自分定義カプセル

輝響 ライト

進路希望

 中学二年、進路希望調査を白紙のまま両親に出した空真くうまは、ただただ俯いて黙り込んでいた。


 夏休みもそろそろと、本格的に高校を決めて勉強に入る時期。空真には将来の夢、目指すものがなかった。


 ――否、それらしきものもあるにはあったが、両親はそれに否定的だった。


「やりたいこと無いの?」

「うん、特には……」


 親友の影響で始めたギター、将来はギタリストになりたいなー……と我ながら浅い夢。プロになるための、練習らしい練習はしておらず、ただの趣味の範疇である。


「機械関係がやっぱり最近人気でしょ? そっち方面に進路を取ればお金に困ることも無いと思うのよね~」


 両親は、一流企業に就職してほしいと思っているようで、幼い頃からそのように言われ続けてきた。実際、一昔前はとりあえず大学に行けば、収入が高くなりやすい傾向にあった。


 しかし、近年はとある事情・・・・・から、大学に行かなくても昇進が楽だったり、年収が多くなる傾向にある。


「そうね、そろそろいい時期だし、空真もこれをやってみない?」


 そう母が見せてきたのはとある社会制度に関するHPホームページだった。


「自分定義プログラム……」

「そうそう、お母さんもこれのおかげで、楽に就職も出来て、お父さんと結婚することが出来たのよ」


 30年ほど前に法律で制定された、経済発展計画の一環、青少年社会性向上法。


 ある企業によって開発された、将来を確約させる特別なカプセル剤。飲めばその人の潜在能力が引き出され、未来がよりよく進む……というもの。


 例えば営業職の適性がある場合、どんなに人と話すのが苦手でも、笑顔で人と話すことが出来るようになる・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……まるで魔法みたいに?」

「えぇ、本当に魔法みたいな人生よ! やって良かったわ!」


 「人格を矯正する物だ」「ただの国の家畜だ」などと言った批判の声も多かったが、それ以上に魔法・・を求める人たちが多かった。


「そう……だね……」


 実際にデータを見ると、導入後から日本の経済は右肩上がりに成長しているし、新たな才能を持つ子供が見出されたことから、世界の発展にも貢献する事となった。


 まさに魔法、とても効率的なのだ。酷な話だが、才能がないと分かれば夢を追う必要も無い、苦労する必要も無い。


「もう少し考えてみるよ……」

「もー、期限もあるんだしちゃっちゃと受けちゃいなさいよ」


 定期的に母はこの自分定義プログラムについての話をしていた。その度にまだ関係ないな……と思っていたが、さすがにそろそろ社会が許してくれないらしい。


 自身の夢を追うか、社会の為に働くか。両親の反対を押し切ってまで、自分のやりたい事をする力も心も、空真にはまだ無かった。

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