短編73話  数あるずーっとずぅーっとおしゃべり

帝王Tsuyamasama

短編73話  数あるずーっとずぅーっとおしゃべり

「ね雪」

「なんだよ」

「昨日部活終わった後、体育館裏で女の子と一緒にいたじゃん。何してたの?」

「クワガタが体育館の中に入ってきてたから、マネージャーと一緒に逃がしてた」

小港こみなと雪大ゆきだいさん、並んで座ってとても楽しそうだったじゃん」

「クワガタあんな長いこと見てたのは久しぶりだったから、楽しかったかもな」

「女の子も楽しそうにしててよかったね」

「ああ。おとなしい系キャラキャラクターかと思ってたけど、虫とか苦手じゃなさそうでよかったな」

「へー。おとなしい子が好みなんだ」

「うるさいマネージャーもおもしろそうだけどな」

「どうせあたしはうるさいですよーだ」

沢香さわかなぎマネージャー……似合わねぇな」

「どうせあたしは似合わないですよーだ」

「前線で暴れ倒してこその凪だよな」

「どうせ暴れることしか脳ありませんよーだ」

「暴れるマネージャーってのもおもしろそうだな」

「前代未聞の部活部活動かもね」

「そういやおととい、ハンドボールコート横で、凪は男子と一緒にいたな」

「後輩だよ」

「いい後輩か?」

「いい後輩だよ」

「1~5で言うと?」

「3.14?」

「1592?」

「65までしか覚えてないよ」

「35」

「覚えてないってば」

「何の話をしていたんだ?」

「部活のことだよ」

「部活以外の話をしたことは?」

「しょうゆラーメン派だって。雪は何派?」

「つけ麺」

「もうちょっと素直に生きようよ」

「最近駅前につけ麺屋できたの、知らねーのか?」

「知ってる」

「今度行こうぜ」

「うん」

「凪は部活だと、部活トーク以外はラーメントークしかしてないのか?」

「そんなわけないでしょ」

「例えば」

「いろいろ」

「例えば」

「アイスクリームとか、祭とか、カレーとか」

「なんという食べ物オンパレード」

「祭は食べ物じゃないよ」

「祭の屋台で何食べるよ」

「わたがし」

「口入れた瞬間一瞬で縮むよな」

「おいしいね」

「他は?」

「りんごあめ」

「気が合うな」

「雪は焼きそばとか、フライドポテトとかじゃないの?」

「オレンジ色紙カップの百円ポテトコスパ最強」

「懐かしいね」

「あのおっちゃん、今どこで何してんだろうな」

「きっと新しいとこで、百円ポテト広めてるんだよ」

テレビテレビジョンで見る日も近いかもな」

「うちの学校にも、取材来るのかな」

「沢香凪さん、後輩男子との関係が取り沙汰されていますが、一言お願いします」

「なんでスキャンダル調?」

「一言お願いします」

「有望な後輩ですので、将来が楽しみですね」

「二人っきりだったとの報道もありますが、私的な関係があったということでしょうか」

「すでに一言言ったんですけど」

「こちらにも一言お願いしまぁす」

「あ、声変えて別の記者っていう設定なのね」

「お願いしまぁす凪さん」

「休みの日に遊んだりとか、一緒に帰ったりとか、全然この子とそういうのしたことないです」

「噂によれば、二人はすでに付き合っているという話も聞かれますが?」

「それ本当?」

こめじるし作品中に出てくる人物・団体等は、実在するものとは関係ありません」

「あ、世界観壊してごめん。先ほどのとおり、この子は全然そういう子じゃないです。もういいですか? 練習がありますので」

「後輩さんは資産家の息子という情報もあり、資産を狙っての接触だという報道も出ています、凪さん、凪さーん! ちっ、逃げられたか」

「そんな番組に、どのタイミングでポテトおじさん出てくるの?」

「水曜日のゲストコメンテーターは、お馴染みこの人、ポテトおじさんでーす」

「取材どころかほぼレギュラーじゃん」

「世界情勢をポテトの観点から分析。独自の理論で著書多数」

「ねじり鉢巻きのおっちゃんから、すごいイメチェン」

「先週だっけ。昼休み、ランチルーム前で男子二人に囲まれてたな」

「遠くにカメラ役の女の子もいたけどね」

「その男子二人とのご関係は」

「同じ学校の学生です」

「やはり資産家の息子を狙っているのでしょうか」

「新聞部から申し込まれた取材を利用して、資産家の息子を狙うなんて、結構トリッキーだね」

「取材なら、部活してるとこを取材するもんじゃ?」

「お昼休みくらい休ませてよ」

「部活の時間にさ」

「その特集の続きで、部員にインタビューしてるんだって」

「ランチルーム前で?」

「いろんな背景での写真をお願いします、ってさ」

「次の校内新聞も読むわ」

「『も』って」

「もちろん前回の凪特集も読んだ」

「あたしが読んだときは部活の特集だったのに、いつの間に凪特集に差し替えられていたんだろう。」

「背が高くてスタイルがいい我が校の新星登場! 的な」

「……なに言ってんの?」

「すまん。今のは下手すぎた。忘れてくれ」

「世の中には、取り返しのつかないこともあるのだよ」

「大らかな心こそが、平和を生み出すのだよ」

「どうせ暴れ回ってるだけですよーだ」

「我が校の暴れ姫! 驚異の快進撃!」

「……テレビのテロップでそれ出たら、覚悟しておいてね」

本気マジすまん。俺のネーミングセンスが終わってるだけで、凪のことそんなふうに思ってるわけじゃないからな」

「お姫様は似合ってないってことかな」

「そこじゃねぇ」

「快進撃もなさそうって?」

「そこでもねぇ」

「まさかあたし、この学校の学生じゃなかったとか」

「一体どこの組織から送られてきたスパイなんだ」

「この学校、スパイされるくらい重要な秘密とかあるの?」

「国家を揺るがす最高機密が」

「今のところ、平和な学生生活だね」

「もしかしたら、異世界から召喚された伝説の戦士だったりとか」

「それってどっちかっていうと、あたしたちの世界から行くやつじゃないの?」

「天界から降ってきたり、何百年前からタイムスリップしてきたり、ってこともあるじゃないか」

「ますますあたしだれなの?」

「世界を救うヒロイン」

「結局暴れてるのねあたし」

「まさかの暴れ姫説再燃?」

「あたしになにかうらみがあるなら、正直に言いなさい。お姉さん怒らないから」

「それで怒らなかったケースを知りたい。あとうらみはないですすまん」

「ついでに女の子と座ってた件についても、正直に話しなさい。怒らないから」

「怒る意味がよくわからないが、すでに事実は報告済みである」

「他にその子のことで隠していることがあれば、包み隠さず話しなさい」

「声優目指してて、片道二時間かけて、養成所? っていうところに通ってるらしい」

「え、すごっ、本気マジ?」

本気マジ。さすがに偽の情報流して、こちらの組織を乱してくるようなキャラじゃないな」

「身近にそういう子って、いるんだねぇ……」

「凪は興味あるのか?」

「声優?」

「片道二時間の方じゃなくて声優の方」

「そう思って声優? って聞いたんだけど?」

「ご興味ありますか凪さん」

「また出た記者」

「小港新聞の者です。凪さん声優に挑戦されますか?」

「しません。別にかわいい声してないでしょ」

「またまたご謙遜けんそんを~」

「使い方あってんの?」

「凪さんの美声に、世界中が注目していると思われますが」

「世界に先駆けて、うちの部を取材してきた新聞部すごいね」

「その美声、世界に届けてみませんか?」

「美声じゃないので、遠慮しておきます」

「うちの社では、凪さんの冴え渡る美声の話題で持ちきりですよ」

「……ひょっとして。暴れ姫発言のマイナスポイントを、埋め合わせる作戦?」

「ぎくり」

「はぁ」

「習い事の経験は?」

「幼稚園のときにスイミング」

「ああ、聞いたことあったなぁ。今でもプール行ってんの?」

「記者消えた。中学校に入ってからは、行ってないなぁ」

「なぜ」

「だれからも誘われなかったから?」

「じゃあ今度行こうぜ」

「雪と?」

「俺がだれかに乗っ取られて、声を無意識に発していない限りは」

「……うん、じゃあ今度行こっか」

「大会終わったら行くか」

「そうだね」

「凪さんプールに後輩と行く噂があるようですが、一言お願いしまぁす」

「記者さん忙しいね」

「雪大新聞の者でぇす」

「ライバル社。後輩の子からは、今のところ誘われていないです」

「では誘われたら行くと?」

「う~ん、行かないと思います」

「なぜですか?」

「そんなに仲良くないから?」

「では今後仲良くなったら、行く可能性はあると?」

「仲良くなったらね」

「行く可能性があると?」

「仲良くなったらね」

「……あると?」

「もう何言なんことしゃべった?」

「つまり小港さんとは仲がいいと?」

「そうだと思います」

「だと思います?」

「はいはい仲良しですよ」

「なんでそんな投げやりなんですか?」

「お互い仲がいいことくらい、よくよく知っているからですよ」

「ひょっとしたら、凪さんが一方的にそう思っている、ということは?」

「そうだったら悲しいね」

「きっと大丈夫ですよ凪さん」

「雪大新聞の記者さん、何知ってて何知らないの?」

「夏休みは、他どっか行く予定あんの?」

「ないかなぁ」

「インドア派?」

「今決まってないだけで、友達から誘われたら行くっていうことが、多いかなー」

「へー」

「雪は?」

「家族と海。父さんの実家。母さんの実家。凪とプール。凪とつけ麺」

「そういえば、実家に帰った~っていう話、聞いたことあったね。親戚とも会ってるんでしょ?」

「ああ。いとこと麻雀したりバックギャモンしたり、外に遊びに行ったり海行ったり」

「いとこって、同じくらいの歳の子もいるの?」

「だいたい歳近めだけど、おない同じ歳は二人いるな」

「女の子?」

「二人とも」

「麻雀もバックギャモンも、その子たちとしてるの?」

「一応できっけど、他の親戚女子たちと一緒にいることが多いんじゃないか? 海には一緒に行くが」

「ふーん」

「凪は海行けるのか?」

「幼稚園のとき、何してたって言った?」

「くらげが怖いとか海水だめとか、あるかもしれないじゃないか」

「雪そういうとこ優しいよね」

「はぁ?」

「海も行けるよ」

「じゃあ海も行くか」

「プール行くのに?」

「トライアスロン選手とか、プールでも海でも練習してそうじゃないか?」

「トライアスロン出たいの?」

「無理。凪は?」

「無理」

「俺、海は家族や親戚と行ってるけど、家族がいない海って、行ったことねぇんだよな」

「おないの女の子とは、何度も行ってるのに?」

「家族も親戚もいない海に、訂正しておいてやろう」

「あたしは親戚の子と遊ぶ機会なんて、結婚式とかの一同に集まるようなときくらいだよ」

「父さん母さん、どっちも実家遠いんだっけ」

「うん」

「だからいとこ女子情報集めてんのか」

「気になっただけだよ。二人はかわいい子?」

「一人は美術部、もう一人がパティシエ部」

「かわいすぎかっ。パティシエ部てなにっ」

「パティシエの、部?」

「でしょうね」

「地域の子供とスイーツ体験、っていうのを企画したこともあった、っつってたな」

「エピソードまでかわいさのかたまり。その子が、雪のお気に入りの子?」

「まぁ、おないだし、親戚では最も遊んでるな」

「どんな服着てるの?」

「どんなって?」

「やっぱり白のワンピースとか、花柄のスカートとか?」

「……さあ?」

「さあってなによ」

「年一か二くらいしか会わねぇから、服まで覚えてねぇよ」

「ひとつくらい、覚えてる服ないの?」

「……赤い制服? 真っ赤なやつじゃなくて、もっと暗いやつ。女子もネクタイするってさ」

「制服までかわいいとかもうなんなん?」

臙脂えんじ色っていう色の名前を、それで教わった」

「かわいい子から色の名前を教えてもらう男子」

「凪からも、ボールを遠くへ投げるコツ教わったな」

「パティシエ部の女の子と色トーク、に並べないで」

「ジャンプして着地するときのコツも」

「絞り袋から生クリームうまく出すコツと比べられても」

「細かく習ってないが、一緒にケーキ作ったことはあったな」

「凪料理できるんか~からのあたしだって女の子だよ、の返しを用意してたのに、さらに上被さってこられてなすすべなし」

「凪も、俺と一緒にケーキ作りたいのか?」

「かわいいパティシエ部の女の子の話を聞いた後に、それ?」

「ケーキ作りの話になったから、凪とも一緒に作ってみんのも、おもしろそうだと思ったんだが?」

「あー、ん~、雪の気持ちもわかるのと、乙女心的にどうなの、っていうのが絶妙なバランス」

「凪ちゃん的にどうなんだよ」

「凪ちゃん的に、今度一緒に作ろっか」

「じゃ夏休みの予定追加な」

「うん」

「海は?」

「……まあ、いいけど」

「これも追加な」

「ねぇ雪」

「なんだ?」

「急にどうしたの? 去年まで、こんなに誘ってくれなかったじゃん」

「部活気合入れてるみたいだったから、遠慮した……みたいな?」

「雪そういうとこも優しいけど、その優しさは、誘ってきてあたしがその日用事あって無理、って断った後で発揮してよ」

「先日は失礼をいたしました。つまらない物ですがこちらのお菓子をどうぞ、的な?」

「つまらない物をあげることこそマナー違反だから、わざわざ言わなくていいって、テレビでやってたよ」

「あの日の誘いを断られたこと? ああ全然気にしてないよ、うん全然まったく微塵みじんも気にしてないようんうん」

「それは気にしてる人が言うセリフ」

「気にするな。お前にも都合というものがあるだろう」

「結構こういうときのテンプレテンプレートって、あるんだね」

「去年あんまり誘わなくって、今年誘いまくったら、急にどうしたって言われるんなら、来年も連続して誘ったら、もう急にどうしたじゃなくなるよな?」

「奥義『急に二年連続でどうした』」

「沢香流強すぎ」

「柔よく剛を制す」

「大は小を兼ねる」

「桂馬の高飛び歩の餌食えじき

「三桂あって詰んだ試しなし」

「なけなしの将棋ネタを出したのに、それすらも返してくる雪って、何者?」

「ひょっとしたら、異世界からこの世界を救うために」

「現代世界と異世界の交流はよくあるけど、異世界と別の異世界の人がこの世界で交流って、なんだか複雑」

「凪は世界救うなら、ジョブ職業何選択するよ」

「はいぃ? あたしあんまり詳しくないけど、パティシエ部になったらモテそう?」

「なんだ、武闘家じゃないのか」

「異世界からやってきた武闘家なんだが、パティシエ部に入ってみたら、意外とうまくいった件?」

「凪スポーツだけじゃなくて、アニメの原作者にもなれるのか?」

「知らないわよ。雪は漫才師にでもなれるんじゃない?」

「はいどーもー、雪大と~」

「…………と?」

「雪大と~ちらっちらっ」

「はぁっ。凪と~」

「そこでと~だったら、三人以上いることになるんだが」

「凪で~」

「二人合わせて~」

「合わせて? ゆきなぎでーす」

「ぱちぱちぱち~」

「ちゃん、ちゃんちゃんちゃんっ」

「凪さーん」

「はい。え、これ続けるの?」

「僕最近ウェイトレスにはまってましてー」

「それを言うならウェイターやろ~」

「いやまだ、見ることなのかやることなのか、言ってないぞ」

「ええ……? んじゃ、変態か~。これでいい?」

「まあいいだろう。それと僕、スチュワーデスもやってみたいって思っててー」

「それを言うならキャビンクルーやろ~」

「え、CAの略って、キャビンアテンダントじゃなかったっけ?」

「外国じゃ通じないって習ったでしょ」

「そだっけ」

「もうええわ」

「ありがとうございましたー」

「ちゃん、ちゃんちゃんちゃん」

「凪、やっぱ才能あるんじゃないか?」

「これは才能って言うんじゃなくて、単に雪と一緒にいる時間が長いだけだよ」

「一緒にいる時間が長ければ、ネタを書ける……やっぱ才能じゃないか?」

「半分正解。雪だから合わせてるだけよ」

「一緒にいる時間が長ければ、相手に合わせることができる……やっぱこれも」

「はいはいお褒めいただきありがとうございますー」

「俺は凪に合わせられているか?」

「あんまりあたしに合わせてくれてはなさそうだけど、でも勝手に暴走してるわけでもないよね」

「その理由を二十五字以上三十字以内で、文章中から書き抜きなさい」

「あの『読点』や『句点』も一文字の扱いになるあれ」

「覚え方は、句点は『。』。句点って漢字は、真ん中に『。』っぽいのがあるだろ」

「習った習った。雪結構記憶力いいよね」

「残念なことに、ちょっとした豆知識くらいなら覚えられても、社会の暗記問題は苦手という」

「いい塾に通ったら、能力開花しそう」

「少なくとも、今年は凪と遊ぶぞ」

「うん、まあ、ね」

「凪は塾とか行ってないのか?」

「行ってないねー…………あ、うそ。そろばん算盤に一年間行ってたんだった」

「クラスに一人は、やたらそろばん速いやついるよな」

「わけわかんないスピードで、玉弾いてるよね」

「せっせっせーのよいよいよいも、意味不明なスピードでやる女子いるよな」

「いるいる」

「凪のスピードは?」

「せっせっせーのよいよいよい」

「俺できな」

「アーループースーいちまんじゃーくーこーやーりーのー」

「もはや相撲のつっぱり」

「お相撲さんが、土俵の上でアルプス一万尺……見てみたい」

「極めたら、めちゃくちゃ速いやつが見れそう」

「強すぎて、相手吹き飛んじゃわない?」

「そこはポーフェッショナープロフェッショナルのさじ加減で」

「小さいときは、『子山羊こやぎの上』と思っていた時期が、ありました」

「長さじゃなくて強さで、『アルプス一番弱』だと思ってた時期が、ありました」

「小学校のときって、謎のブームがあるよねー」

「男子なのに、あやとりブームとか」

「あ~たまに廊下にあやとりのひもが落ちてたよねー。あれ男子の仕業?」

「男子なのに、おてだまブームとか」

「おてだまも、たま~にみっつよっつできる子がいたよねー」

「けーどろブームが大規模だったか」

「クラスの男の子の半分以上が、休み時間になるたびにやってたよね」

「なんで『警察と泥棒』なのに、いろはにほへとちり『盗人』るをわかよ『探偵』なのか論争」

「なかったことにされた、よから向こうのみんながかわいそう」

「その続きで、三人目があるやつって、なかったっけ?」

「さあ~。あたし別にやったことないもん」

「いーちーにーのー?」

「さんまのしっぽー」

「ごーりーらーのー?」

「むーすーこ」

「なっぱーはっぱー?」

「くさった」

「とうふ」

「豆腐は白い。白いは」

「ちょ、それエクストラステージとかあんのかよ」

「あたしのいとこは、これ言ってた。さんまのしっぽじゃなくて、さんまのしいたけだったけど」

「冬虫夏草ならぬ秋刀魚茸さんまきのこ?」

「おいしくなさそう」

「凪さん、いとこくんとはどういったご関係ですか。一言お願いします」

「久しぶりに登場の小港新聞社さん。良好なご関係です」

「先ほど親戚は遠いというお話が出ていましたが、いわゆる遠距離恋愛ということでしょうか」

「違いますね」

「報道各社からは、熱愛発覚という話が各所から出ていますが、その点について一言お願いしまぁす」

「あなたたちの情報収集のへたさを、もう一度社内会議するべきだと思います。もういいですか? 練習あるんで」

「次々に熱愛発覚の凪さんですが、これはつまり不倫関係にあるということでしょうか凪さん凪さーん! ちっ、逃げ足の速いやつめ」

「異世界から来て遠距離恋愛の不倫とか、一体この地球に何のうらみがあるのよ」

「そいつはどんないとこよ」

「陸上部だったかな。歳はひとつ下」

「いいやつなのか?」

「いい子だよ」

「そいつの特技は?」

「走ることじゃない?」

「部活関係以外では」

「う~ん……折り紙折るの、丁寧だったかな」

「手先は器用だと?」

「そうだと思う」

「趣味などは」

「趣味っていうほどでもなさそうだったけど、ハーバリウムきれいだったよ」

「歯バリウム?」

「バリウムは、うがいじゃなくて飲むんじゃない?」

「そのハイパーバウムクーヘンって、なんだ?」

「それ太そう。ピンセット使って、ビンの内側からシール貼ったり、きれいな砂入れたりするやつ」

「飲み終わったら、マンガが浮き出てくる牛乳みたいな?」

8:2はちにーくらいで間違ってると思う」

「惜しいな」

「2の方だし」

「ふむ」

「うん」

Maxマックス牛乳何本飲んだ?」

「うーん。四本だった気がする」

「俺十一本」

「すご」

「フッ」

「最近のアニメって、1リットルのパックをラッパ飲みする運動部の女子とか、登場する?」

「俺どっちかっていうと、アニメっ子よりかはゲームっ子寄りだから、隅から隅までチェックしてるわけじゃないが、最近は出現してないな」

「あれ飲んでる途中に落としちゃわないか、心配にならない?」

「見てて?」

「ううん、自分で飲んでて」

「やったことねぇよ」

「牛乳十一本飲んだことあるのに?」

「あれはたまたま休みのやつが多かったかなんかか知らんけど、余ってたやつがあったから、飲んでたんだよ」

「ミルメークの日だったら、あたしももっと飲めるかも」

「ヨークの日も可」

「ミルメークだったら、どれ好き?」

「コーヒーに一票。凪は?」

「いちご」

「メロンも捨てがたい。あぁココアも」

「バナナもおいしいけど、いちごが上かなぁ」

「てか学校以外で、曲げたらプチッって出てくるツインドレッシングのあれ、見たことないよな」

「ジャムとマーガリンのなら、ホテルの朝ごはんで見たことあるよ」

「野良ツインプチッドレッシングがいたのか。てかホテル?」

「うん。昔はたま~に、家族で旅行行ってたから」

「へー」

「へーて、おみやげあげたことあるじゃん」

「ああ、キーホルダーみたいな砂時計とか、キーホルダーみたいな懐中電灯とか。今もある」

「さすが優しい雪」

「どういたまして」

「それを言うならどういたしまして」

「確かに最近はないな」

「それだけ旅行行ってないってこと」

「凪は俺と旅行したいか?」

「旅行~? 考えたこともなかったよ」

「じゃそれも予定追加か?」

「あんまり遠くないとこだったら、いいよ」

「じゃそれも」

「あたしは別に、雪と遊ぶのはいいけど、雪予定詰めすぎじゃない?」

「……俺さ。ひとつ決めたことがあるんだよ」

「なに?」

「最近、凪とだれか男子がしゃべってると、だれかと付き合っちまうんじゃって、思ってさ」

「なっ、なに急に?」

「なんかそれ見てたら、そのうち凪としゃべれなくなるんじゃって、思ってさ」

「ないない。雪としゃべらなくなる日なんて」

「…………以上です」

「続きあるの? 聴かせてよ」

「いや、別に……?」

「沢香新聞社です。雪大さん、自分だけ逃げるとか、卑怯ひきょうじゃありませんか?」

「凪めっちゃ練習で逃げてたし」

「雪大さんの気持ち、聴かせてください。一言でいいんで」

「一言、なぁ……」

「お願いします」

「……一言だけ?」

「ぜひ一言」

「…………えー、こほん」

「それは一言に含まれますか?」

「ただのせき払いです」

「では一言、お願いします」

「…………好きです、付き合ってください」

「…………え、えっ……?」

「大サービスで二言になってしまいましたね。じゃあ僕練習があるんで」

「ひどっ」

「まさか凪、後輩と付き合ってるとか?」

「ううん、ない」

「ならば新聞部のどっちかと?」

「それもない」

「じゃあ……イケメン陸上部いとこと?」

「…………ん?」

「んっ?」

「いや、だれ?」

「イケメン器用なハイパーレールガンいとこ」

「………………女の子なんだけど? 顔は丸めで、イケメンよりかはかわいい系だし」

「あ…………ふぅーん」

「……ぷふっ。なんであたしなの? 雪こそ、かわいいマネージャーの女の子とか、かわいいいとこのパティシエ女の子とかがいるのに」

「マネージャーはマネージャーだろ。いとこはいとこだろ。てかそのいとこが、女子目線でかわいいだったとしても、俺目線からしたら、凪超かわいい、だし」

「ちょ、ちょっとおっ。散々暴れ姫とか言ってたくせに?」

「だから本気まじすまんてっ。どの単語を言おうかって考える前に、凪だれかと付き合ったらどうしよう、ってのが先に割り込んでくっから…………ってだけだっ」

「そっ、そんなに……その…………あたしのこと、考えてたの?」

「そりゃ考えるだろ。俺人生一番でしゃべってんの、凪なんだからよ」

「……お父さんお母さん抜いてるの?」

「しっ、知らねえよ。抜いてるんじゃねぇの?」

「そっかぁ……」

「で。返事くれよ。俺告白したんだぞ」

「あ、ああうん。えとっ、えへっ、あたしそんなこと言われたの初めてだし、しかも雪が言ってくれたなんて、なんか信じられないっていうか」

「裁判長。証拠品としてカセットテープを提出します。ぽちっ。凪、好きだ。付き合ってください」

「にっ、二回言わなくていいってばぁっ。ちょっと変わってる気もするし」

「判決は」

「は、判決ぅ? え、ええっと…………雪は、あたしと……な、凪ちゃんと、お付き合いの刑に……処す……?」

「控訴します」

「え?」

「凪さんは僕と付き合うのは、義務だと言うのですかっ」

「……あのさ雪?」

「なんだ?」

「ノリ作ったの雪だと思うし、それに合わせてあげたの、こっちな気がするんだけど」

「………………凪。つ、付き合ってください」

「あはっ。よかった、うれしい。あたしとお付き合いしてください。よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「…………ほんとにあたしでいいの?」

「だっ、だから凪がいいから告白したんだろーがっ」

「あ、あははっ、だってあたしだよ? こんなちゃらんぽらんな子で、ほんとにいいのかなあって」

「しっちゃかめっちゃか?」

「しどろもどろ?」

「満漢全席?」

「……っていうあたしだよ?」

「っつー凪だからだろ。せっかく夏休み遊べると思ったのに、振られたらやべぇとも思ったけどな」

「自分で、雪からの告白を振っちゃうところなんて、想像できないよ」

「……ま、まぁ俺も。凪が俺を振るとこなんて、あんま想像できなかった……し?」

「ふふっ、そうなんだっ」

「素直に生きれと言われたし?」

「……あたしもスイーツ作り、勉強しようかなぁ」

「今度ケーキ、一緒に作るんじゃなかったのか」

「あ、そだったねっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編73話  数あるずーっとずぅーっとおしゃべり 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ