資産家令嬢の誘拐

烏川 ハル

第1話

   

 大富豪成丸なりまる家の令嬢ひろ子が誘拐されたのは、そろそろ梅雨も終わる時期。朝から晩まで降り続くことはなくなり、降ったり止んだりになった頃だった。


 ひろ子は高校では生徒会長を務めており、才色兼備で知られていた。成丸家にとっては大事な一人娘であり、彼女の身の安全が第一なので、犯人の要求通りに身代金を支払う。警察に届け出たのも、ひろ子が無事に解放された後だった。


 誘拐から解放までの三日間、彼女が監禁されていたのは、六畳間くらいの土蔵の中だ。重い鉄の扉で閉ざされた蔵であり、反対側の壁の高いところには、鉄格子のはまった窓が一つ。

 ただし土蔵と言っても物品を保管するための蔵ではなく、昔から座敷牢のような使われ方をされていた場所らしい。そこで人が暮らせるようになっていた。

 天井からは裸電球が一つぶら下がっており、机も椅子もないが、板敷の床には布団が置かれている。奥の片隅には簡単な扉で区切られた小さなスペースがあり、和式の水洗便所が用意されていた。

 目隠しや猿轡、ロープで縛るなどの拘束は一切なく、蔵の中では自由に過ごせたが、さすがに遊具のたぐいまでは与えられなかった。窓も高い位置なので、ひろ子の背丈では外の景色を覗くことも不可能。

 ただ壁掛け時計があったので、ひろ子は、ひたすらそれを眺めていた。食事は一日に三回、その時計で七時と十二時と六時に運ばれてきた。

   

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