第17話 クレマチス
観覧車から眺める建物の光は、無数の星のように輝いていた。月葵は目を光らせ、その光景に感動する。糸原は冷静な表情で微動だにせず、ただ座る。
「月葵、大切な話がある」
「うん」
「実は来年度、月葵の学校に務めることになった」
月葵は、糸原の衝撃的な発言に目を丸くする。学校に務めることは糸原の計画の一部である。その計画に月葵、つまり石崎香里奈を救うことも含まれていた。
「月葵を売春させた親もそうだけど【それに関わっている人】を許してはいけない。その証拠を集めるために学校に行くことになった」
石崎香里奈の通っていた私立中学の教員採用試験は、直接学校に受けに行く必要があった。
案の定、学校は月葵のクラスを受け持つ教師を探していた。糸原は、学校側から任される形で採用が決まった。
「大丈夫なの?」
「大丈夫。危険は無いよ」
一つ誤算だったことは、月葵が自殺の行動を起こしたことだった。糸原の計画では、もっと遅いタイミングで保護する予定だった。
月葵を保護したことは、大きな課題でもあった。救う計画はあっても、過ごしていく計画はなかった。行動も制限されるため、月葵を守ることのできる【協力者】を誰にするか考える必要があった。
でもそんなことよりも。今すぐに解決しなければならないことがある。
「一つだけ、月葵にお願いがある」
「うん」
「僕、高所恐怖症だからなるべく揺らさないで」
「へ?」
糸原は高所恐怖症だった。
月葵は真剣な表情から頬骨を上げて、笑顔を作ると、ゴンドラを揺らした。
「こんなに楽しいのに」
「や、やめてぇぇぇ」
「うへへへへ」
月葵は楽しそうに観覧車を揺らす。糸原は頭を抱えて下を向く。もう観覧車は乗りたくない。
・・・・
・・・・
「という訳です。石崎香里奈は糸原月葵として名前を変えて、私が預かっています。石崎徹の裏には学校関係の人が絡んでいて、大きなお金も動いています。私はその証拠を掴むために学校に来ました」
「どうやって証拠を掴むんですか」
「簡単な話です。石崎徹本人の口から話させれば、それが証拠になります」
「できるんですか?」
月葵が新発売のチョコレートアイスを2つ持ってきて、1つを鈴木先生に渡した。「ありがとう」という言葉に嬉しそうに頷く月葵。
「計画は全て私の頭にインプットされています。しかし、申し訳ないのですが鈴木先生にも全てを話す訳にはいきません」
その言葉は鈴木先生を信じていないと言っているようなものだった。【完璧に信じていない】ということもあるが、何よりも鈴木先生を危険に巻き込むことは避けたかった。
戸惑いを見せる鈴木先生だったが、鈴木先生は選択した。
「私は糸原先生を信じることにします。私にも何か出来ることがあったら手伝います」
頭の中にインプットされている計画には、ズレてしまった計画を修復してくれる人が必要だった。その【協力者】を鈴木先生に頼むために、月葵に会ってもらった。
鈴木先生を月葵に会わせることは苦渋の決断だった。なぜなら鈴木先生も【警戒すべき】相手だからだ。
「ありがとうございます。で、さっそくなんですが、頼みたいことがあります」
糸原の話した言葉に、月葵と鈴木先生は目を見開いた。
時間が無い。
1番恐れている相手、探偵井上水流が来る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます