◆エピローグ◆

……俺が生まれて初めて惚れた女は“桜の花”みたいな女だった。


小さくて。

頼りなくて。

風が吹けば散ってしまいそうな桜の花みたいな女。


その桜の花みたいな女を俺は一生守っていこうと決めた。

こいつの為だったら、俺は何でもできる。


“美桜”


親からもらったのは、その名前と心と身体に深く残る傷だけ。人から愛情を受けたことのない美桜。

そんな美桜に出来る限りの愛情を注ごうと心に誓った。


美桜の小さな背中。

その背中には色鮮やかな“刺青”が彫ってある。

優しく穏やかな表情で腕に抱いた赤ん坊を見つめる“鬼子母神”とその周りで艶やかに咲き誇る“睡蓮の花”。


この“刺青”は美桜の傷を癒すためのもの…。

何年も苦しめられた過去の壁を乗り越える為に決意したこと。背中一面にあったタバコの火を押し付けた火傷の跡も、その傷跡を消し去るように彫られたこの刺青も見た事があるのは俺だけだ。


「美桜」

俺は今日もその背中に腕をまわし、小さな身体を抱きしめる。「…蓮さん」

美桜は俺の腕の中でニッコリと微笑んだ。


“蓮さんはいつも私の傍にいてくれるんでしょ?”

“俺は、いつも美桜の傍にいる”

“どんな時でも傍にいてくれる?”

“どんな時でも美桜の傍にいる”

“何があっても傍にいてくれる?”

“何があっても美桜の傍にいる”

“絶対?”

“あぁ、絶対だ”

俺の願いはただひとつ。

美桜の傍にいること。

The Only Wish ~beside cherry blossoms~


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