一日一首(令和五年五月)

夜なべして炊きしけの汁を宅急便で嫁に送らむと自転車こぐ妻


庭隅に花蘇芳が枝にびつしりと紅紫こうしの小花をつけゐておどろく


井上ひさし著『吉里吉里人』読み日本国憲法前文に思ひはせけり


ゴールデンウィークも後半、庭ながめ妻との茶飲み話で〈みどりの日〉も過ぐ


こどもの日に家中の人形を部屋にならべ妻と大声で神仏に祈る


金婚式の今日は『さくらさくら』を連弾し自撮り録画で子らへ聴かせぬ


立夏過ぎ庭隅に芽吹く山椒の新葉のかほりに蒲焼を思ふ


山吹は小判の色に限らざる我が家の庭に白き花咲く


立夏過ぎて冷たき雨に雪柳の小枝の先に花ふるへをり


左手ひろげ人差し指でソの♯を。その響きはまさに『新世界』なり


グレースといふホンダ〈エスハチ〉なつかしや。八回ドラマを夫婦で観たり


ひさびさの初出勤なり短歌よみて緊張まぎらす研修医のごと


昨日の三十五人の診察にぐっすり眠りて心地よき目覚め


この先も少子化すすまば『母の日』はいずれ名のみか三十世紀


雨を受け小手毬の花のいづれもが頭をしだれり叱りもせぬのに


「しやくやく」と言ひたがへやすき石楠花が芍薬のそばで今年も咲きをり


花終へし満天星の剪定に星型を訊ふも妻は却下す


古より「夫唱婦随」の言あるも妻をたてての夫婦安寧


石楠花の妖艶なる花弁は匂ひたち「桃色吐息」で虫らを誘ふか


「太陽のタマゴ」とうたふマンゴー二個。子らに感謝し仏壇にそなふ


ネットくじ今日もハズレと思ひきやアマゾンカードで百円ゲット!


生協の宅配カタログをながめつつワンピースの色にまよふ妻いとし


書斎から庭のパーゴラ見おろせば黄毛氈のごと木香薔薇咲く


ユーチューブで「東大TV」の講義うけ安田講堂に居る気分なり


見あぐれば青空のもと爽やかに木香薔薇の花さかりなり


雨催ひに九輪咲けるは文目ならむ花弁のなかに網目模様ありて


聴診器を老若男女にあつる日々、その心音にも個性がありて


人類の「進化」といふも一概に「進歩」とはならず「退歩」もあり得


「健生」とふ理念にどうじ津軽にて認知行動療法をせむ


露草と千代萩がたてるさま曇り空みあげて雨を欲るごとし


庭中をバルブで紫蘭は増殖し八手の葉かげに知らぬ顔なり

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