第1話 仮面の下は、美少女?

 頭の中で幾つかの仮説が立てられる。

 単純な仮説ばかりだけど。


「魔物が焦ってたのはこのせいか?

 魔力感知が可能な魔物は、この異常な魔力を恐れて、できる限り遠くまで行こうとしていたのか?

 確かに、目指していた方向は出口。

 この説なら辻褄は合うな。まあ、単純すぎて誰にでも思いつく仮説だけどね」


 数十メートル歩くと、次第に奥の方が魔力が強いことに気づいた。

 おそらく元凶がそこにある、俺はそう踏んで三割の恐怖、三割の勇気、残り四割の好奇心を持って、小走りで強い魔力を持つ魔物のところへ駆けていった。


 これは─────


   ─────グヘッ!………グハッ!


 三割の恐怖が薄れて半分が好奇心に満たされようとしたとき、右側から強い衝撃波が直撃し、幅十数メートル土の道を右端から左端まで飛ばされた。


「何だよ!?気配も分からなかったッ!」


 垂れた血に味は無く、半分を満たしかけていた好奇心も、一瞬のうちに恐怖に変わり果ててしまった。

 目の前に現れた魔物は今まで見た魔物の中で類を見ないほど大きく、類を見ないほど速く、溢れた魔力によって形成された妖気オーラによって、輪郭がハッキリ見えないほどのツワモノであった。

 距離は目分量で五メートル。手には錆びた大太刀を持っていた。


「……………死ぬ……………」


 ある意味での覚悟がついたのか、死を悟ったのか、はたまた強い魔力で呪縛らしき何かにかかったのかは定かではないが、身体に力が入らず逃げる気力も体力も無かった。


 ああ、もう駄目だわ。


 死ぬその前、目を瞑って食いしばる。


「…

 ……

 ………」


 一秒、二秒、三秒、四秒と続いても、身体のどこにも痛みが走ることはなく、静かに刻々と時間が過ぎていった。


 違和感過ぎて力を抜き目を開けると、全く気配を感じない女性が立っていた。

 魔物の大太刀を寸分違わない力加減、距離感、威圧感で一ミリもない剣の刃の部分で留めている。

 当たっているのも大太刀の刃の部分である。

 ミリとミリの接着を維持させる技量は開いた口が塞がらない程。


 ………っていうか、誰だよ。




「……………………………………………………………………少年、大丈夫?」


 ちょっとした沈黙の後、その女性が俺の事を心配してきた。

 十八〜十九歳ほどの発育された身体と黒髪の女性。

 顔には仮面があり、素顔は分からない。


 ………っていうかさ、あんな魔物バケモノと対峙してるのにさ、なんか、凄い余裕そう。


「さて、早急に終わらせる」


 安否確認を終えると、俺に向けていた顔(正確には仮面ね)を魔物バケモノの方へと戻し、戦闘態勢に入っていった。


 その後の彼女は凄かった。

 巨体からは考えられない速度で繰り出される大太刀も全ていなし、純粋な力量だけで魔物バケモノを後退させる。

 隙を見せた一瞬で、適確に心臓へと一刺し。

 魔法かスキルか、はたまた別の術なのかは定かではないけど、全血液が沸騰したと思えば一瞬で凍結した様子。


 その一瞬、ほんの一瞬だけ彼女の頭部に焔と氷の角が一本ずつ額の両側に生えているように見えた。


「少年、早くここから出なさい。

 君のような子がこんな危ないところに居るものでは無いわ」


 それだけ言い残すと、彼女は高性能の回復薬三本を渡して何処かに去ってしまった。

 追いかけようとしたけれども、あまりに静かに速く消えてったため、追いつけなかった。


「なんだったんだ………」


 渡された回復薬を飲み終える。

 すると、みるみるうちに傷は癒えていった。


「シャルル、大丈夫かい?何があった?」


 少し遠くから、シノンが寄ってきた。

 シノンは冷静に状況を分析し、安静にしろバカ、と言った。


 俺は、さっきの魔物バケモノの恐怖なんて忘れ去って、いつもの調子で笑って話している。性格だな。


「さっきまでは死にかけてたけど、この通り大丈夫っぽい。一撃で死にかけたのは驚きだったけど─────」


 地面に転がっている空き瓶に視線を向ける。


「─────誰かが回復薬をくれたから傷は癒えた。だから大丈夫」


 事の顛末を事細かく話すと、ハァ、と安堵の溜め息一つ零しながら、無茶無謀しすぎ、と軽いお説教をされた。

 反省してます、はい、本当ほんとごめんなさい。


「でも、おかしい。

 この層に君が一撃で瀕死になる奴なんて居ないのに。

 一番近い層でも第7層か、もしくは第6層になるはずなんだけど………その瓶を渡してきた誰かってどんな人だった?」


 質問の意図はよく分からなかったけど、事細かにその人の特徴について説明した。

 仮面を付けていること、髪は黒髪で長かったこと、身長は170センチほどあるのではないかということ、ありえない程強かったこと。

 そして、二本の角が生えていたこと。


「勇者………または賢者か?それとも別の何かしらなのか。冒険者なら─────出来ればクラス5以上とは関わっていてほしくないんだけどね」


 少々知らない単語が頭に入ってくるな。

 勇者、賢者、冒険者ぐらいは聞かされてた話に登場するから分かるけど、その後に言ってたクラス(?)は分からない。

 会話の流れからみて、多分だけど冒険者の位を表す何かじゃないのかなと思っている。


「まあ、心配してても何も変わらないし、まずは家に帰ろう。

 辰爾が夕食作りながら、まだ帰ってこないのか?今日は猪の唐揚げだぞ?って言いながら帰ってくるのを待ち遠しにしてたし早く帰ってあげよう」


「辰爾、猪の唐揚げ好きだもんね。

 じゃあ、帰るか」


 安静にしていたお陰で、幾分か疲れと体力も回復してきたので、いつもの通りシノンを抱えながら家までの道程をトコトコと帰っていくのだった。

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