一日一首(令和三年五月)

静岡の義姉より届きし茶を飲めば「八十八夜~」と唱歌の浮かぶ


コロナ禍のステイホームの徒然にキンドル濫読エッセイ起筆


雨つづく黄金週間の中日(なかび)には『憲法入門』を読破せむとす


唐突に「五月四日は何の日」と問はれて詰まる〈みどりの日〉とぞ


立夏の候、けなげに泳ぐ鯉のぼり。岩手山ではまた吹雪とふ


二年後にはコロナ禍も去らむ五月六日金婚式を祝ひたきもの


「歴史的仮名遣ひ」と言へば大仰なれど旧かなづかひにて作歌を続けむ


笹蒲鉾かめば筍コリコリと朝餉に愛であふ小さき春を


〈母の日〉は五月の第二日曜なり。〈こどもの日〉とは付かず離れず


子らからのプレゼント届き忽ちに妻の顔から母に変りぬ


淡々と聞きながしをらば世に在りて諍ひのなくのどけからまし


コロナ禍に免疫機能たかめむと日に三度(みたび)九階までの階段昇降


朝日あび階段昇降しておけばメラトニン増し深き眠りも


十階を昇降しつつ短歌詠めばボケ予防にも恐らくならむ


ベランダに鉢植ならべ雨まつも予想外れてジョウロ(如雨露)雨降らす


夫婦とは斯くあるべしと得心し生物多様性を修めをるなり


雨催ひに鉢植どもを切り戻しひと月先の引越に備ふ


老医われ終の職場に選びしは〈介護医療院〉ふるさと津軽の


小倉謙著『砂の上の精神医学』を読了しその論鋒の鋭さに目眩す


引越の日取りも決まりいそいそと準備に精出す妻の肩揉む


今にして一億五千万円関知せずと自民幹部らはや保身に走る


麦雨ふり小満の候となりたれど新型コロナますます勢ふ


也有翁が『鶉衣』を眺めつつその諧謔的生活を推察しをり


引越の見積すめば大量のパンダマークの段ボールの束


今朝も又ものぐさ短歌教室の子弟の遣り取りにくすりと笑ふ


妻手配のシモンズ・ベッドに目覚むれば雲上人のごとき心地す


シュレッダーはザーザザーザとかみきるも老健施設長の五年は散らず


隠居せしパソコンたちのOSをリナックスに替へ再雇用せむ


介護医療院より「白衣」の希望の色きかれ「紺」と応へき奇妙な応答


老医われダイバーシティに寄り添ひて「女性老年内科」を掲げむ


衣更へに引越かさなり荷造りの段ボール箱の山は壁なす


録画してオンディマンドで快適にコマーシャル飛ばしテレビ視聴す

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