一日一首(令和四年十二月)

師走入り、五センチ余りの初雪に津軽の厳冬いよいよ始まる


裏庭で雪に埋もれし鉢みつけ払ひてやればパセリ株なりき


冬陽あび冠雪(かむりゆき)おとす南天の力強さに「難転」の字うく


「十二月四日日曜」と念を押し「いただきます」と箸をとるなり


朝陽あびこの冬二度目の雪かきて「まだ大丈夫」と腕腰さする


五か月の休養に気力よみがへり医師免許証をじつくりと見詰む


終活を…否、就活をせむとパソコンで履歴書データのコピペに励む


頼られて働けるとはありがたしその日にそなへ医学書めくる


はからずも人新世に生くる身の矜持としての運転仕舞


三年余も日々一首めざし詠みくれど三十一文字は老いの繰り言


内館牧子著『老害の人』を読み反駁しつつも自省してをり


電線をはげしく鳴らしし吹雪やみ「さあ雪かきだ」とコーヒー飲みほす


「降ったね~」と声かけあひて雪かきす津軽の冬の常なる情景


新聞の配達バイクの一筋の轍にそひて雪掻きひろぐ


融くるはず融けぬはずなしと雪掻けどシャベルに伝ふる根雪の手ごたへ


何しかも短歌よむ気力のわかぬ日は三十一文字に老いの繰り言


ありがたし冬至に雨降り雪とけて松も椹(さはら)もよみがへりたり


南天の冠雪はらへば痩せ枝に蟷螂の卵鞘(らんしやう)冬陽にあらはる


ハワイではブーゲンビリア咲くらしも津軽はホワイト・クリスマスイブ


冬至すぎ甦りたる太陽にかたき雪とけアスファルト出づ


はやばやと後期高齢者の知らせ来ぬ。誕生日までひと月余あるに


赤飯で祝ふことかと妻に問ふ後期高齢間近の我は


日に二度の雪かきだけの老いなれど矜持わすれず医学書めくる


令和四年大晦日に願ふことコロナ禍とウクライナ戦禍の早き収束

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