23.<-G. Lestrade->

 


■23.八つの署名 -The Sign of Eight-



「では最後に紹介するのが、”ホームズシリーズ”でも一番有名な”スコットランヤードの名物警部”さん――”レストレイド警部”――です!」




 ◆◇◆


【8】G.レストレイド警部<-G. Lestrade->


◆『緋色の研究』『ボスコム谷の惨劇』『空き家の冒険』他十四作に登場する。

 ”ホームズシリーズ”に登場する警察関係者の中で登場回数が一番多い”スコットランドヤード”の代名詞的存在の”名物警部”さん。初登場した『緋色の研究』の冒頭時点で、ワトソン博士に「彼は一週間に三・四回やって来た」と紹介されており、ホームズ達と昔から頻繁に会っていたことが分かる。


◆ホームズ達と最も頻繁に交流があったにも関わらず、作中でファーストネームが明記されていない。

 ただし『ボール箱-The Cardboard Box-』事件の終盤にて、レストレイド警部がホームズ宛に書いた手紙に『G. LESTRADE.』という署名がされている事から、ファーストネームの頭文字イニシャルが『G』であることだけ判明している。


◆”レストレイド警部”に次いで登場回数が多い”グレグスン警部”とは、ライバル関係である。(以下、前項”グレグスン警部”も参照のこと)

 ”グレグスン警部”と共に初登場した『緋色の研究事件』では、現場検証の際に”グレグスン警部”が見落とした、壁に書かれた『-RACHE-』という血文字を発見すると「同僚から一本取ったという歓喜を、明らかに押し殺した様子」で、『これを見たまえよ!』と勝ち誇ったように言っている。

 なお、”レストレイド警部”は――この血文字は被害者が『-Rachel-レイチェル-』と書き残そうとした”ダイイングメッセージ”であり、犯人は女性だと推理する。だがこの後、名探偵ホームズによって――これはドイツ語で”復讐”を意味する『-RACHE-ラッヘ-』であると”誤り”を指摘され、両警部とも口をポカンと開けている。


◆名探偵ホームズは”レストレイド警部”の能力について、”グレグスン警部”共々『緋色の研究』にて「駄目なのが多いあそこスコットランドヤードでは、彼とレストレイドはマシなほうだね。彼らは二人とも抜け目なく、捜査ぶりも徹底しているが、頭はカチコチなんだ――どうしようもないぐらいね」と厳しめに評している。

 一方、『ボール箱』事件では、容疑者の追跡捜査を”レストレイド警部”に指示した際に「彼は信用しても大丈夫だよ。彼はまったく推理力には欠けるが、何をすべきか理解さえすれば、””のように粘り強いからね。実際、彼をロンドン警視庁スコットランドヤードのトップにさせたのもこの粘り強さだよ」と皮肉りながらも、”レストレイド警部”の能力をそこそこ高く評価している様子がうかがえる。

 『六つのナポレオン』事件では、警察の組織力を活用して、名探偵ホームズに「素晴らしいぞ、レストレイド警部!」と称賛させるほどの短時間で被害者の身元を割り出すなど、”レストレイド警部”の有能さを示す描写も作中では見ることができる。

◆なお、新聞紙面では――『緋色の研究』事件の際には「この高名な両警部がすぐに本事件を解明することは確実だ」と期待を寄せて、『六つのナポレオン』事件の際には「ロンドン警視庁スコットランドヤードで最も経験豊富な警部」と紹介されるなど、世間一般的には”スコットランドヤードの名物警部”として、高く評価されている事がわかる。


◆ワトソン博士は”レストレイド警部”の外見について、『緋色の研究』では「背が低く、少し血色の悪い、ネズミのような顔をした暗い瞳の男 -”little sallow, rat-faced, dark-eyed fellow”-」や「痩せたイタチのような -”lean and ferret-like”-」と表現している。『ボスコム渓谷の惨劇』に至っては「痩せたイタチのような顔つきで、こそこそと人目を忍ぶような、ずる賢い顔をした男 -”A lean, ferret-like man, furtive and sly-looking”-」と悪しざまに表現しており、ワトソン博士の中で”レストレイド警部”の印象が悪かったのではないかと言われている。

 ”ホームズシリーズ”後期の短編『ブルースパーティントン設計書』では、ワトソン博士の心象が良くなったのか”レストレイド警部”のことを「痩せぎみで、厳めしい顔つきの男 -”thin and austere”-」と表現がやわらかくなっている。

◆一方、英単語の『-Ferret-』には、イタチが巣穴からネズミなどを狩るさまから「犯人などを捜し出す」という意味の動詞形も存在するため、レストレイド警部のことを「犯人を捕まえることが得意な優秀な警察官だ」という”誉め言葉”として、ワトソン博士が揶揄していた説もある。


◆”レストレイド警部”は、登場当初は”アマチュア探偵”のホームズを侮る描写も多かったが、共に難事件を幾度となく解決していく中で”名探偵ホームズ”の推理手腕を認め、敬意を表するようになる。

 例えば”ホームズシリーズ”初期の短編『ボスコム渓谷の惨劇』では、名探偵ホームズが殺害現場を丹念に調べ上げて、警察が逮捕した容疑者とは別の”犯人像”を推理するも、”レストレイド警部”は聞き入れずに「わたしは現実的な男です。この田舎村を歩き回って、左利きで足の不自由な男を見なかったか捜し歩くなんて、とても出来ませんな。そんなことをしたら、わたしはロンドン警視庁スコットランドヤードの笑いものにされてしまいますよ」と真犯人の追跡捜査を断ってしまっている。

 一方、”ホームズシリーズ”中期の短編『六つのナポレオン』事件の頃には、夜になると”レストレイド警部”がベーカー街を訪問し、不可解な事件に関してホームズから助言をもらったり、情報交換も兼ねて”天気や新聞”についてホームズ達と談笑するのが”日常”になっているとワトソン博士は語っており、名探偵ホームズの推理手腕を”レストレイド警部”が評価して認め、親交を深めている様子がうかがえる。


 ◆◇◆



「ついに”真打ち”登場ね!」

「さすがに情報量が一番多いな……」

 めぐみがノートにまとめ書きした”レストレイド警部”の項目を読みながら、俺とあいり先輩が率直な感想を述べる。


「こうやって改めて読んでみると……名探偵ホームズと”レストレイド警部”って結構”仲良し”だよな?」

 俺がそうつぶやくと――あいり先輩とめぐみが噴き出したように笑った。


「ですよねっ。わたし『空き家の冒険』の再会シーンが好きなんですよ。モリアーティ教授の配下”モラン大佐”を待ち伏せる計画に参加して、三年ぶりに再会した名探偵ホームズに対して、レストレイド警部が『この事件は私自ら参加要請しました。あなたがロンドンに帰還していただけて嬉しいですよ』と再会を喜ぶのいいですよねっ」


「それ分かるわ! これって、十年ぶりに雑誌連載を再開した”ホームズシリーズ”の愛読者に対する著者ドイル氏のメッセージを、このふたりに語らせてる感じがして、スゴく良いわよね!」


 ふたりの話を聞きながら、うんうんと俺も頷き返す。

「俺は”ホームズシリーズ”後期の短編『ブルースパーティントン設計書』で、犯罪の証拠を押さえるために夜盗まがいの行動を取ったホームズ達に対して、レストレイド警部が『あまりそんな事ばかりしていると、そのうちとんでもない目にあいますぞ』と苦言を呈するシーンも好きですね。なんかレストレイド警部の”職務に忠実な警察官”としての一面と、ホームズ達への親しみ、そして”名探偵ホームズ”に対する変わらぬ”ライバル心”が感じられて」


 俺の話を聞いて、あいり先輩とめぐみが「それわかる!」と賛同してくれる。


「わたしは『六つのナポレオン』のラストシーンも好きだわね! 名探偵ホームズが叩き割った”ナポレオン像”の中から盗難品を取り出して『紳士諸君、ボルジア家の有名な黒真珠を諸君にご紹介しよう!』と叫んで、事件の真相を語るの。そしたら”レストレイド警部”が『ロンドン警視庁スコットランドヤードの一番年寄りの警部から一番若い巡査まで、全員あなたと喜んで握手したいと思うでしょうな!』と賛辞を贈って、それを聞いたホームズがすっごく嬉しそうに『ありがとう!ありがとう!』って答えるの! これって――まるで””よね! このオジサンたち、めっちゃ可愛いんですけど!?」

 あいり先輩の”いち推し”を聞いて、俺とめぐみが爆笑しながら賛同する。



「ちなみに――””――という考察があるんですよっ」




   ◇◆ ◇◆◇ ◆◇


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