第42話 課題2

「それで、どんな課題が出たんだ?」

「キャロラインは分かりますがレブンまで教授に課題を出されるとは。一応婚約者であり後見人である私としては情けなくなります」

「お、お姉様、あんまりですわ」

「出たんです?」

「何が?」


数時間後、ボクは丸テーブルを囲む談話室で皆と話合っていた。


ここにいるのは魔森で出逢い、その後休戦からの平和交渉を兼ねて留学生となった隣国ザナドウの皇太子、バルトハルト▪フォン▪ザナドウ。

聡明にして秀才。

マデリア公爵令嬢エレノア▪フォン▪マデリア。

先ほどブンドル教授に一緒に課題を出されたレイテア子爵令嬢キャロライン▪フォン▪レイテア。

そして何故かボクの従者を名乗り、エレノア様の口利きで学園の厨房手伝いに入り込んだマイリ、ランス兄妹である。



「ボクは巻き込まれただけで本来、教授の怒りを買ったのはキャロラインだけなんだけど……」

「はあ、まあ、そうでしょうね」

「お姉様、あんまりですわ。弁明させて下さい!」ガタッ


お茶を飲み干し、大きく溜め息をするエレノア様。

だけど終始、納得いかない顔をしていたキャロラインがここで吠えた?!


「っ、確かに教授に見つかったのは私の声が綺麗で聞こえ易かったからですわ!ですがお姉様、聞いて下さい。レブンったらハレンチなんですわ。複数の男子寮生を部屋に連れ込んで、私だってした事もないアンナ事やコンナ事をいろいろやっているって言って、とんでもないですわ!」


何の話っ!???

ボクを指差しながら立ち上がったキャロライン。ボクが男子寮生を部屋に連れ込んで、あんな事こんな事って何?

訳分からないんだけと!?

あれ?

辺りから冷気がただ漏れなんですが、これはボクのせいじゃないよね?


ズイッ

「ちょっ、キャロラインの話しは、何かの誤解が、ひぃっ!?」


ボクがキャロラインの話を否定しようとしたら、瞬時に目の前に百八十センチ以上の人の壁が立ちはだかる。

だ、誰!?


「レブ、君は、まさか強要され!?」

ガシッ

「痛?!バ、バル?」


両肩を捕まれ、眉間にシワを寄せたバルの顔が迫ってくる!?

ちょっ、な、何でーっ???


「レブン、私の婚約者でありながら嗜好がソッチだった訳?てっきりアナタなら私の受けになってくれると思ったのに……。なんなら攻めでも構わなかったのよ。それなのに男を選ぶなんて……まさか元々は男色の方?だけど今の状態は同性でないから普通の異性関係??何だか混乱するわね………」


「エレノア様、何言ってるか分かりません」


エレノア様が顎に手をやったまま、考えこんで独り言?を言い出した。

嗜好がソッチ?受け?攻め?異性関係?男色?訳が分からないよ!


パタパタパタパタッ

「レブお姉様!」

「マイリちゃん?」


マイリちゃんが純心そうな顔で駆けて来て、ボクに抱きついてくる。

今ではすっかりメイド服が板についた感じだけど、基本はまだ七歳の女の子。

このくらいの幼い子に接してると、世知辛い世間を忘れられるよ。


「はいはいマイリちゃん、どうしたのかな?」

「レブお姉様、大人の階段のぼったの?」


「へ?」

「マイリも大人の階段、手解きがほ」ガンッ

「痛!?兄ちゃん?」


「ランス君?」

「馬鹿マイリ、何て事言い出すんだ!」


大人の階段?マイリちゃんも何か勘違いしてるみたい。

血相変えて駆け込んだランス君が頭にゲンコツを落とした?!

はあ、みんな何やってんのさ!?



「あの?絶対、いろいろ誤解してますよね?皆さん」

「まあそうでしょうね。キャロラインの早とちりは何時もの事だから、からかってみただけよ」

「お姉様?!」

「そ、そうなのか?レブ!」

「えっ、レブお姉様、未だに未経験?」ガンッ「痛!」

「馬鹿、お前も未経験だ!」





はあっ

エレノア様は最初から分かっていたみたいだ。やっと、まともな話が出来る。

それにしてもマイリちゃん、七歳にしてはマセ過ぎじゃない?


それでエレノア様と皆に、ブンドル教授から課せられた課題の件を話し合う事になったのだけど……


「成る程。ブンドル教授、恒例の課外授業よ。アナタ達、気に入られたようね」

「気に入られたくありません、お姉様!」

「恒例、何ですか?」


「ええ、今頃、講義を受けている全員に同じ課題が出ているわ」


何だよ。

だったら、ただの宿題みたいなものじゃないか。

たいした事はないのかも……ん?



「だったら、何でボクらは教授室まで呼ばれたんですか?」

「だから気に入られたって言ったでしょう。例年、気に入った生徒がいると、教授室まで呼び出して無理難題を指図するのよ」


「無理難題?」

「その様子だと、まだ課題の内容を見ていないようね」


「あ、まだ、ファイルの中に入れたままでした」

「あ、私もですわ」


ガサガサガサガサッ

慌てて課題の入ったファイルを開ける。

教授から自室で見るように指定されてたから、まだ未確認だったんだ。



「お姉様、これです」

「あら、キャロラインは、腹痛の薬草を見つけるのね。簡単だわ」


「え、簡単?私、全く分かりませんわ?」

「あの変人教授、生徒の力量はちゃんと見ている様ね」


「キャロライン、簡単で良かったね」

「レブン、あなたは簡単でしょう?腹痛用の薬草って何て名前で何処に生えているの?教えなさい!」


「レブン、教えなくてもいいわ。キャロライン、一人で調べて採取してきなさい。これは命令よ。少しは頭を使わないとね」

「お姉様!?」


なんかガックリと肩を落とすキャロライン。キャロラインは、エレノア様には頭が上がらない。

精神的なものもあるけど、レイテア子爵領の領主経営をエレノア様が援助してるからだ。


まあ、エレノア様には打算もあるみたいだけどね。

ボクが【魔獣避け】薬のレシピを渡し、生産を行っているランス、マイリ兄妹の実家の村がレイテア子爵領内にある事がその理由。

そっちも直接エレノア様が援助していて、その【魔獣避け】薬の取り引きをマデリア公爵家傘下の商会が独占販売している。

また小作ですらなかったランス、マイリの母親は、今では数十人を雇い大きな薬工房を経営するまでになっている。

主な産業の無かったベナティア村には大きな助けになっているのだろう。



「それでレブン、あなたの課題は何て?」

「あ、そうでした。ええっと?」

ガサガサッ




「え?!」

「どうした、レブ?」

「あら、アナタが驚くなんて珍しいわね」


ボクが驚いていると、そのファイルをボクの背後から覗き込むバルとエレノア様。

二人とも、近いんだけど!?


だけど今は、それどころじゃない。

コレはとんでもないよ。

何で驚いているかって?


だってブンドル教授からのボクの課題は、まったく普通の課題では無かったからだ。

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【新】性転換薬を飲んだら、皆が追いかけてくるんだけど。 無限飛行 @mugenhikou

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