最終話 決断の時、そして……

「フタバちゃん、起きて……」


 誰かが私を呼ぶ声で目が覚める。目を開けると、そこにはナチュラさんがいた。


「あれ?私……?」


「良かったわ。無事に成功したみたいよ」


 ナチュラさんは優しく笑いかけると、世界樹の方を指し示した。

 そちらへ視線を向けると、オリバーさんとユグの姿があった。

 ユグは世界樹の幹にしがみついて泣いているようだ。その隣では、オリバーさんが優しくユグを見守っている。


 私は世界樹へと近づくと、そっと話しかけた。


「世界樹さん、聞こえますか?」


《……フタバさん》


 世界樹は穏やかな口調で言った。


《……ありがとうございます。あなたのおかげで、わたくしは救われました》


「いえ、そんな……!私はただ必死でやっていただけですから……」


 私は照れくさくなり、ほおいた。

 すると、ナチュラさんたちが近づいてきた。


「フタバちゃん、よく頑張ったわね!」


「ああ。本当に見事だったぞ!」


 2人はそう言って褒めてくれた。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


 ユグも涙を拭いて、満面の笑みを見せた。


「皆さんの応援のおかげですよ!……でも、森は荒れたままですよね……」


 そう言って俯く私に、世界樹が語りかけた。


《いいえ、大丈夫です。……ユグ、いきますよ》


「わかった!」


 ユグは元気に答えると、世界樹に手を触れた。そして──


《『癒しの祈りヒーリング・プレアー』!!》


 世界樹とユグが声をそろえて唱えると、大地を淡い光が包み込む。


「これは……?」


 私は驚いて辺りを見回す。すると、枯れかけていた草花がみるみると生気を取り戻していくのが見えた。


「すごい……!」


 私は思わず声を上げた。


「これが、世界樹の力なのね……」


 ナチュラさんも感動してつぶやいている。


「おぉ……」


 オリバーさんも見惚みとれるようにして眺めていた。やがて光は収まり、元の景色に戻った。


《……完全ではありませんが、これで大丈夫でしょう。わたくしが再び成長し、力を取り戻せば、また元通りになるはずです》


 世界樹はそう言ってくれた。


「本当ですか!?」


 私は嬉しくなって、勢い良く聞き返す。


「やったわね!」


「ああ!」


 ナチュラさんもオリバーさんも喜んでくれている。


「やったー!!」


 ユグは私に抱きついてきた。私もユグを抱き締める。

 そんな私たちの様子を、世界樹は静かに見守っていた。


《……フタバさん、あなたはこの世界の人間ではないですね?》


 世界樹は唐突に尋ねてきた。


「えっ!?どうしてそれを……?」


 私は驚いて聞き返す。


《思い当たるふしがあるのです……》


 そう言って、世界樹は語り出した。



◆◆◆



 世界樹は語った。

 自分がもう長くないことを悟った時、世界樹はユグのことを内部から逃がしたと。

 そしてその時、空間のゆがみが発生し、私がいた世界とこの世界が、ユグを逃がすために幹にあけた穴─ゲートによって繋がってしまったらしい。


《『植物対話プランツ・ダイアログ』は、精霊しか持たない能力です。……ですが、フタバさんはわたくしをため、この能力が発現したのでしょう……》


「そう、だったんですね……」


 私が納得して呟くと、世界樹は話を続けた。


《この世界とあなたの世界は、本来ならば繋がることはありませんでした。しかし、今回はそれが起こってしまい、この世界に迷い込んでしまったのでしょう……。申し訳ありません……》


 世界樹はそう言って謝ったが、私は首を振って答える。


「気にしないでください。それに、悪いことばかりじゃないですよ!こうしてあなたを救うことができたんですし……」


 私は笑って言った。

 すると、世界樹は優しい口調で答えてくれた。


《……そう言ってくださると嬉しいです。……フタバさんは、元の世界へ帰りたいですか?》


「えっ?」


 私は少し戸惑ってしまう。


《実は今、あなたの世界と再び空間が繋がりかけているのですよ……。今なら、帰ることができるかもしれません……》


「……!」


(帰る……。元の世界に……?)


 私はしばらく考え込む。そんな私の脚に何かがしがみついた。……ユグだ。


「……やだっ!お姉ちゃん、かえっちゃヤダ!」


《ユグ……!フタバさんを困らせてはいけません!》


「だってぇ……!」


 ユグは泣き出しそうな顔で私を見つめる。

 私はしゃがみ込むと、優しく話しかけた。

 大丈夫だよ、と。

 それから、私は世界樹に向き直り、はっきりと答えた。


「私は──」



◆◇◆



「フタバちゃん、調査に出掛けるわよ~!」


「はーい!今、行きます!」


 ナチュラさんの呼びかけに返事をして、私は部屋を出る。


──私は、この世界に残ることに決めたのだ。


 元の世界に帰るという選択肢もあった。だけど、私はこの世界に来て、ナチュラさんやユグたちと出会った。そして、自分の持つ知識を活かして、植物たちを救うことができた。

 何より、植物たちから感謝されたことがとても嬉しかった。だから、私はここに残りたいと強く思ったのだ。


「よし……!」


 気合いを入れて歩き出すと、「待ってよぉ!」と声が聞こえてきた。振り返ってみると、ユグが追いかけてきていた。

 私は笑いかけると、手を差し伸べる。


「一緒に行こう!」


「うん!」


 ユグは嬉しそうに笑うと、私の手をぎゅっと握った。


「お待たせしました!行きましょうか!」


 私は笑顔で言うと、ナチュラさんの後に続いた。



 私はこれからも、この世界で植物研究医として働いていく。まだまだ未熟な部分も多いけど、少しずつでも成長していきたいと思っている。

 そしていつか、この世界の全ての植物が元気に過ごせるように、みんなを救えるような存在になりたい。それが今の私の夢だ。


 ──私は、今日も植物とともに生きている。

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異界の植物研究医 ~知識とスキルで救います~ 夜桜くらは @corone2121

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