「こんな美味しいご飯が毎日食べられたらなぁ」



 昨日はありがとうございました、とピカピカになったタッパーを大事そうに手に持ったお隣さんが私の家を訪れて来てくれました。といっても直ぐ隣の部屋なのですが。


「いえいえ、お口にあいました? ちょっと味付け薄かったかもしれません」


「そうですか? それなら良かったです」


 するとお隣さんは、ついさっき食べたばかりみたいに大袈裟に感想を述べてくれました。


「ふふっ、そんな風に喜んでくれるなんて、良かった。なんだか私の方まで嬉しくなっちゃいました」


「私、料理好きなんです。作るのも食べるのも・・・それに、食べてもらうのも」


「そうだ。お隣さんは、好きな料理とかってありますか?」


「え・・・お蕎麦? う、うぅん。経験は無いですけど、頑張って見ます。あ、いえ、此方の話です」


 そば打ちって素人がやっても何とかなるモノなのでしょうか。後で調べてみましょう

 そんな事より、今日はもっと大切なことがあります。「食材がお得だったから作り過ぎちゃった」なんて嘘、そう何度も通用するとは思えません。ここはさらに勇気を出して今後の約束なんか取り付けてしまったり・・・。


「って、・・・へ?」


 と、私が心の中で拳を握りしめ決心を披露していた所で聞き間違えか妄想だと思うような素敵なセリフがお隣さんの口から出たのです。


「毎日食べられたら・・・って、それ、その」


 空っぽになったタッパーを私に差し出して、まるで屈託のない笑みを浮かべているお隣さん。


「そ、それはつまり、私の作った料理を毎日食べたい・・・と、それは、その、あの、そういう意味ですか?」


 私の手料理を毎日食べることが出来たら、幸せだ。そのような意味の言葉を口にされたような気がします。


「毎日?」


 私が聞き返すと、お隣さんは慌てながらも頷いてくれました。


 『私』の『手料理』を『毎日』。


「・・・うぅう。どうやら、聞き間違いでは無さそうですね」


「い、いえ! そんな図々しいだなんて一ミリも思っていません。厚かましくもないです! 怒ってもないですって! そうじゃなくてですね、そ、その、えっと、なんていうか。急にそんな事言われたものですから驚いてしまって・・・すみません。あ、このすみませんは断ったわけではなくてですね」


「えーっと、その、なんと言いますか、う、嬉しいです。私も、その、同じ気持ちでしたから」


「今度は一緒にご飯食べたいな、とか、思ってたりします。目の前で美味しいって言ってくれたらいいなぁみたいな。す、すみません。なんか私舞い上がっちゃってるかもしれません」


「・・・・・・ほんとに、私なんかでよろしいのですか?」


「お願いしますだなんて・・・ふふっ、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願い致します」


「そ、それでは今日はもう遅いのでこの辺で・・・あ、明日の夜にまた持っていきますね」


「・・・お、おやすみなさい。お隣さん」




 ○月◇日


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 はあああ、あまりに驚きすぎて何度も書いてしまいました。え、えと、なんというか、こんな急展開あるのでしょうか。まるで少女漫画みたいです。最初は私の聞き間違いかと思ってしまいましたが、どうやらお隣さんは真剣に言ってくださったみたいでした。心なしか私が聞き返した時にかなり焦っていましたし、これは、これはつまり、本気だと考えていいということですよね。ど、どうしましょう。やっぱりまずは恋人同士ということなのでしょうか?まさかこんな事になるだなんて思ってもみなかったのでどうしたらいいのかわかりません。

 い、いえ、本当の事を言うといつかはそういった関係になりたいと望んではいました。ですが私なんかを好きになって貰えるなんて、無理だと諦めてもいたので。夢じゃないですよね、妄想じゃないですよね。さきほどから頬を抓っていますが痛いのできっと現実でしょう。私確認しましたよね、「そういう意味」ですかって。毎日手料理が食べたい、つまり私と交際もとい結婚したい。なんというか、あまりに情熱的で突発的過ぎて、うまく喜べていなかった気がします。こうして部屋に帰って改めて事実を確認して、だんだんと実感が沸いてきました。あぁ、まさかこんなに直ぐに両想いになれるだなんて・・・。ふふっ、私、幸せです。

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