第5話 明日、龍は死んでいる。
「これで終わらせる。"
体制を崩し、隙の生まれた辰爾の胸のド真ん中に剣を入れ込んだ。
"
こんなの食らっちゃあの辰爾でも死ぬだろう………。勝てっこないんだろうな。
「……………………………………………………………………何故死なない!?」
彼女が動揺している。
これは俺も理解できない。何故、辰爾は生きているんだ?(一応跪いてはいるけど)
「すまんな、俺は今、
「いつの間に
「それか。それはさっき、シャルルに肉体を移しておいたからだな」
なっ………!?
俺でも初耳の新真実がやってきたんですけどぉ?
いつの間に………。
「さっきさ、辰爾が詠唱したの覚えてる?それが肉体譲渡の魔法だったんだよ」
シノンが説明してくれた。
そうか、さっきのあれか。
『俺はもう、生き過ぎている』というどうも詠唱とは思えないそれが、偶然ここに来て役に立ったというのか。
それとも、
「この攻撃を読んでいたのか」
「さあ?どうだろうね」
どっちにしても、なんか、一安心。
死んでないんだから。
ただし、
「なら、精神体を滅ぼすまで!」
やっぱりそうなるよな。
「"
トリガー式の詠唱途中で、辰爾が自分の持っていた剣で相手のもう一本の剣を弾いた。
まあ、持っていた剣は手から離れ、宙を舞っているので、辰爾に次の術は無いんだが。
だが、不思議と俺はその舞っている剣を掴もうと勝手に身体が動き出していた。
その時、俺の脳内に、現実世界で初めて『
内容はこうだった。
『演算が終了しました。勝率99.9%です』
そうか。そうならやるしかない!
舞っていた剣を取り、俺の魔力を
なんで辰爾が勝てない俺がこの人に勝てる確率が99.9%もあるのか疑問には思っているが、このチャンスは逃せないので、乗ってみることにした。
「君、弱かったんじゃ………」
驚いている。
正直俺も驚いているんですよ。さっきまで全く見えなかった攻防が見えるようになってたし、貴女と渡り合えてる。はっきり言って引くぐらいには驚いているんですよ。
だから、お互い様だね!
「なっ………なんで逃げられないの………」
エクストラスキル『尊大』により、躊躇わなくなった剣筋とエクストラスキル『貪欲』によって、記憶にある辰爾の剣技と彼女の剣技の一部を習得したから、どうにかこうにか渡り合えている状況だ。
まだ慣れない剣技も混ざってるからか、ちょっと気持ち悪い感じはするけど。
「これを見ると、やっぱり覚醒めたんだね。
記憶の不完全覚醒な転生者の記憶が覚醒した時、素の何倍何十倍の力量を一時的に発揮することが出来る。
今回、そのタイミングがこれ以上ないくらい良かったんだ。
僕の見立てより若干早かったけど、どうせアイツの仕業だろうし、まあいいか」
俺は最後に、彼女に向けて刀身が見えなくなるほどの魔力を纏わせて一振りを食らわせようとした。
だがしかし。
多分、魔力に耐えられなかったんだろう。
刀身が散り散りになり、微塵も残らず俺の魔力だけうっすら透けて一撃は当たらずに彼女は生き延びたのだった。
0.1%の方を引いてしまったか………。
滅茶苦茶マズい状況である。
しかし、彼女は転移魔法にて撤退した。
攻撃が止んだ瞬間に逃げることを選んだのである。流石にあの傷じゃもう戦えないしね。
自らの足元に転移魔法陣を展開した。
ああああああああああ良かったーー!
俺、剣ないし、魔法使えないし、
………って!それよか辰爾だよ!
胸に剣がぶっ刺さってたし、スゲえ心配。
「辰爾!お前、大丈夫か?」
「まあ………ね………」
本当か?どう見てもしんどそうに見えるんだけど。確かに精神体だからか血潮が吹いたりはしてないけどさ。
「それよりシャルルお前、記憶が戻ったのか?」
「ああ。前世の事、ほとんど思い出した」
「そうか。だがまあ、記憶が戻ったんなら良かった。
超安定状態を維持できる特殊な
そっか………そっか………。
後、それぐらいしか残ってないのか。
シノンの言ってた封印以外で死ぬ原因ってこれのことか。
「最後にちょっと、行きたいとこ在るんだけど、いいか?」
「………ああ………」
それから、俺とシノンは黙って辰爾に連れられた。そして、着いてみると、そこは俺たちが数時間前に来ていた例の湖だった。
「なあ辰爾!ここ来て良いのか!?だって、封印で離れられないんじゃ………」
「ああ。本当は結構ヤバい。
だけど、後数時間の命だ。魔素を温存してても意味がない。
身体は動きにくいし、束縛みたいな状態異常かかってるけど、そんな事よりも、俺はふたりとここに来てみたかったんだよ。死ぬ前に、ね」
なんか、しんみりするな。と、言いたいところだが、当の本人がヤバいとか言いながらニヤニヤしていて完全にしんみりと出来ないんだが。
「なあ、
「それは無理だな。俺は譲渡する術式は知ってるが、返上してもらう術式は知らない」
「じゃあ、その譲渡する術式を俺が使うのは?」
「無理だ。お前じゃ圧倒的に魔素が足りん」
そっか。もう、どうしようも無いのか………。
そっか………。
シノンが辰爾の死の期限に対して曖昧な返答をしたときから、薄々嫌な予感はしてたけどさ。
「俺は今まで辰爾といれて良かったと思っている。今年で十年になるのか?俺がこっちで転生してから十年間、一緒にいれて良かった、と思うんだ………」
「何勝手にしんみりしてんだよw!」
クスッと笑った辰爾が俺の背中をバシッと叩いた。
良く決めようと思っていたのに台無しじゃねえか。
「お前が悲しそうにしてどうするw
別にいいじゃねえか」
軽っ!?
これから死ぬってヤツのセリフじゃねえぞ。
はあ、調子狂うわ。
こんないつも通りのテンションだと、俺が可笑しいみたいじゃねえか。
いや、辰爾のことで一瞬でもしんみりしたて俺が馬鹿だったな。
なんか、泣きそうな気分はどっかに吹っ飛んでいった。
そうだな、頑張れ、と笑って言う辰爾が拳を伸ばしてくる。
「んじゃ、後は頑張れよ」
「おう!」
その拳に俺も拳を当て、まるで少年漫画のような展開だとは思ったけど、最後なんだ、少しばかり子供っぽいカッコ良さでも良いと思った。
辰爾の
もう、お別れなんだろう。
『マスター、『悪食』にて周囲の魔素を捕食してください』
『
というかさ、何だよ、急に出て来て。
捕食………だっけ?
良く分からんが一応やってみるか。
辰爾が霧散していった後のその空間にある魔素という魔素を全て『悪食』で喰った。
いや、こんな事して何の意味があるかは知らんが、なんかすげえ『
《確認しました。根源の砕片を収集及び、根源の保護に成功しました。
これより、不足分の補完を開始します》
ん?天の声的なヤツが急に妙な事を言い出しやがりましたぞ?
根源の………収集?保護?
不足分の………補完?
全く理解が出来ないね!
理解不能な単語(いや、単語の意味ぐらいは知ってるけどそれは前世の記憶で、今使ってる意味で、って事)が並べられているからである。
………っていうか、根源って何?
『根源。それは魂と魂に紐付いた
そう言って、脳内に直接数式を送り込んできた。
魂+
ほうほう。要は魂と相違ないと?
『少し違います。ニアリーイコールと行ったところでしょうか?
言うなれば原子量に電子を入れるか入れないかぐらいの差です』
へえ……………って!誰が分かるか!いや、分かるけど、分かるけど分かるかっ!
簡単に説明すると、限りなく同じだけどはっきりとした差はあるよ、って事だろ?
最初からそう言えよ………。
『考慮します』
話が逸れたな。
で、『
『天の声的なヤツ、じゃなく"世界の言葉"です。そろそろ訂正した方がいいと思いまして』
コイツ………知ってて放置してたな。
まあ、そこは一旦置いといて、何で『悪食』で食わせたのか、説明オナシャス!
『この行為の意図として、肉体情報の獲得による、マスターの根源を受肉体に定着させるコトです』
ほうほう。そうか、この身体もまだ完全に馴染んだわけでは無いんだな。
確かに、
『そしてこれは、辰爾の復活に関わるコトでもありす』
なあ、『
今、辰爾の復活とか言ってなかったか?
そんなことが可能なのか?
俺の脳裏には希望が浮かんできた。諦めていた辰爾の復活、もとい蘇生が可能かも知れないのだから。
『可能とまでは言い切れませんが、不可能では無いです。要は、確率はゼロではありません。試してみる価値はあるかと』
確率がゼロでは無いのなら、それならやってみるしかねえじゃねえかよ。
どうせ魔素に還元される運命だったんだ。
ローリスクハイリターンなこの賭けをやる以外の選択肢は無いな。
そうなれば、即座に検証・実行して………。
俺はそのままその場に倒れ込んでしまった。
最後に聞いた言葉は何だったけ?
確か、こうだったような………?
《肉体の定着に成功しました。
仮種族
これより仮種族
この日、俺は完全な誕生、本来の意味で転生を果たした。
そして、後にこの日が世界にとってシャルロット・ランビリスという異端の魔物?の発現の日とされたのである。
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