第7話
今日も今日とて、忙しい。
一日、百人分の料理となると、もう一人では限界だ。
だけど、シーナさんの店の大きさもある。厨房が狭いので、料理人は増やせない。
ウェイターは増やせるけど。
待っている客は、私の『漫画本』で時間を潰しているので、今のところ料理が遅れてもクレームは来ない。
つうか、長時間居座っている奴! 席を空けろよ!
シーナさんには、開店資金の援助の話も来ているらしい。二店目だな。
だけど、シーナさんはこの店に拘っている。店の改造も拒んでいるくらいだ。
なんか思い入れがあるみたいだな。
そうなると、私にオファーが来る。
一番驚いたのが、王城での専属シェフの話だったな……。
自炊していただけの私には、そこまでの料理の知識はない。つうか、定番料理のレシピしか知らないんだけど?
お姫様が、私の『漫画本』のファンらしくて、サインだけして帰って貰った。
それと、私はお金を使わなかった。
凄い勢いで溜まって行く資金を見て、ため息が出た。
そして、欲しい物が思いついた。
「王都で流行っている。『漫画本』……。読んでみたいな」
商人の護衛を行うという、店の常連の冒険者に頼んで、あるだけ買って来て貰うことにした。
楽しみにして、待っていたのだけど……。
「……私の異世界転移前に読んでいた漫画じゃん」
売れている漫画本は、予想通りだった。
ただし、絵がとても上手い。そっくりといって良かった。
◇
休日に、王家で買って来て貰った『漫画本』を読む。
「やっぱ。面白いな。私の書いた漫画本とは売上部数の桁が違うんだろうな……」
そして、気になった。
「ストーリーはいいとして、コマ割りとか、細部に違和感を感じるな。完全な再現じゃない?」
理由は分からないけど、そのまま読み進めた。
読み終わった本を、お店の本棚に置く。
ここで、シーナさんが来た。
「うん? その本は、ユージの本じゃないね? 買ったのかい?」
「王都に行く冒険者に買って来て貰いました。読み終わったので、店に置きますね」
「……あんまり読まれないよ? 本屋でも、ギルドでも埃をかぶっている。一時期は、流行ったらしいけどね」
え……?
「面白くないんですか?」
「飛ぶ斬撃なんてあるわけないじゃん? それで、山を切断して谷を埋めたとか。
魔法で大爆発を起こして町を消した話は、魔法使い何百人分の魔力だよってのが、私の感想だね。
剣聖も、魔聖も発現できないスキルを見せられて、なにが面白いんだい?」
魔法のある世界での、強さのインフレか……。パワーインフレ?
スタート時点では、人気があったのかもしれないけど、スキルのインフレが起きると現実離れして読まれなくなるんだな。
魔法のない世界での、想像力勝負……。それを、魔法のある世界で披露するとそうなるのか。
まあ、この世界の漫画家もそろそろ気付くだろう。
『私の前世だと、努力せずに100メートルを8秒で走る奴がいたら、そりゃ、しらけるよな。
ドーピングに近い感覚になるのかな?
チート……、その意味と披露する世界……』
考えさせられる話だな。
「それと、ユージ。植物図鑑の発行が決まったよ。こいつは、印税が凄そうだね!」
実用書としての価値は、認めて貰えるんだな。
「書き直し部分は、ありますか?」
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