第6話 筋肉痛の人にコリコリしてはいけない

足に得もしれない違和感を感じ取り、意識が覚醒していく


「あ!…あぁぁぁ、ああああ」


そして目覚めて完全に意識が覚醒した瞬間、一気に痺れが襲って来る。足を攣るような痛みでも、傷をつけられるような痛みでもない。また一段と異なる感覚が足に襲いかかる。


数分して、やっと痺れが落ち着いてやっと自分が置かれている状況を把握することができるようになった。数分間苦しんでいたせいで、意識ははっきりとしてる。


どうやら俺は自分の家のベットで寝ていたようだ。


「あれ? 俺は…なぜhere?」


どこぞのルーさんのよのような言葉を発した後、とりあえず家族のいるであろう居間に向かう。日は高く、たくさん寝たと推測されるが、体はものすごくだるい。


一歩、一歩足を動かすごとに筋肉痛が襲い掛かる。


やっとの思いでリビングにたどり着けば、椅子に座り編み物を編んでいるお母さんを発見する。


「あら、シアン起きたのねー」


編み物を編んでいる手を止めて安堵したようにこちらを見て来る。


「うん、ものすごく全身が痛いんだけど…あ、そういえば誰がここまで連れ来たの?」


俺の記憶を遡っても家にたどり着いた記憶がない。それに俺は返り血で血まみれだったはずだ。


「それはジュン君のお母さんよ」

「ジュン君の?あーなんか最後あった気がする」

「それより…何かいうことはないのかしら?シアン」


え?あー…これはバレたな


確かに、いきなり息子が魔物の大群に立ち向かうなど、狂気の沙汰じゃない


つまりこれは、主人公のことを心配している事を気付かされるイベントか…。


そして親の愛を再確認し、これからは親孝行すると心に決めるのであろう。


普通であれば


しかし、俺はそういうのは恥ずかしいタイプの人間だ。親に心配されても小っ恥ずかしい。


みんなも経験したことはないだろうか?


恋人から向けられる愛情と、家族から向けられる愛情は何かが違う。


まあ、恋人なんていない、ぽまえらには分からないか笑(特大ブーメラン)


「次は、うまく隠します!」

「お前は馬鹿か!」


いきなり後ろから脳天に衝撃を加えられ、後ろを見てみると呆れ顔のお父さんが立っていた。


「ぶったな!親父にも打たれたことないのに!」

「いや、お前の親父は俺だが?」


どうやらこのネタは、通じないようだ。当たり前だが


「あの惨劇はお前がやったのか?」


その目を見るに、俺がやったことはもう確信してるだろう。


ここで白を切ってもいいが、特に隠す理由もなければ、才能もない。


才能を隠すにも卓越した才能が必要と誰かが言った。


その観点から言うと俺は才能がない


「そうだね、俺がやった」

「随分と素直に認めたな…一応鎌を掛けていたんんだが不要だったか」


やっぱり鎌をかけていたか。


相手が抽象的な言い回しと、具体的な言い回しのときは鎌を掛けている場合が多い。


「シアンに会いたい人がいるそうだ。ついてこい」


そう言って、お父さんの後に付いていくと村長の家の中に通される。


そしてそこには、ガタイもよく装備も高価であることが一目瞭然の騎士がいた。


村長の部屋の中は前世と比べれば質素といえど、この世界では十分綺羅びやかである。


しかし、それよりも騎士の装備の方がお金がかかっているだろう


「君がシアン君か?」

「ええ、私がシアンです。」


一瞬こちらを、射抜くような視線を向けたあと直ぐに笑顔になる


「私の名はクロディウス。まずは、魔物を殲滅しこの村を守ってくれたことを感謝する。そして、君が為した魔物の群れの単独撃破はこの王国の歴史を見ても前代未聞の偉業だ」


だろうな。こんな子供が、ポンポンと生まれてたら世も末だ。


でだ、ここから俺の処遇がどのようになるのかが気になるところだが…


「故に、シアン君。君を私の養子に迎えようと思う」

「養子ですか?…」


養子それは具体的な血縁関係とは関係に無しに親子関係を発生させることをいう。


それはつまり、政略の道具になるということだ。


この時点で、政略の道具か、それとも国に仇なす危険分子として殺害対象になるかが決まるだろう。


自我を持った原子力爆弾は誰も利用しようとしない。


持つべきなのは、必要なときに確実に切り札となるカードなのだ。


チラリと両親を見ると実に嬉しそうだ。きっと名誉なことなんだろう。この世界と前世での感覚とで誤差が生じるが、まあ理解できないことでもない。


まあ、受けるなら受けるでいいのだが、懸念事項もある。


それがこのままでは、ハツネのポジションに俺がなってしまうということだ。


原作においては、ハツネが魔物に滅ぼされた村の唯つの生き残りとして拾われ、この騎士の養子になったのだ。


どうにか、ハツネを養子に組み込めないものか…


「すみませんクロディウス様。質問いいですか?」

「ああ、いいだろう。何でも聞くといい」

「はい、ありがとうございます。では、なぜ私を養子にするのですか?」

「それは、君の力が強力すぎるからだ。だから我々が適切にその力を扱うというだけだ」


返ってきた答えは予想通りか…俺は彼らの道具になると


しかし、クロウディウスは原作で養子になったハツネに剣術を教えていた。そうかの騎士には弟子がいない


その点を踏まえれば、後継者が俺では不適切だ。俺にクロウディウスの剣術を受け継ぐつもりはない

そもそも俺の武器は剣術ではないのだ


「予め、伝えて起きますが、私は、クロディウス様の剣術を継ぐことができませんよ?」

「それは理解している。君ほど完成した者に新しく剣術を教えても反対に足枷になる」

「じゃあ、養子をもう一人いかがですか。才能を埋もれさせるには勿体ない人がいます」


俺はハツネを推薦した。


§


「ハツネ…俺は全身筋肉痛なの…今の俺はガラス細工よりも繊細な扱いが必要なの」

「知ってる…」


いや知ってるって…


俺はハツネに抱きつかれて拘束されていた。


ヒシッと力強く抱かれているため、体中が悲鳴をあげていた。


あっ!

そこやめて!

筋肉コリコリしないで!

いやああああああ!


「シアン君、私に隠し事した」

「魔物のこと?そりゃ隠すでしょう。危険だもの」

「でも!…でも…でも…」


ハツネは何かを言いたそうにするが、言葉が口から出てこない。


目に涙をため、口を一文字に固く結んでいる。


え?

俺泣かせた?

こんないたいけな少女を泣かせた?罪悪感がすごいからやめて欲しい。


「え?、いやごめんね!?別に意地悪したわけじゃなくて…」

「分かった…」


え?一体何がわかったんですか!?

ちょっと!お嬢さん話し合いましょう!

話せば分かるから、だから親に言いつけないで!


「私も強くなる!そして、いつかシアンくんの隣に立つ!」

「えー…そんな無理しなくていいんじゃない?それに、俺は、目標にされるほど大層なものじゃないって」

「ううん、違う。シアンくんに追いつくことが最終目標じゃないの。もし、シアンくんに並び立てたら、聞いてほしいことがあるの、聞いてくれるよね?」


俺の体を抱きしめている力を強くし、ぐっと顔を近づける。


計画は変わってしまったけど最後には必ず、というつぶやきが耳の間をすり抜ける


その代わりに入ってきた甘い匂いが脳を揺らす。


何故だろう。少し息が荒いハツネに、若干の恐怖を覚える。


「分かった…そのときは話を聞くよ」


俺は、誰も登れない頂きまで上り詰める逃げることを決めた。


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女主人公の世界で見守り隊 枝垂れ桜 @Sidarezakura3355

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