第44話 謎の感触

 体が浮遊感に包まれる。

 周りは真っ暗で何も見えない。

 この状況をどうにかできるスキルなんて私は持っていない。


 死にたくない!

 死にたくない!

 こんなところで死にたくない!


 力も何も無い私にはどうすることもできずにそのままの上に落下した。






 体がちゃぷちゃぷした感触に包まれる。


「たす、かった……?」


 ちゃぷちゃぷしているものは少し冷たい。


「水?」


 暗くてよく見えない。

 水に落下しても高すぎたら死ぬって聞いたことがある。

 体感だけど100mは余裕であったから水じゃないのかも。

 だいたい息ができるて時点で水じゃなかったよ。


「あかりあかりっと……」


 鍾乳洞っぽいものが折れたやつをリュックから取り出して辺りを照らす。


 水色の巨大な物体が私の下にある。

 もしかしなくてもスライムだ。

 名前はキングスライムとかそんな感じのスライムだと思う。


 ていうか私気づかれてないよね……?

 今のところ特に動きもないし、大丈夫そうだけど早めに上から降りた方が良さそうだね。


 私はスライムの上の端っこの方に移動する。

 ぷにぷにしていて歩きにくい。


「私じゃなかったら転ぶっ……わっ、ちょ!?」


 スライムに足を取られて思いっきり転んだ。

 けどスライムの上だから全く痛くない。


「あーびっくりしたぁ! わっ、リュックの中身全部溢れちゃってるよ……」


 転んだ時にスライムの上に散らばってしまったアイテム類を回収する。


「スライムポーションに治癒のポーション。それから魔石……ってあれ? 魔石ってこんな少なかったっけ?」


 数えてみたら1、2、3個。

 おかしい。

 最低でも15個はあったはずだよ。


 折れた鍾乳洞っぽいもので周りを照らして探してみる。


「あった! けど、スライムの中……? あっ、吸収されたんだ!」


 この時、頭に嫌な考えが浮かんだ私は急いで手に持っている3つの魔石の種類を確認する。


「普通のスライム、スライム、スライム……やっぱりニトロスライムの魔石がないよ!」


 てことは今キングスライムの中にある魔石の中にニトロスライムの魔石が混ざってるから、それを吸収したキングスライムがニトロスライムに……


 この大きさのニトロスライムが爆発したら私どころかここら一帯跡形もなくなっちゃうよ。


「どうしよどうしよ……!」


 魔石を吸収しきる前にスライムから取り出す?

 でもスライムの中にあるやつをどうやって取り出すんだよ!


 なら吸収仕切る前に倒すとか?

 我ながら名案だ!


「鑑定!」


 ――――――――――――――――――――――――

 キングスライム(オリジナル)

 状態:魔石吸収中

 HP:10000

 攻撃力:10000

 防御力:10000

 スキル:「物理軽減」「魔法軽減」

 装備:なし

――――――――――――――――――――――――


 名案って言ったやつ誰だ! 私だ!


 ていうかインフレしすぎじゃない?

 たぶんゴブリンキングの5倍以上は強いんじゃないかな。

 ゴブリンキングより温厚だから助かったけどね……


 魔石を取り出すのは無理。

 倒すのも無理。

 ならどうする私。


「爆発に巻き込まれないところまで逃げるしかないよ!!」


 私はすぐにスライムの上から降りて近くの横穴に逃げ込む。

 ちょっと高かったけどスライムを滑る感じで降りたら案外大丈夫だったよ。


 私が入った横穴はくねくねしていて走りずらいけど、全速力で逃げる。




 体感時間で30秒が経った。

 もう吸収は終わっているはずだからあとは爆発するのを待つだけ。

 たぶん上から石が降ってきたりしたら爆発するはずだからもうすぐしそう。

 それまでにもう50mくらいは距離を稼ぎたいよ!


 そう思った瞬間、さっきまでの爆発とは比べ物にならないくらいの爆発音が聞こえた。

 核兵器の威力とかは分からないけどたぶんそんなレベル。

 いやそれは言い過ぎかも。

 でもね、私とキングスライムとの距離があと5m近かったりしたら消し炭になってたよ……


「あ、あぶなかったよ…………」


 のダンジョンに来てから何回も死にかけたからもう慣れてしまった。

 そんな自分が少し怖い……


「それにしてもこの威力は……」


 私の目の前にはさっきまで洞窟だったとは思えないような何もない空間が広がっている。


「あれって……!」


 その空間の中心。

 さっきまでキングスライムがいた場所に階段が見える。


 どこに繋がる階段なのかは分からないけど、階段があったら降りたくなってしまうのが私だ!


 私はすぐに立ち上がって階段まで向かう。

 だいたい150mくらいかな。

 半径150mの空間のものを消し去る威力の爆発って……




 少し歩いて階段のところに着いた私は深呼吸をしてから階段を降りていく。

 階段の壁には灯りの代わりに虹色に光る鉱石が埋め込まれている。

 この雰囲気、もしかしなくても……


「やっぱり……!」


 階段を降りた先には見慣れたボス部屋の扉がある。

 ついにこの時が来た。


「さっさと倒して私は家に帰るんだ!」

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