第11話 散歩

 モアから店を追い出されてしまった。

 そう、これは追放だ。

 害虫駆除に俺では力不足らしい。


 ……彼女には何かお土産でも買って帰ろう。


 となると何をあげるか考えないといけないな。適当な物はダメだ。

 彼女は人形だが、ほとんど人だ。

 そして、人形である前に女の子だ。


 女の子へのプレゼントは妥協するべきじゃない。

 俺の人形作りの師匠も言ってた。


 しかしながら、行ける場所は近所に限られる。

 モアからもあまり遠くには行くなって言われているし。


 妥協はしたくないが。

 俺の財布とここら辺のお店の相性は最悪に近い。貴族街に近いからな、ここら辺。

 お店もそれなりだ。

 

 それに、ついさっき大きな買い物をしたばかりだし。

 なるべく、高そうなお店は避けねば。


 入ってみたら意外と安い!に期待して手当たり次第に入ってもいいが、明らかな冷やかしは避けたい。これからご近所さんになるのだし。


 さりとて、ここに突っ立ってるわけにもいかない。


「……」

 

 一際目を引く異質な建物がある。

 石造りの古い建物。不気味な飾り付けがされていて、人喰いの魔女でも住んでいそうな雰囲気だ。

 まるで来客を拒んでいるように感じてしまう。


 場所は、俺の店となる建物の隣。つまり、これからのお隣さんか。

 頼むからこういう店は路地裏にあってくれよ。


 来たときは隣に変な建物があるな、とは思ってたけど。

 改めて見ると随分怪しい。

 扉には営業中の看板がぶら下がってるから、何かの店であることは確か。

 本当に営業中か?

 そもそも本当にお店か?


 いや、これは挨拶だ。

 これからお隣さんになるんだし。

 

 それに、俺の長年の経験が言っている。

 こういうお店にはお宝が眠っている、と。


「おじゃましまーす」

「いらっしゃい」


 恐る恐る店内に入っていくと、店の奥から老婆のようなしゃがれた声に出迎えられた。

 ちゃんと見たら、そのまま老婆だった。

 重たそうなローブに身を包み、カウンターの向こうに座ったまま俺を値踏みするように見ている。


 この人が、このお店の主なんだろう。

 

「はじめまして、アングと言います。実は隣で店を開くことになりまして……挨拶みたいな感じですかね」


 老婆は、俺の言葉に一瞬ポカンとした表情になり。


「あそこで、店かい? あっひゃっひゃっひゃ」

 

 なんか大爆笑してますけど。

 あそこそんなにヤバイところなんですか?

 一応、ギルドマスターにおすすめって言われてた場所ではあるんですけど。

 

「そうさね。挨拶なんていらないから、なんか買っていきな。笑わせてくれたんだ。安くしとくよ」

「そうですか」

 

 あなたが勝手に笑ってただけですけどね。安くしてくれると言うなら見ていこうじゃないか。

 モアのプレゼントになりそうな物もあるかも知れない。


 天井から吊るされた見たことのない飾り。なんの変哲もない木の箱や水晶、ナイフやハンマーまで。

 本当に色んな物がある。

 

「ここは何の店なんですか?」

「見てわからないかい? 魔道具屋だよ」

「これ全部、魔道具なんですか!?」

 

 魔道具か、これが全部。

 冒険者をやっていた時に何度か見たことあるが、ここまで色んな魔道具が揃うと壮観だな。


 雑多に置かれた魔道具。

 

 魔道具は、見た目からある程度予想はできるが、安心はできない。

 鑑定士に鑑定してもらうまでその効果が分からないのだ。


「この箱はなんですか?」

「それはただの箱だよ」


 紛らわしい場所に置かないでくれ。

 

「この水晶は流石に魔道具ですよね?」

「ああ、それは遠見の水晶みたいなもんだね」

「遠見の水晶!?」


 遠見の水晶と言えば、それ1つで世界の全てを見通すという秘宝。ダンジョンの最下層まで見通せるとかなんとか。

 そんな幻の水晶だ。

 それが、こんな場所にあるなんて。

 絶対高いだろう、こんなの。

 

「おっと、勘違いしたらいけないよ。そいつは、みたいな物、だからね」

「みたいな物?」


 遠見の水晶ではないってことなのか?

 

「ひゃっひゃっひゃ、あんな物がここに置いてるわけないだろう」


 よく笑うおばあさんだ。

 

「それは遠見の水晶と違って、視る水晶と映す水晶の2つないといけないのさ」

「なるほど?」

「2つで一つの魔道具ってことだよ」


 そんな魔道具があるんだな。


「遠見の水晶と違って、どこでも見られるわけじゃあない。もう片方の水晶が写した物しか見ることが出来ないんだ。遠くに住んでる家族の顔が見られたら嬉しいだろう? ただし、相手からは自分の顔が見られないけどね」


 監視アイテムってことか?

 

「よくわかってないみたいだね。水晶の片方をあたしに渡しな」


 どうやら実演してくれるらしい。

 

「わかりました」

「渡したら入り口まで下がるんだよ。水晶から目を離すんじゃないよ!」


 言われた通りに、水晶に映る自分の顔を眺めてぼんやりする。

 変化はすぐに起こった。


「うわっ!?」

 

 一瞬のうちに、俺の顔がしわくちゃになってしまった。

 いや、これは店主のおばあさんの顔だ。

 水晶から顔を上げて、実物のおばあさんを見ると、したり顔で俺を見ていた。

 

「どうだい、買うかい?」

「これください!」

「まいどあり~」


 ホクホク顔で店を出る俺。

 良い買い物をしてしまった。

 それにあのお婆さん。爆笑されたときは不安だったけど、案外良い人そうだったな。


「早くモアに見せたいけど、まだ一時間経っていないな。って、モアへのプレゼント買ってないじゃないか」

 

 うーむ。

 これはモアにはあげられないしな。


「まだ時間はあるんだ、色々見て回ろう」

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魔動人形と始める人形屋生活 ~『人形使い』の力を活かして人形職人やる~ バナナきむち @kamota0408

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