第4話

「辛かったわね。けど、悪いのはギルド長達だけじゃないわ。貴方は自分の腕を理解してる? 今までの親方と貴方、技能が高いと思うのはどっち?」


「いつも仕事に夢中で、親方と話すのは新しい商品を開発する時だけでした。最後に雇ってくれたダン親方は、間違いなく僕より上ですけど、他の親方はあまり一緒に仕事をしなかったから分からないんです」


「10人もの親方に師事して、確かに自分より上と思うのが最後の親方だけぇ?! 職人なら周りをちゃんと見なさいよ! そんなんだから搾取されても気が付かないんでしょ!」


返す言葉がない。確かに僕は言われるがままに仕事をしてきた。モノを作るのは好きだし、楽しかったから作るのに夢中で周りなんて見ていなかった。職人はそれでいいって思っていた。だけど、それは一流の職人だけだ。僕はまだ見習いなのだから、もっと周りを見れば良かったんだ。親方の仕事、同僚の仕事を見ていれば自分のレベルは分かったはずだ。それなのに、才能がないと言われればそうなんだと思い込んでいた。実際、僕は自分がどの程度のレベルなのか分からない。そんな事、考えた事もなかった。


「その職人ギルドとやらも大概だけどね。貴方が開発したものが売れたなら、ロイヤリティを払うのは当然なのに」


「ろいやりてぃ?」


聞いたことない言葉なので聞いてみると、使用料ということらしい。僕が作ったもので100Gの利益が出れば、その何割かをもらえるらしい。なんだよそれ! 僕が開発したものは100を超える。どのくらい売れているかは知らないけど、いろいろな店で売ってるのを見かける。その度に誇らしい気持ちだったけど、なんてもったいない事をしていたんだ。


「コンビニなら5割から3割程度のロイヤリティね」


コンビニは知らないが、5割って何ですか?!


「ご、ごわり?!」


「ま、この世界じゃ取りすぎになるから無理ね。せいぜい純利益の2割か3割ってとこが妥当な線かしら」


それでもすごいよ! ものすごくもったいないことをしてたんじゃないかと思う。


「いまさら言っても無理よ。こういうのは最初が肝心なんだから」


「確かに、その通りです……」


「落ち込んでも仕方ないでしょ。次は搾取されないように面接の練習をしましょ。ほら、やってみて!」


「はいっ! 僕はマイスといいます。今まで、馬車の幌を制作したり、銀細工、ガラス細工、楽器制作、鍋制作、大工、水路整備、農具制作、宝石加工、魔道具作成をやっていました」


「多いわ!!!」


「え?! すいません、すいません」


「面接ではすいません禁止。いい? そうやって謝るだけで自信がないと思われるわ! それだけ渡り歩いてるのも、仕事ができないからだと思われる! そうなるとどうなる!」


「雇って貰えません」


「そうよ! ここは自信満々にいくのよ! 自信がある技術から順に伝えるのは基本! いつくかはまとめちゃいなさい。特に自信があるものは複数回言ってアピールよ!」


「マイスといいます。魔道具作成が得意ですが、他にも細工物や、大工として建物なども作れます。また、生活用品や楽器を作る事も可能です。魔道具は、特に自信があります!」


「よし! 分かりやすい!」


「ありがとうございます」


褒められる事が少なかったから、嬉しくなる。この人、良い人だね。


「今日はこの部屋を貸してあげるからゆっくり寝なさい」


「はい、あ、お礼に宿泊代とか」


「そんなのいいわ」


「でも、申し訳ないですし……」


「貴方、お金ないんでしょ? 就職してもすぐ給与は出ないのよ? 住むところも探さなきゃいけないし、お金は多い方が良いでしょ?」


「それは……そうですけど、せめて何かお礼をさせてください」


そう言うと、彼女は家のちょっとした修理を頼んできた。ドアが開きにくいそうだ。これくらいなら大した事ないし、すぐに修理した。


「すごい……めちゃくちゃ早いし、丁寧。これが本物の職人の技術なの……?」


すごく褒めてくれるね。嬉しいな。


「あの、他にもあればやりますよ?」


「えっと……なら他にもお願い」


彼女に頼まれた修理はどれも大した事はなかったので、全部で1時間程度で終わった。何故か呆然としているエルフさんは恐る恐る僕に質問してきた。


「あのさ……もし良ければ……今まで貴方が作ったものを細かく教えてくれないかな?」


「え? あ、はい」


僕は、今まで作ったものを全部話した。最初はニコニコしていた美女の顔がみるみる曇っていく。なんだろ、たいしたことないもの作りやがってとか思われてる? 最後に、ダン親方と作ったマジックバッグを見せた。これは自信作だ。


「貴方ねぇ……」


「は、はぃ!」


美女がお怒りだ。やばい、目が吊り上がって無茶苦茶コワイ。


「なんでこんだけのものを作成出来るのに、才能がないと思うのよ。最後のマジックバッグって古代の遺跡にしかないやつよ? それを作れるって……自分にどれだけの価値があるか分からないの?」


「すすす、すいませぇん!」


「謝らなくていいわ。それより貴方、就職先を探してたわよね? そんなに技術があるなら、私と組まない?」


「く、組むとは……?」


「鈍い! ここに住んで、私達と魔道具作ったり、家作ったりしない? 私達は家を建てる技術がなくて困ってたの。他に色々作りたい物があるのよね。もちろん、給与は弾むわ。開発した物を売る場合は利益の3割を支払う。もちろん口約束じゃないわ。ちゃんと魔法契約しましょ。試用期間は3ヶ月でどう? もちろん試用期間であっても給与は払うし、衣食住も全て面倒見るわ。ここにある家のどっかに住んでいいし、なんなら建ててよ! 大工さんでしょ? 材料は教えてくれたら手配するからさ」


「それは……」


「う、条件悪い? 給与の希望はいくら? 他に希望があるなら可能な限り叶えるよ! ロイヤリティ4割にする?」


「条件良すぎですよ! 何を企んでるんですか?!」


「企んでない! こんな優良物件逃すか! お願い、うちで働いてよ! 給与は言い値で払うから! ね、月にいくら欲しい?」


美女に縋りつかれてどうして良いか分からない。このまま頷いてしまいそうだ。


落ち着け、ここはまず相手の出方をみるんだ。正直、条件はかなりいい。給与は言い値っていうから、高めに言ってみよう。ダメならその時考えれば良い。僕は思い切ってダン親方に貰っていた金額の倍を言ってみた。


「え……その金額で……良いの?」


言い過ぎたぁ! さっきの強気でいけってアドバイスを受けて調子に乗ってしまった! そうだよ! ダン親方は結構多めに給料をくれてたんだった!


「すいません、すいません、多過ぎますよね。調子にのって今までの倍の給料を言いました。すいません……」


「え?! この額の半分しか貰ってなかったの?!」


「そうです、生活キツくて……もうちょっと楽になりたいなと欲を出しました! すいません……」


「言い値の倍出すわ! 今までの4倍よ! だから、ね? うちで働かない?」


笑顔の美女に、最高の条件を出されて断れる男がいるのだろうか? 僕は、色々考えるのをやめた。どっちにしてもどこかで働かないといけないんだ。こんないい条件、滅多にない。


「わかりました。よろしくお願いします」


「やった! やったわ! ありがとう!」


ちょっ……。いい匂いする! 抱きつかれた!

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