第29話

「やぁ、ダン! 久しぶりだね! 急に会いたいと言うからびっくりしたよ」


「急な申し出を受けて頂きありがとうございます。本日は、私の弟子も一緒でございます。とても優秀な私の一番弟子です。弟子の作った物もお持ちしました。よろしければご覧下さい」


「ふぅん……何か頼みがあるみたいだねぇ。まぁ、ダンが優秀って言うくらいなら話を聞く価値はあるかな。とりあえず作った物を見せてくれる?」


「かしこまりました。動かせない物ですので、場所の指定をお願いします。たくさん物が入るタンスでございます。マジッククローゼットと名付けました。動かすと魔法が切れてしまいますのでご注意下さい」


「それは凄いね。じゃあ僕の自室に設置してもらおうかな」


「かしこまりました」


「ところで、ダンのお弟子さんはどっち?」


ここまで僕らはダン親方にくっついているだけ。伯爵様も僕とアオイさんを完全無視していた。


それが、急にこっちを向いて笑ってるんだよ! めちゃくちゃ含みがある笑みだし!

怖い、怖い、怖いよぉ!


「紹介が遅れました。こちらが私の弟子のマイス、こちらの女性は、マイスの雇用主のアオイさんです」


「おや? マイスはダンの弟子だろう? 雇い主はダンじゃないのかい?」


「事情がありまして、私はミクタを離れました。その時マイスも私の雇用から外れたのです。その後、アオイさんに雇われました。マジッククローゼットは、マイスがアオイさんに雇われてから製作した物です」


「なら、関係者だね。悪いね、私はあまり沢山の人と話すのは得意ではないから、基本はダンと話をさせて貰うよ」


「「かしこまりました」」


親方の言う通りだったな。伯爵様は大人数で尋ねる事を嫌うそうだ。3人でギリギリだと言ってたから、カナさん達はお留守番して貰った。


僕らは、基本黙っておく。話を振られた時も、まずは親方が話す。伯爵様は、知らない人と話すのが嫌いだそうです。気に入られるまでは、黙っておくのが無難らしいので、僕らは貝になります。


その後、マジッククローゼットは、無事に設置された。マジックバッグから出したから驚かれた。


「へぇ! これはすごいね! これはマジックバッグ? 遺跡のものじゃないね。ダンが作ったのかな」


「マイスと私の共同制作です。まだ試作なので、お売り出来る物ではありません。ですが、こちらのクローゼットはすぐ販売可能です。どうぞお納め下さい」


伯爵様はマジッククローゼットを気に入ってくれて、奥様の分も購入したいと言われました。

そう言われる事は親方が予想してたから、もうひとつ作ってあったのでその場で納品しました。作るの、徹夜だったけど頑張って良かった。


「へぇ、やるね。更にもうひとつ欲しいと言ったら?」


「製作には時間がかかります。作ったばかりの物を伯爵様に真っ先にお渡ししているのですから、これ以上はご勘弁下さい」


「ふたつ用意していたのは予想外だった。それだけで凄いし、褒めてあげるよ」


「ありがとうございます。必ずお気に召す自信がありましたので奥様の分もお求めになると予想しておりました」


「さすがだね。このクローゼットは、装飾も素晴らしいから、金貨2000枚で買うね。僕に渡してくれた分はプレゼントで良いんだよね?」


「はい、もちろんです」


……きんか、にせんまい。


思わず声が出そうになるけど、必死で大人しくしてたら、伯爵様に笑われた。


「ダンの弟子にしては、良い子過ぎない? ああ、雇用主が良いのかな?」


「確かにマイスは良い奴だし、アオイさんも良い人ですが、そこで笑っては被った猫が台無しですよ。伯爵サマ」


「ふふっ、あまりに良い子だからびっくりしたよ。さて、僕になんとかして欲しい事があるなら教えてくれる? このクローゼットは気に入ったからね。多少の無茶なら聞いてあげるよ?」

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