一日一首(令和三年九月)

通勤のタクシー五十分かかれども一首詠むにはちやうど宜しも


通勤のタクシーより見るバス停名「下青女子」は「しもあおなご」とふ


岩木山の裾野を通へば「船沢」とふ地名のありてその由来あやし


パーゴラに木香薔薇を誘引せり。「早く育てよ黄色の日よけ」


涼しさも程が過ぐれば「寒い」と言ふ。はやダウンベストの心地よき秋


タクシーのエアコンは早や暖房に。月曜の朝からまどろむほどなり


草の露白き候なり我が庭に小さき花ども競ひて咲けり


タクシーの荒き運転に五十分。ストレスためて仕事にむかふ


強き雨に頭を垂るる稲穂たち今年の米は大安値とか


くりかへす誤嚥性肺炎の予防にと半夏厚朴湯を自家薬籠に


また誤嚥!ポジショニングと食支援さらに薬の調整をせむ


秋晴れに庭ながめつつ本ひろげ医師脳(いしあたま)にも知識つめこむ


誤嚥性肺炎と誤嚥性肺臓炎とは似て非なり。病態みきはめ治療いたさむ


ストレスにならぬやうにと気をつかひストレスためて腹いたみたり


けなげにも実を十個余も細き枝につけて林檎の若木立つなり


昼下がり腹病みてわれはタクシーに乗り込む後(あと)を同僚に託して


腹いたみて旧友営む内科医院へ駆け込めば院長名はその息子(こ)の名前


澤田内科医院の元院長は旧友にて診察にたちあひ我をいたはる


若院長の内視鏡診察たくみにて「胃も大腸も異常なし」とぞ


最悪は大腸への膵臓癌の浸潤なりCT検査はそを否定せり


痛む腹のポツンと赤き膨疹は帯状疱疹 パラシクロビルにてよろし


ノートパソコンに大型モニターを接続し何かと便利 敬老の日に


ひむがしの地平にうかぶ十五夜の柿色の月に快癒を祈る


ヘルペスの痛みうすらぎふと浮かぶ「薄皮をはぐやうに…」とふレトリック


病むゆゑか浮かぶ一句は「虫の音の短調に変はる秋彼岸」など


柿色の月に届けと紫の十五夜草は芒と競う


秋陽あび散歩がてらの通院に「病は気から…」と汗ぬぐひをり


亡き父の半纏みつけ羽織りたり朝の寒さに父のぬくもり


病癒え十日ぶりにかよふ津軽路は刈田ひろがり林檎はたわわ


寒き朝わが出勤を待ちゐしごと逝きし媼のおだやかなる顔


空覆ふ鱗雲のした岩木山の紅葉すすみ朝の陽(ひ)に映ゆ


夕やみに藁焼きの煙たちこめてシルエットさへかすむ岩木山

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