネさん!」と名前を呼んで彼の対面に座った。
「ん……おお、コテツだったか。どうした、また竜か?」
クロガネさんは食事の手を一旦止めて、目線だけコテツへと移して言った。
「あ、いえ……違います。先日の竜退治の報酬が準備できたので取りに来て欲しいと隊長が」
「おっ、わかった。食事が終わったら向かうよ。ありがとな」
「あっ、あの!」
「?」
再び食べ始めようとするクロガネに、コテツが思い切って話しかける。
「もしよかったら、竜退治のこと……いろいろ教えていただけませんか?」
食事を終え、クロガネとコテツは西門へと向かいながら、竜退治について話をしていた。
「――つまり、竜は一匹退治するだけで相当なお金になるってことですね」
「そうだ。使える部分は少ないけど、竜の鱗や骨は武器や防具の材料になる。肉は貴重な食料だ、少々値は張るがうまいぞ」
竜を倒した後、解体するのも
使えそうな素材だけを取り出し、それらを警備隊に引き渡す。警備隊は竜の骨や肉を商人に売却し、金貨を得る。その一部を報奨金としてクロガネに渡すのだ。
クロガネが直接商人と取引をするという手もあるのだが、彼はそういうのが苦手というか面倒くさがるタイプだった。しかも竜の残骸は消却処分しなければならず、それも大変骨が折れるので、クロガネは警備隊に解体以降の手続きを任せているのだった。
「なるほど、そういう一連の流れがあるわけですね」
「そ、だから俺も、お前たちに結構世話になってるんだ。コテツもじきに臨時ボーナスがもらえるはずだ」
「え? だって僕たち戦ってすらいませんけど」
「竜が街の中に入るのを阻止したってだけで、警備隊の手柄なんだよ。それに大変だっただろ、あのでっかい竜の死骸を処理するの」
なるほど、竜退治は倒して終わりというわけではないんだ。倒す者、片付ける者、売る者、買う者……多くの人が関わり合って成り立っているんだということをコテツは理解した。そして彼は今は片付ける立場だけど、いつかは竜を倒すほうになってみたいなという夢を持ったのだった。
「僕……クロガネさんみたいになりたいです」
「?」
「あの、もしよかったら僕を弟子にしてくれませんか?」
「弟子ぃ!?」
突然のコテツの申し出に、クロガネはすっとんきょうな声をあげてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます