第8話

 植物図鑑は、冒険者に売れた。今いる、辺境とはいかないまでも小さな街で売れると、噂となり、王都での販売となる。


「十万部突破ですか……」


「採集の必須アイテムになりました。農民が、子供のころから学ぶ知識を、絵付きのとっても分かりやすい資料にしたんです。貴族学校で、教科書にするという話も出始めたくらいです」


 ……止めて欲しい。漫画本を教科書にするのは。


「ねえ、ユージ。主人公のモデル料とかないの?」


 出版社の人と話しているんだけど、シーナさんの店を使わせて貰っているので、シーナさんも話を聞いている。


「……主人公のモデルは、十代半ばの少女ですって。私の前の世界では、そのくらいの年齢の主人公が、一番読まれていたんです。大体、名前だって違うじゃないですか」


「ふ~ん。まあ、いいんだけどさ」


 シーナさんも大分儲かっているはずなんだけどな。なににお金を使っているんだ?


「それで、次なのですが……」


「私は、『知識になる漫画本』をシリーズ化してみたいと思います。一度の成功ですが、後二~三回位なら読者から似たような反応を貰えると思います」


「ふむふむ……」


 ここで、編集者が、魔法を使った。ペンが自動で動いている!?


「それ……、魔法ですか?」


「『自動筆記』の魔法ですね。無属性で頭に思い描いたモノを、念動力で発現する……。初級魔法ですよ?」


 そんなモノがあったのか。

 小さな『火』や『風』を生み出すより、よっぽど使い道があるな。


 私は、右手の炭で汚れた指と、左手の火傷を見た。


「ちなみにですけど、この世界には、怪我を瞬時に癒したり、手足欠損を復元する、魔法や薬品はありますか?」


「ないですよ? 転移前の世界ではあったのですか?」


「幻想のアイテムで、ポーションとエリクサーがありました」


「ほ~、そんなモノが……」


 自動筆記のペンが、激しく動く。


『秘薬とか霊薬になるのかな? それはないんだな。そうすると、ポーションを求める物語は、読まれそうだな』


 口には出さない。

 覚えておく程度に留めて置く。



 編集者が、帰って行った。


「それじゃあ、仕込みを始めますね」


「今日の料理は?」


「ミートスパゲッティにします。ジャンヌさんが、差し入れしてくれた肉を使いたいので」


「ユージは、何時もジャンヌだね~」


「お世話になっていますから」


 さて、タマネギのみじん切りだ。包丁一本だと時間がかかる。簡単に作れる道具とかは、まだ見かけていない。

 ここで、ふと思いついた。


『自動筆記……。包丁にも使えないかな?』

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