第7話

 今日も今日とて、忙しい。

 一日、百人分の料理となると、もう一人では限界だ。

 だけど、シーナさんの店の大きさもある。厨房が狭いので、料理人は増やせない。

 ウェイターは増やせるけど。


 待っている客は、私の『漫画本』で時間を潰しているので、今のところ料理が遅れてもクレームは来ない。

 つうか、長時間居座っている奴! 席を空けろよ!


 シーナさんには、開店資金の援助の話も来ているらしい。二店目だな。

 だけど、シーナさんはこの店に拘っている。店の改造も拒んでいるくらいだ。

 なんか思い入れがあるみたいだな。


 そうなると、私にオファーが来る。

 一番驚いたのが、王城での専属シェフの話だったな……。

 自炊していただけの私には、そこまでの料理の知識はない。つうか、定番料理のレシピしか知らないんだけど?

 お姫様が、私の『漫画本』のファンらしくて、サインだけして帰って貰った。


 それと、私はお金を使わなかった。

 凄い勢いで溜まって行く資金を見て、ため息が出た。

 そして、欲しい物が思いついた。


「王都で流行っている。『漫画本』……。読んでみたいな」


 商人の護衛を行うという、店の常連の冒険者に頼んで、あるだけ買って来て貰うことにした。

 楽しみにして、待っていたのだけど……。


「……私の異世界転移前に読んでいた漫画じゃん」


 売れている漫画本は、予想通りだった。

 ただし、絵がとても上手い。そっくりといって良かった。





 休日に、王家で買って来て貰った『漫画本』を読む。


「やっぱ。面白いな。私の書いた漫画本とは売上部数の桁が違うんだろうな……」


 そして、気になった。


「ストーリーはいいとして、コマ割りとか、細部に違和感を感じるな。完全な再現じゃない?」


 理由は分からないけど、そのまま読み進めた。



 読み終わった本を、お店の本棚に置く。

 ここで、シーナさんが来た。


「うん? その本は、ユージの本じゃないね? 買ったのかい?」


「王都に行く冒険者に買って来て貰いました。読み終わったので、店に置きますね」


「……あんまり読まれないよ? 本屋でも、ギルドでも埃をかぶっている。一時期は、流行ったらしいけどね」


 え……?


「面白くないんですか?」


「飛ぶ斬撃なんてあるわけないじゃん? それで、山を切断して谷を埋めたとか。

 魔法で大爆発を起こして町を消した話は、魔法使い何百人分の魔力だよってのが、私の感想だね。

 剣聖も、魔聖も発現できないスキルを見せられて、なにが面白いんだい?」


 魔法のある世界での、強さのインフレか……。パワーインフレ?

 スタート時点では、人気があったのかもしれないけど、スキルのインフレが起きると現実離れして読まれなくなるんだな。

 魔法のない世界での、想像力勝負……。それを、魔法のある世界で披露するとそうなるのか。

 まあ、この世界の漫画家もそろそろ気付くだろう。


『私の前世だと、努力せずに100メートルを8秒で走る奴がいたら、そりゃ、しらけるよな。

 ドーピングに近い感覚になるのかな?

 チート……、その意味と披露する世界……』


 考えさせられる話だな。


「それと、ユージ。植物図鑑の発行が決まったよ。こいつは、印税が凄そうだね!」


 実用書としての価値は、認めて貰えるんだな。


「書き直し部分は、ありますか?」

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