第8話 すぐ終わる。
「あまり警戒しないでくれ。
それと俺もこの性質を知らなかったんだ、許してくれないか?」
微かに聞こえていた弦を引く音がしなくなった。
そして、見えなかった人々が次々と俺たちの前に現れ、跪いた。
思ったよか素直だな。
それに、代表的なヤツ、なんか老けてね?人間でいうところの三十代後半って感じ。
みんな思ってたよりも小さいし。
「我らごときが許すなどと………。
わ、我らの方こそ、矢を射てしまったこと、お許しください………」
ビビってる?敬語になってるし。
それよりも、気になることがある。
「なあ、なんでお前らの服はそうボロボロなんだ?何か理由があるのか?」
「そ、それは………」
言いたくないことなのかな?
あまり深く詮索するのは止めておいたほうがいいかも知れないな。
「それは、場所を変えてお話し致しますので………」
そう言われて俺たちは、十人程度の
というかこの人、集落の長だったのか。
てっきり見回りの代表くらいだと思った。
「それで、その………この格好のことでしたか」
別に破れている訳ではない。
破れてたらなー、なんて考えてたわけではないよ?うん。みんな予想通り美形だったからって、ね?
ボロボロでヨレヨレな服。
完全に梳かしきれていない髪。特に女性がそれは目立つな。
「私たちは元々そこまで強く無い部類でして、技術もそれほど無く」
「それで、か?」
「いえ、近くの他の集落とよく
「ならどうして」
「それが、十数日前から森のより東に居るはずの
なら、放っといても大丈夫なんじゃ無いのか?
『否。魔獣系の魔物の縄張り争いとは、その先住の魔物らを駆逐することです。故に、放置は最悪の結果を招きます』
そっか。
「幸い、まだこの村での犠牲は出ておりません。
が、出会うとやはり応戦しなければならず、こちらの戦力が乏しいため、負傷者は多く………。
それ故、皆恐がっているため中々
「そうか。それで、か」
「はい………」
何で急に縄張り争いなんて始めたんだろう?
たまたま?それとも、何か理由があるのか?
もっといいタイミングは他にも有っただろうに。
『
『はい。それは、辰爾の消滅によるものかと』
というと?
『この一帯、シエラの森または魔境シエラと呼ばれる領域は、世界樹を中心として広がっている北方領域、樹海が広がっている西方領域、極薄の塩湖や、砂漠など辺境が広がる東方領域の三つに別けることができます。
そして、迷宮庭園と呼ばれる迷宮を中心とした領域があります。
しかし、この領域は不可侵領域であるため、分類に含んでいません。
辰爾って不可侵領域の主だったんだ。
ああ、だから辰爾の消滅が原因なのね。
それに、俺がこの十年迷い込んだ異世界人以外は誰一人として会わなかったのはこれが原因だったのか。
なんかさ。それ、俺らが原因な気がする………。というか、俺らが原因なんじゃね?
「そ、そこでなんですが」
「ん?」
「ど、どうか、我らをお助け願えませんでしょうか?
矢を射たことをお怒りとあらば、私と先程の者の首を以てお詫びいたします。
ですので、どうか………どうか………」
どうしよう?
責任とかそこら辺の話は苦手なんだよな。
だから、生徒会長とかそういうの苦手で、いや、やったけどさ、あれはやらされたというか何というか。
でも、これって俺が負けたら………考えたくもない。
「どうか………どうか………」
うーん。でも、この状況作り出したの俺らなんだよな。ここで、嫌です、って言うもの気が引けるしな。
「なあシノン、どうする?」
囁く程度の声。シノンにしか聞こえない声で訊く。俺ひとりで決めるのは心許ないと思ったからである。
「………どうしよ………」
シノンも気にしてるみたいだな。
うーん…………………………よし、決めた。
「分かった。協力する」
やっぱり、わざとじゃないが、引け目を感じたからである。
「だが、それに伴って当然こっちは対価を求める。それでもいいのか?」
別に本当に欲しいわけではない。俺だって責任を請け負うんだ。引け目を感じてるにしても無償は余りにも安すぎる………というか、コイツらも引け目を追うことになるかも知れないからな。前世の俺みたいに。
そこで思い出す。無償で何かを貰う、奢ってもらうことが苦手だったことを。
まあ、ここで諦めてくれれば楽なんだけど。
「そ、それは当然のことでしょう。
求めるのなら、報酬を用意しましょう。
金貨でも、希少な素材でも………。
も、求めるものなら、
「いやいやいやいや!そこまでは要らないし、女性とか命とかそういうのは交渉に持ってくるもんじゃないし!
それに、金貨も素材もこんな貧しい村には数少ないんじゃないか?」
長が黙り込んだ。
やっぱそうじゃないか。貿易という名の交換でどうせ必要になるんだろうから貰うわけには行かないよな。
「分かった。報酬はこれが終わるまでに考えとくよ」
「そ、それでは………!」
「協力関係締結だ」
「ああ………!あ、ありがとう御座います………!」
ああ、まだ一日も冒険してないのに、終わったよ………俺の冒険。
「あ、そう!」
「ヒッ………!」
お、大きい声出してビビらしちゃったか。すんません。
「なんで、君は老けてるんだ?」
「え!?唐突!しかも滅茶苦茶失礼!」
今日もシノンのツッコミがキレている。
「あ、ごめん。で、でもさ、やっぱ気になっちゃったんだよね。俺のイメージじゃ、
「そ、それでしたら我らの種族に関係があります。
我らは
俗称ではありますが、
そ、そうなんだ。
弱小………なんか、申し訳ない。そんな話、他人にはしたくないだろうに。協力関係だから配慮して話してくれたんだろうな。
それから夕食時になると、彼らが用意した物を有り難く頂くことにした。
「この西方の領域は、森の恵みが多く、動物も豊富に存在している為、上質な肉がよく取れるのです。どうぞ、召し上がりください」
「これも全て、我らが守護王のお力のお陰でございます」
「守護王?そこ守護神じゃ駄目なのか?」
「しゅ、守護神などと!!
あ、貴方様は守護王ヴァルアス様の伝説を知られておらないのですか?」
頷く。
「ヴァルアス様はその昔、自らのことを神と称する人間たちを全て滅ぼしたという伝説があるのです。それから、人間たちからは邪龍と恐れられるようになりました。
よって、我らこの森の加護を受ける者も、彼の御方を神と呼ぶのは
守護王様が消滅なされた今でも、これは変わっておりません。いえ、変えられないのです」
だから守護神じゃなくて、守護王なのか。
話の流れからすると、守護王の正体ってさ、
『推測通り、辰爾です』
へえ。………って!アイツ何やってんだよ!
俺の中で、辰爾への評価が何段階か下がった瞬間である。
そして、ふと思い出す。
そういえば、"世界の言葉"が辰爾のことをヴァルアスって呼んでたよな。
「なあ、この村?集落?の人口はどれくらい居るんだ?」
「子供を含めれば、97人です。除けば人79になります。戦える者はといえば………その半数居るかどうか………」
そうか。それぐらいか。
現代に集落なんぞ、そうそう無いし、俺は結構都会部に住んでたからもっと分からない。
「
「えぇ………大体150数匹と100数匹になります」
………って!五 倍以上!
そかも、ここの
昼間戦闘員三人ぐらいと手合わせしたけど、弓引くのは遅いしエイム力は無いし、剣とか刃物はあまり使えてないし。 俺基準だけどね。
本当、狩りに特化したスキルしか無いし。
それも、智慧のある魔物──高い知能を持っていたり喋れたりする魔物──には使えないんだろうし。
「うーん………」
肉を頬張りながら考え込む。
………あ、そうだ!
「なあ、村長!(コイツ、もう村長でいいや)近くに協力してもらえそうな
協力してもらえそうな集落はあるか?」
ビクッとした村長が、ま、まあ、と答える。
俺の脳裏に浮かぶ可能性が輝く。
「よし、希望が見えた。何とかなるかも!」
始まったかのように思われた俺の旅は、数時間で終わった………いや、終わってしまったのである。
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