【再掲&分割】09 後編 重なり合った暁に燃ゆる 前世にて
◇
夢から覚めたら充足感に満たされていた。
時計なんて見るまでもなく、時間を置き去りにした朝はいつ以来か。
睡眠欲なんて投げ捨て、日を跨いで夜を駆け抜けたシンデレラは、幻想的な長く短い祭りの果て、寝ても醒めても忘れる事の無いつわものどもが夢の跡の主は、寝息を立てながら俺の腕にすべて委ね、重なり合いを描き続けている。
チャーミングなジト目を閉じて描いた美しい線を、口角を上げて満たされたような微笑を見せる彼女は、いったいどんな夢の続きを見ているのだろうか?
一糸纏わぬ重なり合った身体を寄せては絡んだ腕で、しがみつくように締め付けて離してくれそうにない。
これもまた幸せを感じる平和な一時か……もし、俺も同じ夢を見れるならば、夢の中でも口付けを交わせれば良いかもな。
彼女と同じ夢を見れるかはわからないが、願うことくらいは罪じゃないだろ?
祈りが届くかはわからないが、再び、瞼を閉じていけば溶けるようにして落ちていったのだ───。
◇
ノンシュヴァンシュタインとは程遠いチープでピンク色のムードに引き寄せられて登城した先で、意気揚々にパネルを押した彼女は直後、下を向いて茜色に染まった照れ隠しのつもりか、その可愛すぎる姿につないで握りしめた手の力がほんのりと強まる甘噛みか。
鍵を受け取った無邪気な、無鉄砲な、そして無防備な彼女と手をつないだまま、空いた手で受け取ったウェルカムドリンクは、もう後に引けない気持ちを前向きに切り替える水盃のようなものか。
後から同じくネオンに引き寄せられた二人組の夏の虫たちから逃れるように、エレベーターに乗り込んでこれから飛んで火にいる二人きりの大人の時間を、心頭滅却しようが熱い熱い夜を過ごす事だろう。
目的の階までの無音の間、照れを隠しきれない彼女の視線はどこに泳いでいるのやら?
「大丈夫、怖がらなくていい」
耳元で囁けば少しくすぐったいのか少しだけ身を捩じらせ、手を強く握り返した彼女は顔を上げてチャーミングなジト目を、視線を合わせて微笑を浮かべたエレベータートーク。
もっと近くで、ずっと眺めていたいが目的の階に到着し、踊り出てほんの少しのおあずけか。
さ、この扉の先へ行こうか、心の鍵を開ける準備はいいかい───?
◇
口付けを交わす度、チャーミングなジト目がまるで溶けていくかのように落ちていく瞼と同じく、身を委ねたまま崩れゆく彼女はその眼でもう一度、もう一度とねだるように語り尖らせた口先を寄せては重ねた。
長く甘い時間の国の迷子、帰り道はわからなくていいんだ、今宵の帰る場所はここ以外に考えるまでもない。
こちらにおいで、イイモノをアゲルと誘われるがまま、唇の先と先を合わせるだけではどこか物足りなさを感じた頃合い。
もっと強く、深く知りたくなった好奇心の赴くまま、まるで子犬のような表情で舌を出して誘う彼女の先端を、舌先同士で触れ合いこぼれる笑み。
溶けていくように、狂おしく踊るようにふわりと舞った快楽の深みにあらがう事無く、深く、深く、沈んでいく。
舌先だけでは物足りなくなれば少しずつ奥へ、深みへくるりと回りながら表面、側面、裏面、側面に触れては絡みついて踊るような深く激しい口付けをする傍らで、愛撫するその手で、その指先で優しく耳をくすぐれば吐息が、嬌声が溢れてゆっくりと崩れた。
落ちた先はベットの上、その主となった彼女の両手で包み込むように頭を掴まれ、同じ処に引きずり落とされるように誘われた先で再び、長く甘い口付けに触れ合い絡み合う舌先から蜘蛛の糸がゆっくりと垂れ落ちる様に興奮を覚えるのは言うまでもなかった。
もっと深く落ちていくように触れ合いたい、狼たちの野生か魔性が呼び起され、やがてそれは覚醒した。
服の上から触れるたびに目覚めるような反応が一つ、二つする度に身を捩じらせながら一線を一つ越える度、怯えるような彼女に口付けを、愛撫を、言葉を交わして安堵させる。
次第に鎧を、理性を脱ぎ捨てて下着越しに這わせた手の平、手先に指にくるくると踊り、濃密な口付けを交わした彼女の表情は、もう一線先を飛び越える覚悟を決めたのか、美しくもどこか涼しげな佇まいで、やがては一糸纏わぬ妖艶な姿を露にした。
彼女は地上に降りた天使か、女神か……違うな、美しくも妖艶な姿は堕天使だろう、共にゆっくりと堕ちていこうではないか。
甘える声で、表情で線を越えていこうと誘い、ねだり、逸る彼女の溶けるような口付けは激しさを増し、水面に雫の落ちるような音が小刻みに奏でる毎に奮い立つ。
滴る糸を手繰り寄せ瞬き動いて重なりを描き、やがて濡れた唇、笑顔の彼女が思い描く流れに身を任せ漂うように揺らぐ鼓動は高まるばかり。
年上のお姉さんらしく気丈に振る舞っているも、どこか迷いがあるのか……後は俺に任せてくれないか?
天翔けて堕ちていくんだ、何度でも、何度でも時間の許す限り、俺に付き合ってもらおう。
唇から唇へ描いた十字を切って祈るように、鳥たちが歌うように重ね合わせて触れて啄ばむように、舌先と舌先が触れて絡み合って引いた糸を再び手繰り寄せるように繰り返す長く甘い口付け。
逸り高鳴る鼓動を抑えて耳に、首筋に、肩に、脇に、胸元に這わせた唇、舌先、吐息、手先で愛撫するたびに身を捩じらせて途切れ途切れの抑えきれない嬌声が溢れだす。
なだらかな二つの美しい山を撫で上げ、頂にある先端を指先で舌で何度も円を描いて膨らみ、先ほどよりも大きく身を捩じらせながら途切れ途切れだった甘い声は色味が増して艶めいた。
二つの手は山を覆いつくして撫でる事を止まず次第に置いていき、唇、舌先、吐息の下りた先に広がるうっすらとやわらかい雪原のように広がるも引き締まったお腹にほんのりと轍を描くように、たどり着いた綺麗な窪み、綺麗なおへそに舌先を這わせた。
身を捩るのは相変わらず、不意に脚で上半身を捕まえられ艶やかな声が大きくなるのは丁寧すぎたかな?
だけどやめない、もう少しだけ付き合っていただこう、締め付ける太もも、足先で抑えたくなるのはもう少し下った先だろう?
お望みならそうさせていただく、もう隠しようがないところへ行く前に……彼女なりに決めた覚悟が、整えられたラインに表れていて……本当、綺麗だ。
きっと彼女は、またいつか重なりを描く日を思い描いたのだろう……その事を褒めれば両手で顔を覆い隠し、絡みつくように締め付けた足をパタパタと動かした様子が身体にじわりと伝ってきた。
本当、そういうところがすごく可愛らしいのだ…ボス、俺は貴女の事を、ありのままの貴女の事をもっと深く知りたいよ───。
◇
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