第26話 国作り、その5


 今日は、建国祭を建国を始める記念祭に変えたお祭りの日だ。

街の中央の広い広場に作られた場所には沢山の料理や飲み物、果物、お酒などが用意されて住民たちはお祭りを楽しんでいた。


 しかしトムはそんな住民たちを見ながら真剣にフォーク国の此れからを考えていたのだ。


 先ず、理想は人族、獣人族、魔物族、魔獣族が差別なく一緒に暮らす事だが1年間一緒に暮らしてみて、やはり言葉が通じないのが問題で特に魔獣族は他の種族に馴染めず森の中に帰って行き今では白銀狼が残っただけだ。


 獣人族は人族を同じで人語を話せるので問題が無く、ゴブリン、オーガは上位クラスのブソンとドガの他に5人が人語を理解して話せるようになって、5人を通訳にして意志疎通が出来るようになり農作業などに問題が無くなった。


 だがゴブリンやオーガを国の運営に参加させるのは難しく、ゴブリンは農作業、オーガは国を守る兵士か警備員にするしか無かった。


 やはり人族をもう少し増やさなければ国の運営が難しいので人族の移住者を募集する事にしたのです。


 記念祭は盛り上がり、住民たちは夜中まで騒いでいた。


 次の日に女豹パーティーの3人にダビデ街のギルドに移住者の募集を頼みにロックが船を操縦して行ってくれた。


 トムが特産品や食料をどうするか考えて街の外れにある河の方に歩いているとナナリーナとジエルが付いて来て河の土手の上から河を眺めていると、ナナリーナがポケットから大事そうに小さな袋を出して。


「トム様、この袋に何が入っていると思います」


「ん~、お菓子かな」


「ヒントは、前世で毎日食べていたものです」


「う~ん、毎日食べていた物か?・・・・・・まさかお米じゃないよな」


「ピンポーン! 当たりです」


「ええー! 嘘だろうー! 本当なのか?」


「本当ですよ。王都にいた時に屋台で薬草を売っていた人が王国の南の沼地に生えていたのを見つけて薬草だと思って売っていたのですが、誰も買わないので私が見ていると、買わないか言われたのですがお金が無いというとくれたのよ。いつかお米を食べようと思って大事に取っておいたの」


「そうかー! よーし、田んぼを作って栽培してみよう」


 早速、河の支流に土魔法で田んぼを作り失敗しても良いようにお米の籾を半分だけ撒いて、木の魔法で促進魔法を掛けたのだ。


 次の日のトムが執務室で特産品をどうするか考えていると昼にナナリーナが息を切らして来て。


「トム様、実りました」


「ん?何が実ったの?」


「稲穂ですよ! お米が実りました」


「ええー! うそだろうー、だって昨日種もみを撒いたばかりなのに」


「良いから見に来て下さい」


 昨日作った田んぼに行くとトムは口をポカーンと開けて。


「本当だ! 稲穂が・・・・信じられん・・・・いくら促進魔法を掛けたからだと言っても・・・・・・」


 ナナリーナがトムの口に稲穂を取って皮を剥いて入れて。


「どう? 立派なお米でしょう」


 トムは生米を砕いて舌で味わってから。


「マジで米だ! 前世の米だー! ナナリーナありがとう~。アッハハ。米だー」


トムとナナリーナが涙を流している姿にジエルは何を喜んでいるのか分からないでキョトーンとして2人を見ていたのです。


トムはこの時ほど魔法のすばらしさを実感した事は無かった。

まさか1日で撒いた種籾がお米になるとは信じられなかった。


 次の日からナナリーナが今は町長のブソンを通訳に農作業に従事するゴブリンに田んぼの作り方を教えて稲作に取り掛かったのです。


 2日後に乾燥させた籾を魔法で剥いておにぎりを作りトムとナナリーナが涙を流して食べているとジエルもおにぎりを食べて。


「ん?美味しいー! パンより美味しいわ~」


 促進魔法を使って稲作に励み、1カ月後には住民たちにも食べさせると好評で、これで主食を確保できたのだ。


 その米を使い、前世の記憶を頼りに日本酒を作ると上手く出来て酒好きのバンクに試飲させてみると。


「透き通る水みたいだが、美味い!お代わりをくれ」


 酒も好評で、日本酒をフォーク国の特産品にして増産する事にしたのだ。


 主食のめどが立ち、ゴブリンたちが中心の農業は忙しくなり人手が足りないほどだ、以前から小麦を生産しているのでナナリーナが河に橋を架けて街の反対側を農地にして農地を今までの3倍に広げたのです。


 やっぱりどうしても住民が少なくミンクたちが移住者を連れて来る事を願っている。


 数日後にダビデ街から船が戻って来てトムは期待して出迎えたが、船から降りて来た移住者の人数はたったの20人でガッカリした。


 ミンクが申し訳なさそうに。


「やっぱり深淵の森の中は魔獣が多くそんな危険な所に怖くて住めないと思っている人が多くて移住者の募集は難しいです」


「そうか、でも20人の人族が来てくれただけでもよかったよ、ご苦労さんだった。ありがとう」


 トムはがっかりした本心を隠してミンクたちに礼を言ったのです。


 人族20人の移住者はナナリーナに預けてまだ小さいが役所で働いてもらう事にした。

だがこの20人がナナリーナの前世の公務員の知識を教えられて戸籍作り税金の仕組みなどを覚えて国作りに貢献するとは思わなかったのだ。


 20人の移住者は街の綺麗さや住まいにある風呂や水洗トイレに驚き、給料が以前の倍近くあるので喜びゴブリンやオーガが優しく親切なのに偏見を捨てて仲良くなったのです。


 船がダビデ街に行く時は、同行してフォーク国がいかに素晴らしいか友人や知り合いに話したので移住者が増え続け増えた移住者は2千人以上になり、フォーク国の人口は1万人以上になったのである。


 人口が増えるにつれて国も発展し、商店街も出来、賑やかになって来た。


 此れも自分の力だけでは出来なかったと思いトムは仲間に感謝している。

 

 神木ラガーは木の魔法を使って農業に貢献し、魔物王女ジエルは皆のまとめ役し、ゴブリン・キング・オブ・キングスのブソンは町長として、オーガキングのドガは国の警備を、鳥人キングのバースは情報活動を神獣(白銀狼)ゼットは配下の白銀狼と一緒に魔獣から街を守り。


 最後にナナリーナは最大の協力者で街の建設は言うに及ばず、前世の知識を使って住民の教育、農業、行政その他、彼女は見た目こそまだ少女だが前世で言う“出来る女”でナナリーナがいなかったらこんなに早くフォーク国の発展はなかったであろう。


 トムは、ナナリーナを神がトムを憐れみ使わした天使かも知れないと思うトムなのだ。


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