第36話 再会

◆クライアス国立聖セントオーディン学園

ハインシュタイン研究室


「レブン▪フォン▪クロホード君、君の復帰を心から歓迎しよう。よくぞ、我が研究室に戻ってくれた。君が居なくなったと聞いた日から、私がどれほど心を痛めたことか、あの皇王のどら息子、ジーナスからの苛めを受けていたとか、きっちりと皇王には抗議しておいたからね。もう安心するといいよ」


「あ、有り難う御座います、バイセル講師」


「しかし君が、その苛められたストレスで、こんなに小さく華奢きゃしゃになるとは思わなかったよ。女の子みたいでまるで別人だな。ちゃんと食べているのかね?」

「は、はい。ようやく食べられる様になりまして」


「ならいいが、また、あの三人に苛められたら、私に言いなさい。いつでも力になるよ」

「あ、有り難う御座います」


バイセル講師は、その長い黒髪をはためかせ、知的な眼鏡でボクに微笑みかける。


今年で30歳になる筈なんだけど、見かけは未だに若いし、そのアイスブルーの瞳には、なんだか大人の男性の色気を感じる。

おまけに薬師で、上級ポーションを作成出来る実力者。


はあ、相変わらず、なんて頼もしい先生なんだ。やっぱり尊敬しちゃうなぁ。

はう!?

なんだろう、この胸の高鳴り?

んん?

あ、きっと尊敬の気持ちからだよ……ね?


バタンッ

ボクは、よく分からない熱い気持ちのまま、研究室を後にする。

この後の予定は、エレノア様に1日の報告にいく事。一応、婚約者だし、パトロンでもあるから当然といえばそうなんだけど、なんか面倒だよね。




「レブン!」


「はひっ、ジーナス殿下!?」


スタスタスタスタッ


ひゃい!

ジーナス殿下が学園の廊下を、ボクの方に早足で歩いてくる!

な、な、な、なんで!?


「レブン!!」


「ひ、ひゃい!」


手を伸ばすジーナス殿下!

捕まる!?


ばっ!


「な!?」


「え?」


な、なんだ?

突然、ボクの前が遮られて何も見えない。

え、これ、背中だよ?


「貴様は?!」


「…………」


な、何?

背中が近過ぎで、まったく状況が分からないんだけど!?

ん?

でも、この背中、なんか見覚えがあるような……?


「皇族であるなら、約束を守るべきだ。それとも皇王にお伝えした方が宜しいか?」


え?!

この声って、まさか?


「他国の王族に言われる筋合いはない!レブンは、この国の貴族。私の 臣下しんかになる者だ。私がどうしようと、私の勝手だ!」

「臣下だから大事にするべきだ。嫌がると分かっていて、なお、我を通そうというなら、それは悪意ある暴君に過ぎない」


「私が暴君だと!?」



「あら?これはジーナス殿下ではありませんか?」


あ、この声は!?


「ぐっ、エレノア!」

「お久しぶりで御座います。謹慎が解けたのですね。良かったですわ。あら?こちらは」


「先日以来でしたか。バルトハルト▪フォン▪ザナドウと申します」

「エレノア▪フォン▪マデリアです。バルハルト王太子殿下、先日の平和条約締結以来でしたね。今日から学園に?」


「はい。晴れて友好国なれたものですから、せっかくですので、皇国が誇るセントオーディン学園の学舎の見学をかね、短期留学する事になりました。今後も宜しくお願い致します」

「まあ、ご丁寧に有り難う御座います。それで?ジーナス殿下は、何故に此処に?外交に興味がお有りでしたか?」


「ぐっ、教室に戻る!」


スタスタスタスタッ


「……………」

「………………」


あ、ジーナス殿下は背を見せると、もと来た通路を戻って行った!?

うはああっ、助かったよう!


「あれが、貴女の元婚約者か?しかも皇太子?なんというか、器が小さくないか?」

「元皇太子です、殿下。流石に、あの方の行動だけは、わたくしにも読めませんですわ」



背中の男性が、エレノア様と話しをしてる。

え、バルトハルト▪フォン▪ザナドウって、まさか



「え?ハルさん?」


「レブ、やっと君に追いついた」


背中の男性はボクの方を向くと、そのまま抱きついた。

あ、ハルさんだ!


「ハ、ハルさん、いえ、バルトハルト殿下」

「ハルでいい。前のように私もレブと呼ばせてくれ」


「は、はい。ん。ハルさん」

「逢いたかった。やっとだ。やっと君の側に居られる」



コホンッ


あ、エレノア様が咳払いをしてる!?


ボクとハルさんは、その咳払いに反応して、抱き合いから離れ、エレノア様を見る。



「再会の馴れ合いは其処までにして下さいませ。ここは人目に触れる場所ですわ。とりあえずわたくしの部屋に参りましょう。宜しいですね、お二人とも」



こうしてボクはハルさんに再会し、エレノア様の部屋に向かう事になった。

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