序章 龍が死ぬ頃に。
プロローグ あるいはスライムか。
さてさてさて─────突然ですが、質問です!
『ぷにっとしていて、少しひんやり。
丸くて軟らかくて可愛い。
そして、丁度いい大きさで丸くて、兎にも角にも愛らしい─────』
そんな種族(魔物系統も含む)といえば?
そうです!スライムです、スライムなんです!スライムなんですよぉぉぉぉぉぉ!
ツルンとしたボティにペチャっとした音、可愛い限り。
それが美少女なら尚更─────グヘッ!!
(スライムに顔面打たれて睨まれた………)
……………ゴホン……………。
まあ、そんな戯け話は置いといて。
現実世界と異世界とでの決定的な差で、異世界においては絶対不変のヒエラルキー的なモノは何か、と聞かれれば迷わずこう答えるだろう。
─────種族、と。
これは、
この世界の基本とも言える最大の特徴、それが種族。
スライムだって一つの種族。
人も、天使も、悪魔も。
ましてや、神すらも種族。
そんな世界。
この世界は基本、この七つある先天性の『
誰にでも、必ずあるよね!種族って!
でも、俺には─────
─────種族が無い。
そうです!種族が無いんですね〜〜〜!
マジで何なんだろうね。
このセカイでは種族を非常に、そう!ひじょーーに重んずるんだよ!
その種族だけの魔法、スキルとか。
その種族特有の特性、考え方とか。
こんなモノがあるから……………。
例えばスライム。(さっき話題に出したからね)
スライムには、生まれつきで『斬・打耐性』、『再生』『擬態』などを保持している。水には異常に強いけど、火にはめっぽう弱い。
他にも
平たく言えば───いわゆる特性というモノである。
だから、種族のないヤツは異端中の異端なんだよなぁ。
そしてそれこそ俺、シャルロット・ランビリス(以下シャルル)である!
肩よりも少しだけ長く伸びた純白な髪を靡かせながら十代前半ほどの身体を立ち上がらせ、まるで美少女と大差無い顔つきの少年が歩きだす。両手で一匹のスライムを抱えながら。
しかしだ。しかしながら、だ。
この世界での種族というのは、それはとても大事なもので、どの種として産まれ、どの族として分類されるかによって一生の半分が決まると言っても過言では無いんだよな。
そんな世界で種族の無い俺なんて例外中の例外、異端児なんだろうな、と日々噛み締めながら生きております(涙目)
まあ、別に無かったからって苦労したことなかったし、何か不便があるとかそういうのじゃないけどさ。でもさ、なんか羨ましいじゃんか、種族ってヤツ。『ないものねだり』というか、『隣の芝は青い』というか、『隣の花は赤い』というか、『隣の糂汰味噌』というか………。
(ちな、後三つは全く同じ意味)
まあ、なんかそんな感じに日々生きているわけでございます。
そんな俺は今、溜め息をひとつ零しながら迷宮をせっせと探索している。迷宮なのに快晴の森の様だったりもする一階層を。
溜め息を零す理由は────一ヶ月間ずっと探索を続けても、まだ次層に行けてな・い・か・ら・だ!
初めて潜ってから一ヶ月だ。一ヶ月だよ!?
一ヶ月毎日潜ってもまだ第一層から抜け出せていないのだ。どうしたらいいものか………。
最近ヤケクソになりつつある。
たまに見つけるよく分かんない草と、キラキラした鉱石と、たま〜に倒す魔物のドロップをとある
木の根元で採取をしていると、魔物の気配に気づき───正直に言うと萎えた。
「さてさてさてと、魔物かぁ………」
まだ未だに魔物との戦闘には慣れていない。
最弱級の魔物とだって一匹倒すのに一苦労する程。
戦闘のセンスがないのか、やり方を知らないのか、中々倒すことが出来ないのが現状なのだ。
強くなりたい。そんな気持ちはあるが、それがどうにも大きくならずに脳裏の片隅にしか無い。
短剣を抜いて、まだ十秒と少しに一度しか当たらない剣戟で慣れない戦闘を繰り広げている。
数分経ってようやく勝てた。
魔物の方がいつもより焦っている感じで、どこか必死だったけど………まあ、関係ない。
最弱級にこれ程時間を取られるなんてこれからが思いやれるな………。
戦闘前に端に残していたスライムを拾い上げ、迷宮の探索を再開する。
「さて、これからどうしようか」
それから数十歩歩いた後、何かに気づいたかのように腕の内に抱えられているシノンが訊いてくる。
「ねえシャルル、一つ気になってたんだけどさ、マッピングってしてる?」
「マッ………ピング?何それ美味しいの?」
「え………。マッピングを知らないって。じゃあ、何なの、ここ一ヶ月ただ行きあたりばったりに探索を続けてたってことなの?」
コクりと少し顎を下げて頷く。
そこには何の躊躇いもなく、それが普通と言わんばかりの目をしていた。
「
ボソッと呟くその言葉にはニ割ぐらいの殺意が籠もっている。
シノンが何を言ってるかは分からなかったけど、少しドス黒い何かを察知することぐらいは出来たかな。
「ちょっと僕には用事ができた。
シャルルはもうちょっと探索しといて。
私はあの邪龍を〆ておくから」
最後の一行をニコッとした笑顔で言うシノン、なんて恐ろしい子………。
腕の中から飛び降りて、外と繋がる門へ向かってピョンピョンと飛び跳ねながら行ってしまった。
「さてさてさてと、それじゃあ俺はもうちょっとだけ見回っとこっかな。
それにしてもマ〜ジで誰一人として人に遭わないな。
辰爾は、ダンジョン
………っていうかマッピングって何だったんだろう?」
な〜んか、モヤモヤが離れないな。まあいいや。
それからは、いつも通りただヒタスラに一層を探索した。
何度か同じ道を通ったけども、気にしない………気にしな〜〜いッ!
木にバンダナでも巻けばいいじゃんと思ったけど、生憎予備のバンダナ持ってないんだな。一つは今髪を括るのに使ってるし。
「それにしても、何かやけに静かだな。
いつもならもうちょっと動物がうるさいのに………」
※ここで言う動物と魔物の違いは、魔力の保持の有無。
「兎やらがもう少し跳び回っててもいいし、鳥だって。それに………まあ、いいか」
それから小一時間ほど剥き出した鉱石と、綺麗に育った草系植物、後は魔力を帯びた動物の稀少部位を回収して………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………魔力を帯びた動物!?
魔力を帯びた動物なんてそれはもう魔物だ。
でも、ここまで綺麗に遺った魔物の死骸なら、内蔵してある魔力だって完全には放出されずに残っているハズ………。
ただ単に魔力帯びてるだけの動物なんて明らかに異常だ。
それも、前を見ると酷似した症状の動物の死骸が幾多も転がっている。
「これ………まるで魔力で絞殺されてるような感じだ。動物は魔力感知が出来ないから即座に逃げられなかったのか?」
それから、無意識的にその原因を探りつつ探索を再開した。原因を探り始めたのはただの好奇心だったかもしれない。悪い癖だ。
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