第3話

あれから、悔しくて悔しくて街を飛び出した。親方を追いかけようと決めたのだ。しばらく隣町で職人見習いをして、一人前になったらダン親方の所に行こう。後2年、頑張れば良いだけだ。


今までの給料なら旅支度を整えるなんて絶対無理だけど、親方のくれた退職金のおかげで旅支度を整えられた。2人で開発したマジックバッグに、食べ物も、野営道具も、親方がくれた道具もすべて放り込んであるからものすごく身軽だ。僕はドワーフだし鈍足だけどこれなら早く走れそうかな。試しに走ってみよう。


ドタドタドタ……。


うーん、遅い。遊ぶのはこれくらいにしとこう。森の中は迷いそうだし、確か方角が分かる魔道具を作ってたよね。取り出して方角を確認してみよう。


ん? なんだここ?


魔道具を頼りにまっすぐ歩いていたら、急に目の前が明るくなった。え! 何これ!


森が開けていて、小さな村? 違う、もっと小さい。3つの建物が見える。


僕の目の前には、大きな木の上にある家と、家を守るようにあちこちに居る大量の動物たちと、異様に美しい美女が居た。けど、どの家も歪んでる。危ないなぁ。気になって家を凝視していたら、美人さんが走って来た。耳が尖ってるし、エルフさんかな? エルフさんは、確か魔法が得意だと聞いた事がある。宮廷魔術師をエルフが務めている国は繁栄するとかなんとか。会うのは初めてだ。美しい人が多いとは聞いてたけど、本当に綺麗な人だなぁ。


見惚れていると、エルフさんは目を釣り上げて僕を怒鳴りつけた。


「こら! どうやって侵入したのよ! 認識疎外の魔術をかけてたし、悪意のある人は入れないように結界魔術も使ってたのに!」


ひぃ! 美人が怒ると怖いって本当だねっ!僕は必死で謝罪を繰り返す。


「わぁぁ! すいませんすいません! 僕はマイスです。見ての通りドワーフです! 悪意はありません! 隣町に行こうとしただけです。道に迷いました! すいませんすいません!」


「なんでこっちの方角に来たの! 来れないように魔術をかけておいたのに! 方角が混乱して、近寄れないようになってた筈よ!」


「方角がわかる魔道具使いましたぁ! すいません!」


「方角の分かる魔道具?」


「そうです! 僕が作りました! すいません!」


「すいません言い過ぎ、とりあえず悪い人じゃなさそうだし、ウチにおいでよ。お茶くらい出すし、もう暗くなるから危ないし泊っていきな」


「へ?!」


よく見ると日は傾きかけており、あと30分もすれば真っ暗になるだろう。


けど……泊まるなんて良いのかな?


「なにしてんの! 出て行くか泊まるか、すぐ決めて! 出て行くなら止めないけど、暗くなって森を歩くのはやめた方がいいよ! 宿泊代に身の上話でもしてくれれば良いからさ」


言葉はキツいけど、心配してくれてるんだ。良い人なのかな?


またギルド長達みたいに騙されるかもしれないけど、どうせ今まで騙されてたんだし、初対面で優しくしてくれたこの人を信じてみよう。

僕にはもう、なにもないんだから。


彼女の優しい心遣いに気を許した僕は、今までのことをかいつまんで説明した。ミクタで職人見習いをしていた事。10回もクビになった事。色々な商品を作ったけど才能がないと言われ続けた事。けど、それは僕を見習いのまま利用する為の嘘だった事。それを知ってたまらずミクタを飛び出したこと。話しているうちに情けなくなって、涙が止まらなくなってしまう。


エルフさんはお茶とお菓子を薦めながら、黙って話を聞いてくれた。僕が泣き止むまで、辛かったねと慰めてくれた。けど、僕が落ち着くと厳しい事を言っても良いかと聞かれた。僕が黙って頷くと、彼女はキッパリと言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る