一日一首(令和四年二月)

3Gサービス終了を潮時にケータイ無用の気儘もとめむ


大雪につぶされし小屋が道ふさぎタクシーは大きく迂回させらる


節分の朝(あした)はややに陽も強く庭の冠雪ゆるむ気配す


「立春」とふ語の響きよく元気が出て朝焼けの中を職場へむかふ


不意を衝き地吹雪しまきて津軽路は立春の日のホワイトアウト


介助にて「思いやり」とふ巧言の裏に「効率化」の見え隠れせり


雪の壁を僅かに掻きて汗かくも道ひろがらず春早く来よ

 

はやばやと二月初旬に雛人形かざる妻の背に娘(こ)らへの慈愛


「ありがとう」を笑顔でくりかへす妻に対(む)き小声でかへす「ありがとう」と


愚痴言はず感謝の日々を経しのちは「ありがとう」と告げむ縦(たとへ)惚けても


感謝のむた心穏やかな老いの日の早く来たれと凡夫の吾は

 

世のなかに博覧強記の者あれど知識を生かす知恵あらざれば


知識と知恵、似て非なるものなれただ単に博覧強記といふは寂しき


企業たるマスメディアゆゑの煽り記事。それと見破る眼力がいる

 

長男の四十八歳の誕生日けふ若き産科医たりし日々よみがへる


職場でのバレンタインの義理チョコさへ煩はしかる心の綾の


氷点下さへ立春すぐれば「春寒(はるさむ)」と詠みて春恋ふ風流人たち


百二年の人生閉じし媼には銘酒『天寿』を奉りたし


春陽あび冠雪はらひに深雪の庭を歩みて腰まで踏み抜く


当世の鉄面皮らに贈りたき「名こそ惜しけれ」武士ならねども


節気「雨水(うすい)」、変り目となり窓を打つ地吹雪さへも湿り気はらめ


近頃は新聞下段の黒枠のお悔やみ欄に「医師会」ならぶ


女學校のアルバムにみる十六歳(じふろく)の母のセーラー服姿まぶしかりけり


雪道の吹き溜まりに軽トラはまりゐて二月下旬は冬の掉尾なり


天皇誕生日、降りやまぬ雪に埋(うづ)もれて温き部屋より呆(ばう)と眺むる

 

『この国のかたち』に込めし司馬遼太郎の遺言のごとき思ひ身に染む


コサックの末裔なるやウクライナ。懐かしき歌「ステンカラージン」


軍刀をたづさふる父の写真(うつしゑ)に感慨ひとしほ 故に我在れば


雨しぶき雷(らい)とどろきて春の幕開きたり三月に間に合ひにけり


一億五千万キロ彼方より射す陽に溶けて雪はちりちりと幽(かそ)けき音(ね)をあぐ

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