第30話

あれから、伯爵様が色々と調査してくれた結果、スコーン男爵は無知だけど実力はある魔道具製作者をたくさん囲って色々作らせている事が分かった。


マニチの冒険者ギルドの支部長もスコーン男爵と繋がっていた。


僕は、ナビを売った時から目をつけられていたらしいんだけど、僕はほとんど街に出ないし、街に居る時はアオイさん達が居るしで、なかなか接触出来なかったらしい。


だからアオイさん達に大量の仕事をさせて、僕がひとりで街をフラフラしてるところを狙おうとしたんだけど、買い物はアオイさんと一緒だし、会うのはリタさんくらい。


リタさんは、かなり有名な職人さんで、リタさんを敵に回すとマニチで買い物難民になるから迂闊な事は出来ず……。


ナビを大量注文して、困ったところで職人を紹介して、作り方を盗もうとしたら断られ……。


痺れを切らして、協会の事は知らなそうだから代行申請してアオイさん達に声をかけてナビを売って貰い、捕まった後に僕を引き抜く予定だったらしい。


最初に僕を引き抜こうとしたギルドの職員さんもグルだった。


「これ、僕らが親方に会いに行ってなかったらどうなっていたんでしょうか」


「アオイさん達はしっかりしてるからナビを買う時はギルドから買うように言っただろうし、しばらく何事もなければ次の手を打った可能性が高いな。まぁでも、良かったじゃねぇか。冒険者ギルド全体がやばい訳ではなかったんだからよ」


そう、マリカさんをはじめ、冒険者ギルドの大半の人はちゃんとしていた。信用商売だから、ものすごく気を遣ってくれていたし、だからこそアオイさん達も信用して冒険者ギルドに販売を委託したんだよね。


ただ、マリカさんも魔道具協会の事は知らなかった。支部長も、男爵の指示でしたって言ってたから、魔道具協会、あまり知られてないのかも。僕も忘れてたしね。


もし、僕が先にちゃんと申請をしてれば後から申請に来た支部長は、その場で捕まってた。


一人前の職人って、物を作るだけじゃないんだよね。ダン親方だって、事務仕事もあったけど嫌がりながらも全て自分でしてた。

僕も手伝ったけど、全てを押し付けたりしなかったもん。だから、僕も申請の事なんて知らなかった。でも、よく思い出したら、マジックバッグは売る時は手続きが要るから、必ず連絡しろって言われてたんだよね。それが申請の事と思わなかったんだから僕もお間抜けだ。親方とふたりで作ったから、売る時は親方の許可が要るとばかり思ってた。


ダン親方は事務仕事も自分でしてたけど、他の親方は奥さん任せだったり、弟子に押し付けてたりしてたなぁ。酷い人になると、お金の管理や申請なんかの事務仕事は全て奥さん任せなのに、原価も考えず値段をつけて、夫婦喧嘩してる人を見た事あるよ。あれは本当に怖かった……。結局、奥さんと離婚してお金の管理の大変さを知っても後の祭り。そのまま倒産して僕もクビになった。


うぅ、やっぱり任せっきりは駄目だ。


「ダン親方に会いに行って良かったです。僕、もっと勉強します」


「おう! なんでも教えてやるよ。魔道具協会も、伯爵様の力を借りてもう少し有名になるよう頑張るってよ。今回の事件が公になれば、嫌でも有名になんだろ」


そう、今回の事は結構大きな事件になったんだ。

スコーン男爵は、庶民を騙して魔道具を作らせ、不当な利益を得ていたと爵位が剥奪されたそうだ。


騙して魔道具を作らせていただけなら注意くらいだったんだけど、冒険者ギルドの職員を買収して、更に魔道具協会に虚偽の申請をした事は悪質だと判決が出た。


これで一般の人も少しは魔道具協会を知る事になるだろう。


代行申請は受付しない事になった。協会まで来れない人には協会の職員さんが出張して申請を受付てくれる。


移動は最初はアオイさんがサポートする事になった。材料が揃ったら親方が転移の魔道具を作るらしい。


代行申請をしていた人は全員申請をやり直したそうだ。問題だった4人も無事申請し直して製作者と認められた。


問題なかった代行申請の人も、代行者はスコーン男爵と冒険者ギルドだったのでやり直しをした。どのくらい認められるか実験していたんじゃないかって。


「それにしても、これだけ色々やってる割に製作者を誤魔化す事はしなかったんですね」


「魔道具協会は、製作者に関してはかなり厳しいからな。いろんな魔道具を駆使して嘘がねぇか調べるから、ごまかせねぇと思ったんだろ。だったら代行申請で多少偽造する方が楽だからな」


なるほどね。今後は必ず本人が申請するそうだし、申請時は他の人は付き添えないようにするそうだから、製作者が不利になる事はないだろう。


「マイスは、今後ちょいちょい世話になるだろうからな。早いとこ転移の魔道具の作り方教えてやるよ。材料、揃ったんだろ?」


「はい!」


伯爵様がマジッククローゼットを買ってくれたおかげで、大金が手に入った。しかも、貴族様からちょこちょこ注文が入るようになったんだ。


貴族様とのやりとりは面倒だから全て伯爵様が窓口になってくれている。伯爵様も人脈作りに使えるからと手数料はごく僅かしか取っていない。


最初は、手数料なんて要らないって言われたんだけど、タダは怖いから必死で受け取って貰えるようにアオイさんと交渉したら、逆に気に入られてしまった。


アオイさんの国にはタダより高い物は無いって言葉があるらしい。


それを聞いた伯爵様はすっかり僕らを気に入ってしまい、たまにお屋敷に招かれるようになった。


今後は、困った事があれば言えって言われる。親方曰く、だいぶ気に入られたな。だそうです。

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