第38話 生きて!

「あと3年だけしか生きられないんだよ? なのにどうして、どうして笑顔でそんなことが言えるの……?」


「ついこないだまでの私だったら笑ったりすることなんてありませんでした。でも今は違います。ことねさんと涼花さんのおかげで毎日が楽しいんです。幸せなんです。だから死ぬのなんて別に怖くありませんよ!」


 ことりさんの顔は笑っている。

 けど、私には心の底から笑っているようには見えない。


「ことりさんはほんとにそれでいいの? もっと生きたいって思わないの?」


 ことりさんの顔から笑みが消えた。


「思わない……です…………だって……」


 ことりさんの声は震えている。


「ことりさん、嘘はよくないよ……」


「……」


「私たちは友達なんでしょ? だったらどうして死ぬのなんて怖くないって嘘つくの? 友達だったら遠慮せずに言ってよ!!」


「そんなの言えませんよ……2人に迷惑をかけてしまいます……」


「3年後にことりさんがいなくなったら私は悲しいよ。涼っちも絶対そう思ってるよ。だから、お願い……」


 ことりさんの過去がどれだけ悲しいものなのかは私には分からない。

 だから無理をしてでも生きて! なんてことは言えない。言えるわけがない。

 でも、ことりさんがまだ生きたいと思っているならそう言ってほしい。


「お願い……」


「私、もっと……っ……生きたいよっ……!!」


 ことりさんは泣きながらそう言った。


「私たちはそのために何をしたらいいの?」


 ことりさんの言い方的に呪いを解く方法があるはずだ。


 ことりさんは涙を拭ってからこう言った。


「クリア者0人のAランクダンジョン、歪みのダンジョンのボスを倒すのを手伝ってください!!」


「ボスの名前は?」


「リントヴルム……私の呪いの元凶です……」


 こいつのせいでことりさんは……


「分かった! 私が3年以内にそいつをボコボコにしてあげる。だから死んでもいいなんて言うのも思うのも禁止。約束だよ!」


「は、はいっ……!」

 

「じゃあそろそろ報酬部屋に行こっか!」


 ことりさんはこくりと頷く。



 私たちが報酬部屋に入ると、いつも通りアナウンスのような声が聞こえてきた。


『ダンジョンクリア 報酬:魔石(小)』


『ダンジョンクエストのクリアを確認』


『パーティ クリア報酬:【治癒ポーション(小)】』


『モンスター未遭遇 クリア報酬:【スライムキラーポーション】』


『スライムダンジョン全ダンジョンクエストのクリアを確認』


『対象者:穂刈ほかり 琴音ことね


『EXスライムダンジョンに挑戦する権利が与えられます』


『挑戦しますか?』


『挑戦しなかった場合、二度と挑戦することはできません』


 待って待って待って待って!!!

 EXスライムダンジョンって?

 どれくらいの難易度なの?


「今のアナウンスはどういうことなんでしょう?」


「私が聞きたいよ!」


「挑戦しなかったら二度挑戦できないとかも言ってましたね」


 そうなんだよー!

 二度とできないって言われたらどんなダンジョンか分からなくても試したくなってしまう。

 うー、どうしよう……


『10秒前です。9、8、7、……』


 時間制だったら先に言ってよ!


「わ、分かったよ、はい、挑戦するよ!」


『対象者:穂刈ほかり 琴音ことねの挑戦が確定しました』


『1分後、対象者はEXスライムダンジョン、対象者以外はダンジョン入口に転移します』


「うわぁー! どうしよどうしよどうしよー!」


「ことねさん、とりあえず落ち着きましょう。深呼吸です。そうですそうです。吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー」


「ふぅー。って落ち着いていられる場合じゃないよー! ってそんなことより先に報酬だけ貰っておこう!」


 目の前には宝箱が3つある。

 1つ目には小さい魔石が2つ。

 2つ目には【治癒のポーション(小)】が2つ。

 3つ目には【スライムポーション】が1つ。


 やっぱり【成長の指輪】を貰っている私の分の報酬は無いみたい。

 てか【スライムポーション】ってなんだ?


「EXスライムダンジョンで何が起きるか分からないので、ことねさんが全部持っていってください」ってことりさんに言われたから私は魔石以外をリュックに詰めた。

 ポーションはできれば飲みたくはないよ。


「そろそろ転移が始まります。絶対に生きて帰ってきてください!」


 死亡フラグに聞こえてくるのは私だけかな……

 まあ私は死なないけどね!


「任せて!」


 私の返事と同時に部屋が光に包まれた。


「待ってろEXスライムダンジョン! 絶対にクリアしてやる!」

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