一日一首(令和三年六月)

梅雨模様にアロマディフューザーを片づけて近づく引越の準備を急ぐ


アンテナをたたみて暫し閉局す津軽の空へCQ発信まで


じりじりと朝日にあぶられ十階の階段昇降す 朝飯うまし


勝海舟の「毀誉は他人の主張」にして「我与らず」との言まこと同感


‘候’は芒種、早苗の並ぶ水張田(みはりだ)に綿雲かづく岩手山うつる


老ゆるほどユーモアと笑みの大切さしみて思へり怒りは忘れ


荷造りの「バブルラップ」とふ名を忘れ妻は電話で「プチプチ」と言へり


JOC経理部長の死のかたる東京五輪の闇のふかさよ


うちあげられしマッコウクジラの胃の中に30キロものプラスティックありしと


日時計の影は時刻を示せども〈漏刻〉の水嵩は時間ならずや


施設長の四年八か月を感謝して〈老健カルモナ〉の弥栄を祈る


ぶつぶつと不平もらすも荷造りを共同作業するわれら老夫婦


〈盛岡タイムス〉へ最終稿出し初稿より二年半余のおもひでに耽る


あらかたの食器はすでに荷造り済み卓上の皿は常に変はらず


すさまじき雷鳴のあと夜の明けて岩手山に積乱雲たつ


雷神は二日つづきのお勤めでさすがに今日は充電中か


金(かね)のため何がなんでもやるさうな。東京五輪、否コロナ五輪を


ナイーブな民の心をもてあそぶトーチキスとふ五輪の儀式


切り戻して段ボールに詰めし鉢植の枝より若葉がすでに出でくる


父の日にふと思ひ出づわが父を老衰死なりと診断せしこと


目覚むれば夏至の暁あかるかりもそもそ起きてトイレに向かふ


岩手山に高速バスより分かれ告げ津軽の我が家へ帰りなむいざ


なつかしき〈東奥日報〉を購読し津軽のくらし今日より始む


盛岡より伴ひし蝋梅一鉢が津軽の地にても根付くを祈る


梅雨晴れの庭には花々咲きさかりわれらが帰りを待ち焦がれゐしごと


わが庭の陽だまりに植ゑし棕櫚ながめ陸前高田の亡き友を憶ふ


故郷への引越しを機に断捨離し終の棲家は「あんづますぐ」なる


薫風にレースのカーテン緑(あを)くゆらぐ吾が淹れしカフェの香りとともに


つがる市の「えんじゅの里」なる老健が終の勤めぞいよいよ始まる


気ばらしに庭の草とり収穫せし蕗は煮つけで箸休めとなる

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