一日一首(令和四年四月)

四月一日、淡雪おほふ庭ながめエイプリルフールの真偽を思ふ


気合入れて朝刊にフェイク・ニュースをさがすなり今日は四月一日なれば


陽だまりに水仙びつしり芽吹きをり軈(やが)て白と黄の花ひしめかむ


陽だまりの雪囲ひ外せば亡き友の形見の棕櫚の緑々(あをあを)とせり


ある媼のレントゲン写真におぞましや胸水に浮かぶ肺腫瘍の影


利尿剤と酸素吸入の効きたるや媼の唇徐々に朱を帯ぶ


病得て個室に移りし媼にはひと日ひと日の安らぎあれな


勝手口にリンゴ箱ならべ土を入れ何を蒔こうかキッチンガーデン


‘清明’の四月八日に雪降れど一年生らの黄帽子は跳ね


鳥曇(とりぐもり)のもと冠雪の岩木山あはき斜陽を光背にうかぶ


花曇りの温き風吹く庭に出て妻は草取り我は耕す


ベランダにテーブルと椅子二個ならべ庭ながめつつカフェで語らふ


縁側わきの藤を植ゑ替ふ庭縁に沿うて白花の屏風たれと


タウン誌の編集者からのお墨付き「面白かった」で二作目を書く


「小説はなんでもあり」との言(げん)あれば書かむと思ふ老いの繰り言


深き雪に耐へしクリスマスローズらは春陽に誘はれ白き花もたぐ


家々の庭に植はるる木蓮の白き花らは雪洞のごとし


雪どけにダム放流されし岩木川の水増し護岸に逆巻き流る


生垣の椹(さはら)の古枝ら切り除(と)ればミツバツツジに春風かよふ


古希過ぎし妻の誕生日おもひだし味噌汁のみつつ「おめでとう」と


連翹の枝にびつしり花のつき囀り交はす黄の小鳥とも


春陽あび土手に水仙の黄毛氈はるか岩木山に残雪まぶし


岩木川の岸辺の葦牙(あしかび)睥睨して土手に桜の咲き始めけり


猩々袴、別名ジャパニーズ・ヒヤシンスが松の根元にひそやかに咲く


催花雨やみ庭の花々に誘はれて妻ハサミ持ち吾はスコップを


沈丁花の香れる庭にて妻とふたり草を取るさへ楽しからずや


庭先の手水鉢(てうづばち)脇の木瓜(ぼけ)の若木なに色の花を咲かせたるにや


白き花まとふ雪柳の細枝の揺らめくさまに春風の見ゆ


球根を土竜に齧られても黒百合の蕾はふくらむ催花雨のなか


二年ぶり月刊『弘前』への連載に「ごきげんね」とぞ妻もよろこぶ


三月(みつき)ごとのデンタルケアを受けたれば足取り軽し春風のなか


自転車を連ねてつきし墓地公園の我が更地には桜吹雪まふ


妻のあと自転車連ねて墓地公園へ。墓の予定箇所に桜吹雪まふ

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