【あとがき――という名の簡単な解説】



 はじめましての方ははじめまして、そうではない方はいつもお世話になっております。

 吹井賢です。


 こちらの『思わせぶりで、●●な先輩』は、第1回「G’sこえけん」音声化短編コンテストに応募するために作成した短編です。二日で書きました。……『押し掛け彼女な僕の後輩』のあとがきでも同じこと言ってますけど、嘘じゃないですよ?

 正直なところ、この作品は完全に吹井賢の趣味の産物であって、こえけんのコンテストに出すようなものじゃないと思っていたのですが、その旨を友人に話したところ、「それは『うるせェ!書こう!』でいいんじゃないの」と言われたので、じゃあやるかー、というノリで執筆しました。読まれた皆さんがどんな感想を抱かれたかは分かりませんが、少なくとも、書いている吹井賢は楽しかったです。

 あ、忘れないうちに言っておきますと、今回のテーマソングは『101回目のプロローグ』です。


 解説と言うほどの内容でもないのですが、この作品は「一つ年上の先輩との恋の話」であると同時に、ボイスドラマ形式を利用したミステリです。“僕”の性別が女性と分かってから前半部分を読み返すと、それとなく仕込まれた伏線に気付いていただけるんじゃないかと思います。

 「好意に値するよ。好きってことさ」という、カヲル君の台詞をパロディとして出しているので、勘の良い方なら、そこで同性同士の話だと分かったかもしれませんね。まあ、だからってカヲル君がシンジ君に抱いていた想いが恋愛感情だとは思いませんが、その辺りの機微は、この作品も共通です。


 一応、女子同士の恋の話ではあるのですが、“僕”から“先輩”に対するアプローチは独特と言いますか、「女である私が女である先輩を好きだなんて変じゃないだろうか?」という不安が根底にあって、思わせぶりな“先輩”は、その心情をなんとなく察しているからこそ、「誰しもが、誰かに恋した瞬間、それまでの常識が壊れてしまう」という風に、随所でフォローを入れています。

 明確に拘ったのは、「女らしい」「男っぽい」というような言葉を、極力使わないようにしたことですね。“僕”の独白で使っただけじゃないかな?

 吹井賢は規範や固定概念が嫌いな人間で、こと恋愛においては特にそうです。“僕”は、当初(≒中三の頃)、同性である先輩を好きになったことに困惑します。そして、「男っぽくなろう」と考え、一人称と口調、態度を男性的なそれへと変化させます。しかし、男っぽく振る舞ったところで性別が変わるわけではなく、「人は異性に恋をするもの」という常識からは全く逃れられていません。そこで、“僕”は「男の子ではなく王子様になりたかった」と結論を出しますが、この時点でも、「Aに恋をするのはBでなければならない」という枠組みから抜け出せていない。単に、“男子”を“王子様”に、“女子”を“お姫様”に置換したに過ぎないのです。

 まあ、考えてみれば当然ですよね。同性のカップルだからと言って、一方が女っぽくて、他方が男っぽくなければいけないわけがないのですから。


 そして、“先輩”は、“僕”の心情をなんとなく察していたからこそ、“僕”の在り方を否定すると共に肯定します。「きみはきみであるだけで大切だ」という言葉は、“僕”を肯定しながらも、“僕”が選んだロール(≒『役割』。ここでは「男っぽい態度」のこと)、恋愛における努力を否定しています。ただ、恋愛における努力に関しては、「恋をすれば誰でも変になる」「自分を殺すような恋路は好き」と明言しているため、否定する前に肯定をしているのです。

 ……ややこしい言い方をしてしまいましたが、即ち“先輩”の側は、どんな“僕”であろうと後輩として大切に思っていたわけです。女の子らしい“僕”も、男の子っぽい“僕”も、どちらも好きだったのです。

 しかし、その『好き』という感情がどういう意味か、“先輩”も結論を出せなかったため、「もし気持ちが変わらなかったら、また告白して欲しい」「それまでに自分が抱く感情の名前を考えておく」と伝えて、物語は終わります。


 書き終わって分かったのですが、結局のところ、「思わせぶり」だったのはお互い様であったのでしょう。けれども、思わせぶりなだけでは関係は進展しない。だから、独白にもあるように、“僕”が本当に変えるべきだったのは、内気で自信のない内面であり、必要だったのは、男っぽい口調とか王子様っぽい態度ではなく、言葉にした想いです。

 「少しばかり遅すぎた」――それが全てなのですが、それだけでは寂しいので、テーマソングとして設定した『101回目のプロローグ』から歌詞を引用して終わりましょう。


   君だけでいい 君だけでいいや いたずらなプロローグを歌ってる

   約束は小さくてもいいから

   よろしくね

   はじまりだよ


 この作品が、皆様の一時の楽しみになれば、それが作者にとって最高の喜びです。

 それでは、吹井賢でした。


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思わせぶりで、●●な先輩 吹井賢(ふくいけん) @sohe-1010

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