第26話 真実 ※本日5話目



 爆発。爆発。

 爆発。爆発。爆発。

 爆発、爆発、爆発、爆発。

 爆発、爆発、爆発、爆発、爆発、爆発、爆発。

 爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。

 爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。

 爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発。






 効率良く爆発する。

 巻き戻る時間がコンマ単位で長くなる。

 歯を食いしばりながらではあるが機械的な作業だ。

 何しろ巻き戻ればすぐに結果が見える。


 今までみたいに頭をひねる必要もなければ、どうすれば爆発を回避できるか試行錯誤しこうさくごする必要もない。ただ最速で爆発すればそれでいい。


 ――股間爆発RTAリアルタイムアタックである。


 誤算が一つあるとすれば。


「ヒッ!?」


 【忘れ得ぬ想い】が重なり過ぎて友香子にガチ逃げされたことである。すぐ隣にいたるりに触れたことでフォローしたものの、7秒近く無駄にした。

 体感では2.5爆発くらいのロスだ。


 元々がメンヘラ気質で俺に対して並々ならぬ執着を持っていたはずの友香子が折れた。爆発する直前に見えたのは、恐怖と嫌悪に歪んだ表情。

 間違いなく俺のことを嫌いになっただろう。


 至近距離で股間を爆発させ続けたのだから当然だ。


 でも、

 俺が嫌われたからって、別に何の問題もない。いやもしかしたら新たなトラウマが刻まれたりだとするかもしれないけれども、それはレリエルが復活して、この審問を何とか潜り抜けてから考えればいい。

 それに、俺が嫌われたからって何だ。

 結局俺は誰の気持ちにも応えるつもりがないのだ。

 先延ばしにして逃げてるだけの俺は、遅かれ早かれ嫌われるだろう。

 俺の人望と引き換えにレリエルが救えるのだ。

 天秤てんびんに掛けるまでもなかった。


 友香子に嫌われ。

 るりに恐れられ。

 三峰先生に睨まれ。

 鹿間に避けられ。


 俺は、ついにレリエルが消えるその直前まで戻ってきた。



 ……。

 …………。

 ………………。


「ふむ。被告、レリエル。何か申し開きはあるか?」


 レリエルがありません、と口を開くその直前。

 俺は全力全開で叫んだ。


「おいムッツリぽんこつ天使ィ! 俺のこと言いたい放題言い腐って逃げんじゃねぇぞ!」


 怒鳴りつけた気迫に圧されてか、レリエルが肩をびくりと震わせた。


「な、な、何を……?」


 崩壊する直前からではあるけれども、レリエル自身も俺が死に戻りしまくってここまで戻ってきたのを知覚しているはずだ。


「何をしてるんですか優斗さんはッ!? ついに股間爆発マニアなのを隠さなくなったんですか!?」

「うるっせぇ! 俺相手にギャースカ騒げる元気があるなら申し開きの一つもしてみろ!」


 俺の言葉に、レリエルの顔色が変わる。

 何事かを発そうと口をパクパク開くが、声にならない。上司を見つめたあとで俺へと視線を向け、何か言いたげにしていた。

 代わりに喋ったのは上司だ。


「先ほどから黙って聞いてれば、神聖なる法廷で怒声に暴言。アスモデウスを継承しただけあって下品極まりない」

「部下を物品扱いするような外道が品性ひんせい語るなよ。――レリエルも何か言ってやれ」


 上司を睨みながらレリエルをうながすも、言葉が出てこない。


「レリエル?」


 視線の先、レリエルは真っ青な顔をしてぶるぶると震えていた。

 明らかに普通の様子じゃない。


「レリエル!?」

「先ほどからうるさいですね。そこのがそんなに心配なら一緒に処分されてはいかがですか? 私としてもアスモデウスの処理が進みますし願ったりかなったりです」

「うるせぇッ! 誰が欠陥品だ!」

「おお怖い。ということですね」

「……どういう意味だ?」

「いえ、別に。――レリエル、発言しなさい」


 意味深に言葉を止めた上司の命令に従い、レリエルが口を開いた。ぼろぼろと涙を流しながらも無理矢理笑みを形作り、俺へと顔を向ける。


「ゆ、とさん……私、」

「余計なことを言わず、さっさと罪を認めて消えろッ!」

「テメェ!」


 我慢できずに弁護人席から飛び出す直前。


「すべて、の、罪ッを、認め、ます……!」


 レリエルが絞り出すように自白し、光の粒と溶け消えた。

 即座に鹿間に飛びついて、股間を爆発させる。




 ……。

 …………。

 ………………。


 再びの白い空間。

 今度はレリエルが作ったものなのだろう、俺の眼前に彼女が立っていた。涙でぐちゃぐちゃになった顔で俺を睨む彼女。


「何をしてるんですぁ!」

「それは俺のセリフだ! どうして認めてんだよ!」


 俺の言葉に、レリエルがぐっと詰まる。

 喚き散らしたいのを散々我慢したような顔で奥歯を噛みしめ、それから大きな溜息を吐く。


「……助けてなんて頼んでません」

「あ?」

「だから! 助けてなんて頼んでません!」


 そのまま俺に抱き着こうと跳び付いてきたので慌てて避ける。

 こいつ、話そのものを強制的に終わらせるつもりだ……!


「あの上司がなんだってんだよ!?」

「うるさい! 何も知らないくせに! どうせ私を助けたのだってその後恩返しのために私を裸にいて首輪つけてベッドの上でキャンキャン鳴かせるつもりだったんでしょう!?」

「いやマジでブレないのなお前」

「はいはい分かってますよ! どうせ私はぽんこつです! 優斗さんだって散々『何もしない』って言ってたのに余計なことばっかりして! 私さえ生まれなければこんなことにはならなかったのに!」


 自暴自棄じぼうじきになったのか、へたり込んで泣きながら喚くレリエル。


「どんだけヤケ起こしてんだよ……強制労働でも何でもすりゃいいじゃん」

「そういう問題じゃないんです! 私は、私、は……」


 俺を睨みつけたレリエルが急に勢いをなくし、そのまま停止する。


「……レリエル?」

『レリエル様は自動防衛モードに入ろうとしています』


 サキさんの声だ。

 そういえば姿が見えないと思って周囲を確認するが、どこにも姿が見当たらない。


『残念ながら、先ほどここに似た空間をつくるのに神聖力の大半を使い果たしたため、姿を保つことができません』


 なるほど、それで声だけって訳か。


『優斗さんに、大切なお話があります』

「お話……?」

『ご両親と、レリエル様のことです』


 両親とレリエル。

 何の関係があるんだろうか。いや、一応母さんにはレリエルを頼むって言われてるけども。


『私の上司とレリエル様の上司は出世レースで争う間柄です』


 それは見てて何となくわかった。正直どちらも好きにはなれそうにないタイプである。


『上司の命令でレリエル様及び優斗さんの周辺を調査した結果、お母さまの死に――それどころか、優斗さんの存在そのものに相手の上司が関わっていたことがわかりました』

「…………………………は?」


 理解不能な言葉。

 母さんの死?

 俺の存在?

 そんなものに、あのクソ上司が関わっている?


『そもそも、アスモデウスの魂を受け継いだのは優斗さんではなく優斗さんのお父様です』


 天界で決定された措置はアスモデウスの『封印』と、アスモデウスを刺激しないよう父を極力恋愛沙汰から遠ざけるというものだった。


「……じゃあ何で親父は恋愛狂いになったんだ?」

『優斗さんのお父様を導くために派遣された天使と恋に落ちたからです。お父様に惹かれ、あらゆる禁に背いてあなたを身ごもった天使、それがあなたのお母さんです』


 本当ならば母さんは親父と恋仲になったフリをして、結婚直前に裏切る予定だったそうだ。貯蓄を使い潰して他の男の元に逃げる。

 親父が女性不信になるよう追い込むことで、童貞のまま一生を終えさせる計画だったらしい。


 ……エグすぎんだろそれ。

 童貞のままっていうか、裏切られたショックで一生を自ら終わらせる計画だろそれ。


 ところが、母さんは任務の途中で親父に本気になった。

 当然裏切ってポイ捨てなんぞできるはずもなく、そのままめでたくゴールインしたわけだ。


「母さんが天使……?」

『魂と封印は優斗さんに継承されましたが、長年に渡ってアスモデウスに汚染されたお父様の魂はお母さんの力で少しずつ癒されるはずでした』


 よく考えれば、レリエルに出会ったあの時、俺の中のアスモデウスはすでに封印されていた。それを知らなかったレリエルが破壊したのが全ての発端である。


『お母さんの上司は問題発覚と責任追及を恐れ、隠蔽を図りました。――すなわち、お母さんの殺害と、その魂を材料に新たなる天使の作成です。当然ながら、お母さんの時のような失敗を防ぐためにいくつかの策を講じました』

「……母さんが、殺された?」

『はい。結果、お父様は魂が癒されず現状のようになりました』


 ……レリエルの身体で母さんが俺に接触してきたことがあった。それはつまり、そういうことなのだろうか。

 サキさんの言葉に、俺は大きく息を吐いた。

 少しでも気を抜けば、感情が爆発してしまいそうだったから。

 母さんの死。

 親父のイカレ具合。

 レリエルの異常。

 その全てが、レリエルの上司によって引き起こされたものと聞いて、冷静でいられるわけがなかった。

 怒鳴り散らしたいのを必死に堪えて訊ねる。

 俺がすべきは怒りを発散することじゃない。

 あのクソ上司に後悔させてやることだ。


「どうすればいい? わざわざ全部喋ってんだから、何かあんだろ?」

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