第2話
『――お父さん! 無事なの? お兄さん、お父さんは父は無事でしょうか』
ビデオ電話がバーに響く、小太郎の娘の声が流れてくる。名前は花梨といっただろうか。後ろからは小太郎の妻、紀代子のすすり泣きが聞こえる。
呼びかけられているにもかかわらず答えられず、硬直してしまう。なぜなら……花梨さんが可愛すぎる!! いかん、僕としたことが、高校を中退後ブラックカンパニーに入り、めきめきと頭角を現しヘヴンの全権を任され、チームリーダーにもなり、「地下の狼」とまで呼ばれ、先月の売り上げは主力のヤクチームを抜いて組織1位になった僕が、こんなところで、こんな場面で一目ぼれするとは……
「花梨、お父さんだ。無事だよ、今のところは……な。これからそのお兄さんに俺は殺され「――この方は本当の娘さんなんですよね?」え? そうだが」
思わず確認してしまう。小太郎は良くも悪くもフツメンといったところ、画面の中の花梨たんは天使が下りてきたかのような圧倒的透明感! 圧倒的顔面偏差値! 可愛さの押し売り! である。
ここで小太郎を殺しても、金宮から降りてくるカネが増えるだけだ。世界にはカネよりも大事なことがある。やむを得ない
「……作戦は変更だ、車を呼べ。こいつはうちで匿おう、異論はないな」
『奥さんと娘さんはどうしますか?』
花梨たんに会いたい!
「事務所に連れてきてくれ、僕たちも向かう」
「ちょっと待ってくれ、いきなりで……俺は助かるのか?」
もはや小太郎は義理のお父さんだ、良好な関係を築こう。
「そうですよ、お
「あ、どうも」
「さあさあ」
背中を押すように裏口から出て、呼んでおいたボルボの後部座席に小太郎を乗せ、助手席に座る。僕の右腕である
…………だめだ、落ち着かない。花梨たんにいい印象を持ってもらうために少し長めの茶髪を手鏡を見ながら整えようとするが、気づくと手が止まってしまっていて、先ほどのビデオ電話の画面を思い出してしまっている。
「リーダー、金宮の車が少し後ろから追いかけてきてます」
「結婚するには…………」
「リーダー? 結婚って」
「ハッ!? ……血痕だよ、金宮を撃ったら、血痕が残るかな~って。それでなんだっけ事務所にどの服を着ていくかだっけ」
「いえ、金宮の車が」
後ろを見ると確かに金宮のアクーラが追ってきている。それにしても頭の中が花梨たんでいっぱいすぎる……まだ話してもないのに、とそれよりも金宮だ。
「一旦路肩に停めて、結果は知らないふりをして話をしよう。僕とバルで行く、バヤシとヤスは車で待機。ないとは思うが、金宮が車に来た時のために小太郎さんは運転席に座っておいて、ヤスのジャケットを襟を立てて着て、顔は伏せておいて、いざとなったら発進させてください。じゃあバル行こう」
「待ってください、リーダー。ちょっと危険じゃありませんか? リーダーらしくもない、さっきから変ですよ。さっさとこんな男始末して「――まあ、待て。いいか、男には何が何でも賭けをしなきゃいけない時があるんだ、それが今だ。分かってくれ」……分かりました」
懐から拳銃を出すバルを手で抑え込み、止める。たしかに危険だ、危険すぎる。だが、だけど花梨たんを悲しませたくない。最悪、金宮を撃つことになるかもしれない。愛銃のマテバを確認する。
バルが車を停めて二人で出る。少しして金宮の車が着き、金宮と部下が出てくる。
「(車には1人か、数的有利だな。バル気ぃ引き締めてくぞ)……金宮さんどうですか、見つかりましたか」
「おい、大神。お前何か隠してないだろうな?」
金宮がメガネを光らせながら近づいてくる。
「なんのことだかさっぱりですね」
「ふざけるのも大概にしろよ、ガキ。あれはウチの獲物だ」
ジャケットに手を入れたまま、胸に手に持ったものを押し付けてくる、おそらく拳銃だろう。
「チンピラの警棒じゃないんだから、つんつんしないでくださいよ。調べたいなら車も事務所も調べてください」
「じゃあ調べさせてもらおう、おい調べろ」
顎をしゃくり、手下を向かわせようとする金宮。
「ただし、それは僕たちの信頼を壊すことになるぞッ! 金宮、選べ!」
これで引いてくれなければ、撃つしかない。さあ、選べ!
「…………それでも行こう。うちの『会社』はお前たちだけではないからな」
「くッ」
マテバに手をかけたその時――
「君たち、車道で何やってるのかな? 2人とも離れようか、危ないからね」
――警察!? 通報されたか。
ただ好都合だ、うまく誤魔化して事務所に向かおう。
「お巡りさん、なんでもないですよ? ちょっと車間距離で揉めてしまって……はいはい。気を付けます、すみませんでした。はい、失礼します」
憎しげな顔の金宮を置いて、車に戻る。
「運よくサツが来て助かった、誰か通報したのかな」
「俺がやった」
「小太郎さんが?」
「君らみたいなのには警察かなと思ってね」
「ナイスプレーですよ、小太郎さん」
花梨たんの父親としか見ていなかったが、意外と使えるかもしれないぞ。
それからかいた汗を必死にふき取り、匂いがしないかチェックして、来たる顔合わせに向けて服を払って汚れを落とす。
****
花梨たんに最初になんと声をかけるか考えていると、あっという間に事務所についた。小太郎を引っ張り出し、足早に階段を上る。
「はぅ……」
「花梨ーーー、
可愛さで語彙力が飛んで行ってしまった、横で小太郎が再会を喜んで駆け寄って抱き着いている。自分も走っていきたいが、すでに部下が怪訝な顔をしている。
「……訳があって佐藤小太郎とその家族をうちで面倒見ることになった。迷惑をかけるが、できる限り僕が面倒見るようにする。それとこのことはシークレットで頼む」
よし、ありえないくらいクールに言えた。よし、花梨たんのもとに行こう。走り出したい気持ちを抑えて歩いて近づく。
「はぅ……「――父を助けてくださって本当にありがとうございます、お兄さん。お名前は何と言われるのですか?」あ、えっと翔です」
手を握って、感謝してくれた……名前を認知してもらえそう……助けてよかった…………
「翔さんは、私たちの命の恩人です」
翔さん、翔さん? 翔さん! 翔さん、サイコー……
ハッ、会話をつなげなきゃ
「あ、えっと、あの、あーーウチ来ない?!」
「…………」
☆☆☆☆
テストなんで少し空きますです。
あとめちゃ関係ないんですけど、この前、午前に小説「永遠のゼロ」を読んだ勢いで、午後に映画も見たらすっごい泣けました。感動したい人午前小説、午後映画いいと思います。
若きギャングが殺そうとしていた相手の娘に一目ぼれした話 クリヲネ @kuri_wo_ne
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