一日一首(令和四年十月)

笑点の毒舌キャラなりし楽太郎あの世で早々に襲名披露か


コンバイン音高らかに進めども水に浸かりし稲「不稔」なり


貧しさのなせし所業と人の云ふ「産み落とし」なる響き痛まし


「産み落とし」とふ痛ましき事多くして貧しさのせいとのみ言へざる苦(にが)さ


北からのミサイルアラート鳴り響き頭をよぎる「核の脅迫」


庭に咲く紫露草はしきやし放射能汚染の感知能はともかく


庭草に都忘れの隠れゐて津軽の空を秋風わたる


岩木山はや初冠雪の報を見てヒートテックのシャツ探しをり


七十四歳(しちじふし)の父の写真を眺めつつ四十四歳(しじふし)の我を思ひ出す秋


『天高く馬肥ゆる秋』の故事しりてジェットの音に機影をさがす


時事ネタは爺川柳にと詠みわけて柳号『爺医』のお披露目なるべし


具沢山の味噌汁を御菜に老い二人笑顔にて食(は)む一汁一菜


菊晴れに庭の小菊のさやかなり茜色の花を仏壇に供ふ


救急車のサイレン近づきつと止みて六軒先の爺の顔うかぶ


訃報欄に師の名を目にして蘇る新米医たりし小恥ずかしき日々


富有柿を四等分せしに甘すぎて我は一つ食べ妻が三つを


『柳多留』を岩波文庫本で持ち歩く心地は令和の柄井川柳


霜降を前にゴーヤーの棚を処分、生りし三十余の実に感謝しつつ


冷やかしで見切りの鉢植え探せども時期尚早かまだ半値なり


三枚の葉書に川柳三十句、しばらく紙面の投句欄たのしみ


〈ほととぎす〉咲くと鳴くとでおほちがひ杜鵑(はな)は日陰に不如帰(とり)は樹上で


〈ほととぎす〉といふは鳥と花がある、花の苗もらひ鳥を恋ふなり


川柳十句はがきに記し集配に間に合はせむとポストへ急ぐ


ふくらんだ蟷螂の腹に秋陽てる産卵ちかき霜降の朝


寒き朝ベランダおほふ初霜は日差しにとけて時計のごとし


木漏れ陽に花の紫きはだたせ鳥兜二輪あやしげに揺るる


三陸の岩肌這ひゐし浜菊が十年余すぎて津軽で花咲く


時雨なれど林檎畑に藤村が「初恋」の詩のうかぶ記念日


十月の三十日今日は時雨たり藤村詩『初恋』にちなみ「初恋の日」なれど


白皿にきんきの煮つけの赤はえて老らの卓もたまの贅沢

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